対抗策の為に
エルフの知られざる側面を知っても疑問は多々ある。そしてそれはネビュラや、亡き母スバルが知っている事とエルクリッドは思いながら賢者ロッソが続いて誘う場所へ仲間達とついていく。
長い廊下を抜けた先は再び大きな部屋、今度は数多の本が敷き詰められた本棚が並ぶ場所である。コスモス総合魔法院の書庫とはまた違う知識の坩堝に真っ先にノヴァが目を輝かせ部屋を見渡し、その様子にはエルクリッド達は微笑ましく見守りながら部屋の中心にある机と、そこにある椅子に座り本を手にとって読んでいる人物に気がつく。
「ほう? このような場所で会うとはな……」
「ルナール様、とクレス様も」
ぱたんと本を閉じながら机に置いて席を立つのは十二星召が一人ルナールであった。傍らには同じく十二星召クレスが目を閉じて本棚を背に佇み、エルクリッド達がルナールに近づいても意に介する様子もなく、しかし携える剣には手をかけていた。
賢者ロッソもゆっくりとやってくるとルナールはなるほどのぅと足を組みながら目を細め、小さく息をついて自分の髪を指で巻いて遊び始める。
「大方アヤセの奴にワシ達と会うついでに調べものをしに行ってこいと言われたのであろう? まぁ、こちらも例の術式の方は完成させられたがの」
「できたのですね、ネビュラの居場所を見つける術が」
「この聖殿の記録を辿らねばならなかったがの……あとは神獣達が鎮まれば動きやすくなる、かの」
エルクリッド達がやってきた経緯を見抜く洞察力は変わらず、タラゼドに答えながらルナールはふふんと気取るように髪を流す。
ネビュラは何らかの術で居場所を隠している。それが明らかになれば一気に仕掛けることもできるが、今は神獣五体が同時に動きを見せて十二星召達が迎え撃つ状態である。
勝敗がどちらに上がるにせよ影響力は計り知れず、それを踏まえた上でルナールは術式についてエルクリッド達にも話し始めた。
「我が術式は各地に楔を打ち込み範囲を指定して割り出すというものだ。その為には安定して陣を作らねばならないが……神獣達が暴れていてはそれも不安定になるでの」
「この聖殿のように位相をずらしているだけならば、そこまでする必要はないのでは?」
術式の内容についてはエルクリッド達はちんぷんかんぷんで、タラゼド一人が理解し話を進めていき、ロッソやクレスもまた理解しつつ二人のやり取りを見守る。
「ネビュラとかいう者はいくつかの術式を組み合わせて特定されぬようにしてるようでの、一つ一つを解いていくよりも乱反射するように術を施す方がよい」
「反響術ですか……それならば大掛かりな準備が必要になりますね」
あぁ、とタラゼドへ答えたルナールは席をゆっくり立つとエルクリッド達へ目を向け、一本に束ねてから九つに分けて結ぶ自分の髪を触りながら服の背中側につけるカード入れからカードを一枚引き抜き、裏側を見せるようにし前へ突き出す。
その意味を理解したエルクリッド達はやや目を見開きつつ、カードを抜くかを少し躊躇う。カードの裏表紙を見せるのは戦いの申し入れ、それがルナールから提示された事は驚きの一言に尽きる。
「術式を行う為にはリスナーの力が必要不可欠……なればお主らにその資格があるか試してやろうと思ってのう」
「ルナール様と、戦えと……」
「そもそもワシが協力したくなったのはエルクリッド、お主の行く末がどうなるか興味をもったのもあるかるのう。断るとは言わせんぞ?」
戦いの提案にエルクリッドは断るとはできないと理解しカードを引き抜き裏を見せて応じ、それに付き合う形でシェダ、リオと同じ事をしてほうとルナールを感心させた。
「仲間達もか、まぁ良いだろう。クレス、構わぬな?」
「……好きにしろ」
お目付け役を担うクレスは特に止めることはせず、次いで賢者ロッソが一人歩き始めこちらへと一同を導く。
導かれた先にあるのは一際広い大部屋であり、リスナーが戦うには十分な広さがあった。
すっとロッソが手をゆっくり上げると壁の周囲に薄い膜が張られて結界となり、次いで手が下がると石造りの長椅子が現れクレスが端に座り見守る姿勢を示す。
「あなたは戦わないのですか、剣の巫女」
「これはクソ狐の戦いだ、手を出す理由はない」
悪態をつくようにロッソに返したクレスの言葉を受けてフッとルナールは笑い、髪を靡かせながらゆっくりと位置へとつく。
次いでエルクリッド達もと動きかけたが、その前にタラゼドが呼び止め振り返らせる。
「わかっているとは思いますが、ルナール様はリスナーとしては確かな実力をもっています。決して油断なさらないように」
「わかっています」
「うっす」
リオ、シェダとタラゼドに答えてからエルクリッドは自身の両頬を叩いて気を引き締め小走り気味に位置へとつく。
ルナール本人の口から、彼女がホームカードを主軸とする旨は聞いてこそいるが具体的にどのようなものかはわからない。そして何より、三人相手であっても特別反応はなく、むしろ余裕綽々といった様子で長い髪を両手で後ろへ回し艶やかに振る舞う。
導かれた先に訪れる試練、それは未来を占うものであるかのように不意に訪れた。
NEXT……
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