第3話 踊る男、霊の女
一条との心霊スポット探索、それは一人の警察官との出会いで台無しになったと思いきや、俺の心中は穏やかではなかった。
そして、その嫌な予感は一条と帰り道の道中に起こった。
目の前に現れた異様な人、それは、徐々にこちらに近づいてきていた。
その人は、まるで踊っているかのように手足を動かしており、彼のむき出しになった手足はどこか赤くただれているように見えた。
そして、踊り狂う男をよく目を凝らしてみると、彼は患者衣を身にまとっていた。
それにしても、踊りというにはあまりに不出来な動きは、まさしく狂人と呼ぶべき存在に思えた。
この場が心霊スポットであることから、悪戯心を持った愉快犯であればまだいいのだが、見ている限りそのようには見えない。
何より、現在進行形でパトカーを取りに行っている警官の様子と照らし合わせると、まるで何かしらの事案が起きていて、それに俺達が巻き込まれない様にわざわざパトカーを取りに行ったようにさえ思えてきた。
すると、一条もこの異常事態に恐れを感じたのか、おびえた様子で俺に身を寄せてきた。
「ね、ねぇ山藤君、あの人何?」
「・・・・・・たぶん、こういう時に一番出くわしたくないタイプだな」
「な、なになに、どういう事?」
「実は、この付近には精神病棟があるのを知ってるか?」
「え、そんなの知らない」
「この辺りじゃ、定期的にその精神病棟から抜け出す患者がいるのは有名な話なんだ。そんでもって、その患者が起こす事件が度々報告されている」
「じゃ、じゃああの人がそうだっていうの?」
「服装だけ見ればそうかもしれない」
「っていうかさ、なんであの人踊ってるの?」
「踊っているというよりは、喜んでるのかもしれないな」
「喜ぶって、どういうこと?」
「重度の精神疾患をもつ患者は、院内のベッドで拘束される事もあるらしい。そして、そこから脱出した時に抑圧からの解放と持病の精神疾患が重なり、異常なほどの高揚感で奇行に及ぶこともあると聞いた事がある」
「な、なんでそんなに詳しいの山藤君」
「それを知ってたからここには来るべきじゃないって思ったんだが、今日は運のない日だな一条」
俺は、一条の顔を見ながらそう言うと、彼女はすっかり顔面蒼白になっておびえていた。最初の元気はどこへ行ったんだ、全く。
「ど、どどど、どうするの山藤君、こういう時どうすればいいの?」
「まぁ、いざとなったらやるしかないな」
焦る一条に対して、俺はひとまず背負ってる釣り竿に手を伸ばした。
そうして、いざという時に備えながら目の前の狂人に鉢合わせないように、歩道の反対側へと移動する、狂人は進路を合わせてきた。
向こうは手ぶらの様子、やろうと思えば素手でも人に致命傷を与えることはできるがリスクが多い。しかも、相手が興奮状態であればあるほどそれは手が付けられなくなる。
この状況なら、警察官の方向に逃げるというのが最善に思えるが、一条が俊足には思えないし、どうするべきか・・・・・・
「なぁ一条、お前陸上部だったりしないか?」
「帰宅部ですが、何か?」
「足には自信があるか?」
「セクハラおじさんによく「足がキレイだね」って褒められるけど、動かすのは苦手かも」
「・・・・・・そうか」
やはり、逃げるという行為は無しかと思っていた矢先、視界に映る狂人が踊りをやめた。
瞬時に高まる緊張感と、相手の出方に身構えていると、狂人が勢いよくこちらに向かって走り出してきた。
すると、一条が大きな声で叫びながら俺に抱き着いてきた。
「いやぁぁぁっ」
「お、おい、落ち着け」
落ち着く様子のない一条に対して、俺は釣り竿を握りしめて狂人に立ち向かう体制をとった。
こちらに走ってくる狂人は完全に正気を失った様子で何かを口走りながらら向かってきており、俺は恐怖を感じながらもせめて一条だけでも守るべく釣り竿を振り上げた。
すると、ちょうどそんなとき背後からすさまじいサイレンの音と車のエンジン音が聞こえてきた。
それは一直線に俺たちの元へと突っ込んできており、あっという間に俺たちの傍までやってくると、すさまじいブレーキ音と共に停止した。
だが、狂人は構わず俺たちに向かってきており、そいつは俺に向かって襲い掛かろうとしてきた。
しかし、狂人はパトカーのライトで目がくらんだのか、俺たちのすぐ横に転がるように地面にダイブした。
すると、そのすきにパトカーから降りてきた警官が地面に横たわる狂人を取り押さえ始めた。
「この野郎っ、若い子たちになんてことをするんだぁっ」
警官はそんなことを言いながら狂人を取り押さえながら、器用に手錠を取り出すと、あっという間に狂人を逮捕して見せた。
その手際に感心しながらも、いまだ暴れる狂人は「女、女ぁ」という言葉をひたすらつぶやいており、芋虫の様に体をくねらせていた。
激しい抵抗を見せる狂人相手に警察官は苦労する様子を見せていると、狂人が俺の方を向きながら叫んできた。
「女っ、女の霊がぁっ、女の霊がいるぅぅぅっ」
狂気じみた言動にそばにいる一条が悲鳴を上げた。そして、狂人の言葉にどこか俺は違和感を感じた。
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