第45話 また公園で




今日は朝から覚悟が必要な一日だった


自然体でいようとすればするほど意識しちゃってなんも考えれなかった

誰になに話しかけられても頭に入ってこない感じ

こんなんでわたしどうなっちゃうんだろう?なんてずっと考えてた


朝もお昼も花凜ちゃんに「どうしたの? 大丈夫?」って言われたのは覚えてる

そんくらいなんもかんも上の空だったんだろうな


部活も急に顧問が会議とかで来れなくなって自主練になったんだけど ストレッチや筋トレしててもなんかぼーっとしてた 

先輩が今日は好きにしていいから帰りたい人は帰ってねって言ってたけどこんな時にかぎって予定があるから早く帰ってもなぁって感じだった


結局学校を早く出ることになったんだけどこんなだとゆっくり行っても5時には公園についちゃう、なんて考えてた 仕方ないと思ってても公園に足が向かう

ほらね、やっぱこんなに早く着いちゃう 時計を見るとまだ5時を少し過ぎた頃だった…

えっ!?いる!?フミアキが公園にいた

なにをするとでもなくいつものベンチに座って考え込んでるようにも見えた


「早すぎん!? なにしてんの!?」


フミアキを見るなりわたしは駆け寄りながら話しかけた


「おつー 別に…。ずっと家にいたから退屈だったんでな」


それにしても早いだろ いつからいたんだ?


「弟くん、カイトくんだっけ 大丈夫だった?」


まずは気になってたことを聞く


「うん 大丈夫 やっぱ医者に大丈夫って言われるとホッとするわ 今はかあさんいるから安心だしな」


「そりゃね とりあえずよかったね」


ホッと胸を撫でおろす 


落ち着いて公園を見回すとチラホラと人がいた

わたしたちはどんな風に見えるんだろ?なんて考えてるわたし

やっぱり空はオレンジ色してた


「ネオンの方こそ早すぎん? 部活なかったん?」


「顧問が会議とかで自主練だったんよ んで早目に解散したってわけ」


「ほーん」


当たり障りのない会話 間を取り繕う会話になってた

お互い手探りな感じが漂う

いつものベンチに座りながら町を二人して見下ろしてた


「話しあるって言ってたけど…」


不意にフミアキが話し出す

きた! いつ切りだそうかとは思ってたけどなんて切り出せばいいのか悩んでた


「それさ、やっぱおれに先に話させてくれんかな? おれも話したいことあったわけだし」


思いもがけぬフミアキからの提案だった

断る理由なんてないよ…わたしは黙って頷いた


「こないだ言ったこと、引っ越し、転校、ぜんぶホントのことだ」


フミアキは話し出した

ひとつひとつ言葉を選んで正確にわたしに伝えようとしてた


「誰にも言いたくなかったけど、ネオンだけにはちゃんと伝えておきたかった」


「……。」


「ネオンとここで話して以来おれは自分で作ってた壁をとっぱらってたつもりだったから… 少しでも親しくなったみんなに転校するって言って余計な気をつかってほしくなかったし、なにより転校ってことで特別扱いされるのはいやだったから」


「それでもネオンにだけは言わなきゃって思ってた おれのことなんにも知らないまま離れちゃうのはなんかいやだったから」


「なにも知らないってことはないだろ…」


黙って聞いてたけど黙ってられなかった

なにも知らないってどういうことだよって思った


「そうじゃない 他の誰かと同じようには扱えないってことだよ」


回りくどい言い方に思えた フミアキがなに言おうとしてるかはわかんないけど それでも回りくどく感じた


「ネオンが知ってるようにおれは不器用な生き方してきた この年齢になるまでそれは仕方のないことだと思ってた それに気づかせてくれる存在もいなかった だっておれは自分を閉ざしていたから 友だちって呼べる関係ももたなかったから」


「そんなおれをネオンは動かした いつの間にか懐に入り込んでた そんな大きい体してるくせに」


またくだらない冗談言ってる


「何年ぶりだろ?って思った 離れるのが、別れるのがイヤでツラくて悲しくなるのなんて… こうなるのがイヤでおれは友だちがいらないって思ってたって、また思い知らされてる」


「でもな、今までとは違うってのも感じてる

こんな気持ちになれるのも友だちや親しく接してくれた仲間がいるからなんだって思えてる」


「それもこれもネオン、おまえのおかげだ」


なんか震える…震える感情が込み上げてくる

フミアキのひとつひとつの言葉がわたしをたかぶらせる


「前のフミアキだったら おまえのせいだ って言ってそうだよな」


皮肉を込めたジョーク 冗談ってのはこう言うんだぞ? フフッて笑うフミアキを見て思う 





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