第3話

 翌朝。江戸城から最北にある中屋敷で、武部は布団から起き出した。昨日の騒動が眠っていたとしても、いつまでも頭にこびりついているので、昨日の黒天狗と出会ってからが、どうも怪しいと思うこともあった。


 自分はやはり請酒屋に入って、酒を飲んだのだろう。居座りしすぎて、とうとう酒屋の店主から追い出され、そこで、帰路につく際に天狗がでる芝居でもした歌舞伎役者にでも会ったのだろう。と、思うことにした。


 なので、中屋敷の玄関で岡っ引きの頓さんが玄関先で武部を待っていたのには、少々面食らったのである。頓さんの家系は、父である宮本武蔵の祖父代々と繋がりがあり、凄腕の十手術の達人でもあった。


 そんな、頓さんでも、細々と情報収集をしているところから、この事件がだいぶ様子が違うことが窺えるし、昨日の天狗騒動がやはり夢なのではなかったことなのだろうとも思える。


「武部さん。あんた今何時だと思ってるんだ?」

「あー」

「お天道様は、とっくに頭上から俺たちを見守ってくれてるんだぜ」

「……お、おう」

「それと、武部さん。道場の男たちと一緒に、今度の大相撲大会には出ないといけないようだぜ。いや、ちょいと出てくれるとありがてえ」

「え? そりゃ一体どうしたのだい?」

「その顔からして、お触れをまだ聞いてないようだなあ」

「??」

「今朝になって、皆が首を傾げているんだよ。かなり厳しいあり得ねえ御布令がでたんだよ」

「? 一体? どんなお触れだ?」

「何人も刀を持ってはならないってさ。廃刀令だよ」

「は? 廃刀令!! それで、なんでおれが大相撲大会になんてでるんだよ!」


 武部は、これはまだ夢なのではないだろうかと、自分が聞いている全てを疑っていた。


「ああ、そりゃ。朝から天狗騒ぎを嗅ぎ回っていたんだがな。どうやら、天下一を決めるその大相撲大会で優勝した者には、その者の組織共々帯刀を許されるんだってさ」


 武部は戦慄した。

 もう夢の方がいい。

 いつまでも、続くような夢の方がいいのだ。


 これは、何らかの罠である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大江戸大相撲大会 主道 学 @etoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説