掻き曇る明け方

知目

帰宅

 暗い、湿った夜道を歩く。街灯のすくない。田舎の住宅街だ。

 今日は疲れた。家に帰ろう。後ろ向きのやる気が私の背中を弱々しく引いた。

その提案は私にとっての本心であったけれど、どうにも足に力が入らなかった。

 昼間の出来事が私の脳に、はらっても、はらっても、何度もまとわりついた。

私が冗談を言ったとき、会話がとまった。他人の悪口に賛同を求められた。

その時、集団は何を考えていたのだろう。私の友達は何を思ったのだろう。

嫌われた?失望された? 明日は彼らと並んで立てるのか。

 どうしようもない疑問がもう一度、投げられる。

 私はそれに「今考えてもどうもできない」とその場限りの返答を反芻し、足を速めようと大股で右足を前へだす。しかし、その大股も十秒すれば元の歩幅へ戻ってしまう。

 安全であるはずの家、だけれど、この家に帰ってしまえば明日、家を出られるのか。いつものように取り繕えるのか。

 不安は頭を黒く、深く塗りつぶした。

 それから、私は誰もいないことを確認して立ち止まり、頭を両手でかきむしった。

とにかく頭蓋を開いて、頭に巣食う悪い虫をすべて吐き出したかった。

続けていくと少しだけ気分が晴れたように思えたから、いつもの笑顔に戻って、再び歩き始めた。

 今日こそ不安を言ってしまおうか。少しだけそう思った。だけど、それは甘えで、親、担任、友達。みんなに迷惑をかけてしまうから、まだ大丈夫。もっとつらい人もいる。

 今日、言うのはやめようと思った。

 前を見ると家があった。深呼吸をして、家での私になる。

 そして私はドアをあけた。

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