ユニコーン入りますか?
翠容
ユニコーン入りますか?
ピーンポーン。
……すいません、失礼します。
少々お時間よろしいでしょうか?
あのー、一家に一頭、いえ、家族に一頭。
ユニコーン、入りませんか?
びっしとした黒の三つ揃い。
髪はオールバックで丸眼鏡をかけている。
まるで執事のような佇まい。
なのに、側には馬――額に角を持つユニコーンたち。
そうおっしゃらずに、聞いてください。
ユニコーンはいいですよ。
ユニコーン、ドヤ顔で前に出る。
早速ですが、ユニコーンの効能をご紹介いたしますと‥
疲れた身体を癒してくれますし、
あっ、心も癒してくれます。
セールスマンはユニコーンの頭を撫でながら、さらに力説を続ける。
それでですね!
なんと、ユニコーンはあなた様の願いを叶えるためのサポート“も”してくれるんです。
ええ、嘘じゃないです。
あなた様が望めば、なんだって手伝ってくれます。
あぁ、もちろん。
人を不幸にするような願いはダメですよ、当然ですよね。
それ以外でしたら、あなた様が幸せになれるよう尽力してくれます。
例えばですか?
そうですね〜、なかなか行動を起こせない方に対しては
後ろ足でね、背中に蹴りが入ることが‥。
いや、えーと、ご安心くださいませ。
ほら、あれ、そう!
子供がよくやる悪戯の、膝カックンと同じです、同じ!
私も昔、自分のユニコーンにはよくやられましたねぇ。
でも、蹴られた後に不思議とそこにチャンスがあるんですよ。
恥ずかしながら、これが妻にプロポーズをするきっかけになったんですよ。
ユニコーン様様ですね。
なんですかねぇ、こういうのツンデレっていうんですかね。
ほら、こういうのは愛情ですよ、愛情表現。
犬や猫も甘えて甘噛みするでしょ?
それと一緒です。
ユニコーンは、同意するかのように、甘えてセールスマンに擦り寄った。
ペットは不可ですって?
そこは問題ありません。
ユニコーンは神獣ですので、ペットではありません。
他人様に迷惑をかけることはありません。
むしろ、人生を導いてくれるパートナーになります。
そうですか。
あっ、はい!
ありがとうございます。
それでは今すぐ、あなた様のユニコーンをお選びくださいませ。
と、いいましても、すでにマッチングはできております。
この出会いは運命なのです。
それでは――
あなた様のユニコーンはこちらになります。
話がまとまったとわかると、
セールスマンの背後にいた一頭のユニコーンは
とてとてと契約者の元に走り寄る。
可愛いでしょ?
こちらは、子供のユニコーンです。
あぁ、ご心配なく。
子供であれど力は大人と同じなので。
お二人で一緒に成長する楽しみが得られますよ。
それではこちら。
契約書とユニコーンについての説明になります。
それから、わからないことがあればいつでもどうぞ。
365日24時間受け付けておりますので。
ふふふ、もうすっかり懐かれておりますね。
紹介した私も嬉しいです。
ユニコーンは安心しているかのように、契約者の膝を枕に眠り始めていた。
はい、それでは。
楽しいユニコーンライフを!
そう言って、男は頭を下げ去っていく。
もちろん、共にいたユニコーンたちも 一様に頭を下げていた。
玄関を出た男とユニコーンたちの足取りは軽い。
風がユニコーンのたてがみをそよそよ揺らしている。
途中、男とすれ違った数人がギョッとしたように男の方を振り返った。
歩く男の後ろには、大きさも、色も違うたくさんのユニコーンたち――
見える人には、ね。
ピーンポーン。
不思議なセールスマンは、今日もどこかで営業トークを炸裂させていた。
いつか、あなたの玄関にも現れるかもしれない――。
あなた専属のユニコーンたちを引き連れて。
「はてさて、あなた様はどんなユニコーンライフを送るのでしょうか?」
ピーンポーン。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
追記:2025/8/26 一部誤字を修正しました。(物語の内容には変更ありません)
…ユニコーンから「そこ、ちょっと違うよ!」と指摘がありました!
ユニコーン入りますか? 翠容 @suzu-yo3
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