第18話 本条くんち 2



「ただいま」


背後から聞こえた声に驚いて後ろを見た

そこにはランドセルを背負っている男の子が立ってた

ひょろっと背の低い男の子

1年生くらいかな なんて思った


「おかえり そのでっけー姉ちゃんすり抜けて入ってこいよ」


本条くんは笑いながら男の子に声をかける

男の子はわたしにペコリと頭を下げて身体を横にしながらわたしの前を抜けて家に入ってく

本条くんのそばに行き小声でなんか言ってる


「だれ?」


「ん、あぁ にーちゃんの学校のクラスメイト 休んでるにーちゃんに学校からの届け物持ってきてくれたんだ」 


「ふーん そっか」


納得してんのかわかんないけど弟くんもじっとわたしのこと見る


「見てわかる通り 弟」


わたしもちょこんと頭を下げて挨拶


「神楽ネオンだよ よろしくね」


そう言ってわたしは弟くんに手を差し出す

握手って意味はわかってても緊張してんのか手を出してこない


右手を差し出したままのわたしと空気感を察知したのか本条くんが弟くんに声をかける


「ほら 握手だってよ 挨拶しとけ」


「よろしく」


やっとわたしの手は握られた

シャイな子なんだな なんてわたしは思った


わたしの手を離すと弟くんはキッチンの方へ走って行き冷蔵庫からお茶を出して飲んでる


【ゴクリッ…】 思わずわたしの喉が鳴ってしまった


ヤバ めっちゃ恥ずかしいんだけど…

聞こえてなけりゃいいけど…

今日の暑さのせいにしなきゃとかいろんな言い訳考えてた


「あー悪い悪い 帰る方向逆なはずなのにわざわざ届け物持ってきてくれたのにお茶も出さんと」


笑いを堪えながら妹さんを降ろしてキッチンへ向かおうとする本条くん

絶対聞こえてるやつだ…失態


「いらないから もう帰るし 気をつかうなー」


なんだか賑やかになった玄関に居づらくなったわたしは帰ろうと玄関の方へ身体を向けた


「カラフル どうだった?」


「え?」


ふとわたしの背中にかけられる声


振り向くとお茶を持って本条くんが立ってた


「苦しかったけどやさしかった 読みやすかった」


わたしは小さな声でつぶやいた

結構前に読んだ本ですぐにハッキリと言える程の感想がでてこなかったってのもあるけど、わたしがカラフルから受けた印象は残ってる

胸をはって言えるような感想じゃない気がして声が小さくなってた


「そんだけ?」


おどけた表情で見てくる本条くん 煽ってんの?


「急に言うし 結構前に読んだ本だし」


なんか悔しい ちゃんと読んだし そん時は誰かにすごく誰かに話したかったの覚えてる


「でもまあ わかる 神楽の感想 そんだけ残ってりゃ充分だろ」


あのねぇ わたしはあんたよりずっと前に読んでるの! 上から言うのやめろ


「神楽の苦しいはきっと登場人物の嫌な面を見せられたってことから来てるんじゃないかな 誰も嫌いじゃないのにそれでも嫌な面を見せられるもんな

それでもやさしい世界があることに気づかされる そんな感想だったとしてもおれは理解できる」


 ⋯⋯⋯く、くやしい 本条くんに言われてること全部わかることがくやしい わたしの言いたいことめっちゃ端的に言いやがって


「やっぱ神楽はガチ勢だわ ほら 飲めよ」


笑いながらお茶の入ったコップをわたしに渡してくる


「ありがと…」


コップを受け取りお茶を一気に飲む

【ゴク ゴク ゴクリ】


「いい飲みっぷりだ さすがですな」


本条くんのこんな顔見たことない 

わたしがお茶飲んでるだけで笑ってる

ほんとはオチャラケキャラなんかな?なんて思う

いつもの無愛想が嘘みたいに


「ごちそうさま ありがと」


飲み終わったコップを本条くんに返す

本条くんがコップを受け取った手を後ろにまわすと弟くんがサッと受け取りシンクに持ってくのが見えた

すごい連携プレイだ! わたしは妙に感心してた


「あげゆ…」


ん? 本条くんの足元から妹さんがわたしに手を差し出してる


「え? あ、あ…」


戸惑うわたしに


「妹が神楽にこれあげるってよ 受け取ってやってくれよ」


よく見ると妹さんの手には飴が握りしめられていた


「ありがと お姉ちゃんもらっちゃっていいの?」


そう言ってわたしは妹さんの手の下にわたしの手のひらを添える


「うん いいよ」


握った手のひらをほどくとわたしの手のひらに飴玉がひとつポトンと落ちてきた

わたしはその飴玉の袋をむしゃむしゃと開けて飴玉を口にほうりこんだ


「うん おいし!」


わたしは妹さんに向けて【べぇー】って飴玉の乗ってる舌を見せた


「お姉ちゃんのベロ おっきいー!!」


キャッキャ笑いながら本条くんの後ろに隠れる妹さん


「お姉ちゃんが大っきいからね! ベロも大っきいんだぞぉーーーー!!!」


わたしがおどけてみせる度にキャッキャと喜ぶ妹さん


「お姉ちゃん にーちゃんより大っきいんだな」


今度は弟くんがわたしに話しかけてきた

わたしが冗談してるの見て緊張が解けてきたみたい

子どもはこうでなくっちゃって思う


「そうだよ わたし大っきい! 正確には背が高い、だけどね!」


「確かに! そうだよね」


弟くんにも少し笑顔が出る

正直わたしの緊張もいつの間にか解けてた

妹さんや弟くんがわたしの手のひらと自分の手のひらを比べてなんか遊んでる


「ママより大っきいー すごいすごい」


とか言ってんの聞こえてるんだから

可笑しくてこっちまで笑っちゃう


本条くんの方見ると彼はプリントに目をやっていた


なにやってだわたし そろそろ帰らなきゃ


「本条くんっ!! わたし帰る!」


ここに来てから一時間が経っていた


「あ すまん、弟たち押しつけてた ごめん」


「ありがとな、いや ありがとう神楽 いろいろ助かった」


プリントをわたしに見せながらかるく頭を下げてありがとうを伝えてくる本条くん

こんな素直な彼初めて見たかも


「うん いーよ! 明日は来るの?」


「金曜だけだけど行くよ」


「そっか んじゃまた明日! じゃあ おじゃましましたー!」


「バイバーーーイ!! またねっ!!」


わたしは弟くん妹さんに大きく手を降って本条くんちを後にした 


いつの間にか長居してしまってた

本条くんとゆっくり話せたのも2度目だな

こないだまでとは随分イメージ違った

めっちゃ良きお兄ちゃんしてた

弟も妹もかわいかった


んで、カラフルについても少し話した

なんかまた読みたくなった

《また読むか》なんて思ってるわたしがいた


でも、なんか忘れてるような気がしてる

本条くんに聞きたかったこと

それがなんだったのか思い出せなくてモヤモヤしながらわたしは家路を急いだ







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