第17話 本条くんち



ピンポーン♪


わたしが想像していた以上に【ピンポン♪】って音だった あんま人んちのチャイムって押したことなかったな…なんて考えながら反応を待つ


⋯あれ 音沙汰なし? これだけハッキリ聞こえてるんだから故障とか鳴ってないってことないよね?


そんなこと考えながら少し待ってみたけどやっぱり反応がなかったんで わたしは『留守かも』なんて思いながらも再度チャイムを押してみた 立て続けに2回も


ピンポ ピンポーン♪


押したタイミングで頭から繰り返されるんだ なんてつまらないことを考えながら反応を待つ


いないとかヤダな また明日ってわけにもいかんし

こういう場合どうすればいいんだ??


なんの焦燥感かわからないものに襲われてた

どうしよ どうすれば なんて考えてると部屋の中から泣き声のようなのが聞こえてきた


『え? 誰かいる?』


わたしの【どうしよ】は更に勢いを増してわたしの頭の中をぐるぐるしてる


泣き声がして少し経った頃 ガチャ って音がして玄関が開いた


そこには部屋着の本条くんが立ってた

本条くんはわたしを見るなり


「なんだ 神楽かよぉ たのむよ なにしに来たんだよ」


「え あ、あの…」


わたしが用件を伝えようとしたとき


《びぇーーーーーん》


さっきの泣き声が大きくなってまた聞こえてきた


「ごめんごめん ちょっと待ってな」


本条くんは泣き声の主をなだめるように声をかける


わたしは全ての状況がわからずただただ立ちすくむ


「あ、あのね 本条くん えと…」


とにかく用件を伝えて今は帰ろうと本条くんに話しを切り出そうとする


《びぇーーーーーん…すん、くすん…》


「わりぃ 神楽 ちょっと待ってて」


そう言って部屋の奥に入ってく本条くん

きっと泣き声の主に関係することだろうと容易に想像がつく… ん? んん??


部屋の奥からなにかを抱きかかえた本条くんがこちらへやってくる

よく見てみると本条くんは小さな女の子を片手で抱きかかえながらこっちへ向かってくる


もしかして… 


「やっと寝ついたのに神楽のチャイムの音で起きちまったじゃねえか」


「え あぁ ごめん…」


なんで謝ってんだろ わたし


「この子は?」


「妹 一番下のな」


「あぁ 妹さん…妹さんね…」


そりゃそうだろとは思ってたけど…


「今風邪ひいててな とにかく寝るのが一番なんだけどなかなか寝れないみたいでな」


「そうだったんね かわいそうに」


本条くんに抱っこされてる妹さんの顔には今泣いた涙の跡がくっきりとついてた


「誰かさんがうっせーチャイムで起こすから…」


ふざけてんだろうけどその目やめろ

もう謝らんから 


「はいはい 抱っこされて泣きやんでんじゃん」


本条くんは適当にあしらって


「よしよし いい子だね しんどいね いっぱいがんばってるね」


わたしは妹さんを相手する

小さい子はやっぱかわいい オトヤよりも小さいな

いくつだろ そんなこと考えながらなでなでしてた

ほんの少し妹さんの表情が和らぐ


「ほーん さすが女子ってわけか」


まんざらでもない表情でわたしを見る本条くん

そんなの気にしてないふりで妹さんに愛想ふりまくわたし 


「で どうした今日は 神楽来るとかあり得んだろ」


「はい、これ」


そう言って鞄から取り出した数々のプリントと先生から渡された封筒を本条くんに見せる


「あ そういうこと ごめん そこの下駄箱の上に置いといてくんない?」


「そういうこと以外にないだろ わたしがここに来る理由なんて」


わたしは本条くんに言われた通り下駄箱の上にプリントを置きながら質問する


「ずっと妹さんの看病で休んでたの?」


「そういうわけじゃないんだけどな 最初うちに風邪持ち込んだのおれなんよ 週末熱出てた 妹に伝染したみたいでさ 母親も仕事してるし風邪ひいてるって言ってもおれのが動けるから。自分も休みつつ妹も診てって感じかな 今は二人とも元気だけど今日は念の為って感じで休んだ」


『なんだ こいつ喋るじゃん どうなってんだよ』


本条くんの説明聞きながら全然ちがうこと考えてた

ここんとこの本条くんの態度が発端だけどな


そんなわたしの気持ちを知ってか妹さんがこっちをジーッと見てる どうしてちびっこの視線て全てを見透かしたような気がするんだろ


《 ニカッ 》


わたしはわたしを見据えてくる妹に向かって思い切り笑ってみた つられて妹さんの口角が上がる つられてニカッっとしそうになった自分に気づいてまた無表情を繕う妹 その仕草がおかしくて爆笑してしまった

そのわたしにつられて妹もケラケラ笑う 


「なんだ どうした!? 急に」


二人して笑ってることに戸惑う本条くん

目を丸くして不思議そうな表情してる

わたしはその表情が可笑しくてまた笑う

わたしと妹さんのやり取りは本条くんから見えてなかった 

笑いながら見るともなく目に入ったテーブルの上に黄色い表紙の文庫本が見えた

見覚えのある色 まっ黄色の文庫本


【なんだっけかな たしか】


思い出せないのが悔しいけど 聞くに聞けん…

そうしてるわたしに


「めざといやつだな」


わたしの視線と考えてることに気づいたのか本条くんがにやにやしてわたしを見てる


「カラフル 森絵都だろ」


そう! それだ!!! 


「うん それ! スッキリした」


「ひとんちジロジロ見んなよな しかもよりによって本とか」


妹とさんと一緒になって笑う本条くん

その二人の笑顔がやっぱ似てた

兄妹だな、なんて二人のこと見てた

あんなに黄色いカラフルは雑多な景色に溶けてた






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