第3話

「…なので漸進的筋弛緩法は、まぁ、面接の前とか、緊張する場で行うと、非常に効果があると言われてます。とても簡単にできるリラックス法なので…」


八田は窓側の席に座っていた。もし自分が利口だったら、嫌でも講義を聴いてるフリはいくらでもできる。だがそんな事をするのを拒んでいるのか。はたまた学生が面白い講義と思わせることができない教授への反乱なのか。教授の話すことを忌避するように窓から見える景色をただただ眺めては想いに耽っていた。


そう、八田は高野のことを考えていた。


「どうすれば…」


それは前日の会話のことだった。


……


「次はいつ会おっか」


「俺は土曜空いてる。高野さんは?バイト?」


「ううん、何もない。じゃあその日にしよっか」


「うん」


「どこ行こっか…、まぁそれはLINEとかで、後で決めてもいいし、」


八田は暗い顔をして


「高野さん」


「ん?」


「原因はわからなくても、解決する策はきっと、絶対ある…はずだから、いろいろ試していこう」


「ありがとう。でも…それ以上に、デートのこと!そっちがメインなんだからね!」


「あぁ!ごめん!でも、心配で…だって、もし何かの事で爆発なんかしたら、高野さんが」


「本当に、優しいね。でも、しーんぱーいしないでー!今までしっかり生きてこれたし、核爆弾って根拠は科学的に証明されてません(^ー^)」


「そうだけどさ…」


「その時は、その時ね。一緒に考えよ!」


「うん」


「じゃあ、八田くん明後日ね!」


バイバイ


……

キーンコーンカーンコーン


講義が終わり、学生が一斉に教室から出る。

八田は高野さんの悩みを解決する策を考えていた。


(自分に何ができるんだ?)


じっくり考えたいと、カフェテリアがある棟までの道を、迷う事なく進む。


しかし、その間である高野さんの言葉が八田の足を止めた


【八田さんにあげたのは、私の感情、気持ちに混ざっていた不純物】


…なぜ、高野さんは自分の気持ちと核燃料が融合していたことを知っていたのだろうか。自分でもよく分からないとあの時言っていたのに、目に見えない感情と核燃料に繋がりがある事をなぜ知っていたのか?


また、こんな会話も思い出した


【俺の体に何を入れた?核爆弾?なんか危ないものを入れたのか!?麻薬とかか!?え?!毒かなんかだろ!!!】


【違う!!!!!!】


今まで見たことない高野さんの姿。いや、会ったのはあの日が初めてだったから、それが当たり前なんだけど。だけど、あれは高野さん自身の気持ちそのもの。必死の抵抗のようにも聞こえた。


【私、核爆弾なの】


そして、この告白。【ヤバい女でしょ】とか【怖いよね】とか、変に冷静だったような…。





「まだ、隠してる事、ありそうだな」


八田はそのままカフェテリアへは行かず、大学の正門を出た。


「もっと高野さんのとこ、知らないことにはどうにもこうにも」




【デートのこと!そっちがメインなんだからね!】




「あ」


すっかり忘れていた。俺はバカだ。勘繰ってばかりじゃデートどころじゃないし、高野さんとの関係性も変わってきてしまう気がする。


スマホを開き、高野さんのLINEを開いた


「明日のデート、映画行かない?」


あくまでも、高野さんの核燃料問題は二の次。高野さんと初デートした時は本当に楽しかったし、それに、自分を出せた気がした。互いにそうやってできる関係を築けるかもしれない。それが、自分にとっての幸せかもしれないから。


○●○●○


ドク、ドク。



ドク、ドク。



ドク、ドク。


「…はぁ、はぁ、どうしよ、どうしよ、どうしよ、また、やばい。変に思われてるかも。私が、私が悪いの、、。嫌い嫌い嫌い、こんな自分」


ドク、ドク。



ドク、ドク。



ドク、ドク。


「八田さん、嫌いにならないで」









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キスした瞬間、私は核爆弾になった @kakapipi

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