策の策

 ザキラがカードに魔力を込めて風に乗せ、カゲロウ神社の結界に弾かれたカードがシャドウホールのスペル効果を発動する。

 リオがいるのとは真逆の北東方向のそれにはすぐにシェダが駆けつけ対応しに行き、だがリオからの情報を既にタラゼドを通して知っている事から距離をとってカードを使う。


「スペル発動スペルブロック! ディオン、気をつけろよ!」


 スペルブロックの効果でシャドウホールが収縮し消えていくのに合わせてディオンが警戒を強め、刹那にシャドウホールより飛び出してくる紫の鱗持つドラゴニュート・ダオレンが切りかかるのに即応し魔槍を突き出しのけぞらせる。


「流石に手練がいると厳しいネ。でも仕事なら仕方ないアルネ、ダオレン!」


 眼鏡の位置を直しながら社への侵入を果たしたヤーロンが意気揚々とダオレンに声を飛ばし、刹那に大刀の毒を滴らせながらダオレンが剣を振り抜き毒の刃を放つ。

 次の瞬間にディオンは魔槍を素早く振り抜いて毒の刃を切り裂きつつも飛散しないようにしてみせ、これにはヤーロンも目を見開く。


「英雄ディオンは流石に部が悪いアルね。でももう少し給料に見合う仕事をしなきゃ意味がないアルよ!」


 ディオンの技術に感心しつつも目に宿す闘志は消えず、ヤーロンが素早くシェダに向かって何かを放つ。

 それが黒塗りの短刀と気づくとすぐにシェダは躱し、しかし一瞬気を取られた事でヤーロンがカードを使うだけの刹那を与えてしまう。


「ツール使用、火炙りの壺ネ!」


 重々しい音と共に出現するのは火竜の頭を模した赤い金属の壺。黙々と赤い煙が吹き出し、やがてそれが床に触れると火の手が上がっていく。

 咄嗟にカードを抜くシェダにダオレンが迫りそれをディオンが魔槍で毒刃を受けて止めるものの、力で押し切られそのままシェダより後ろへと追いやられる。


「シェダ! 目的を忘れるな!」


 振り返る自分に声を飛ばしたディオンの言う通りとシェダは切り替えて前に向くも、その時既に火の壁となりヤーロンも向こう側におらず廊下を走っているのが見えた。

 直後にダオレンもカードへ戻りヤーロンの手に戻り、してやられたと感じつつもまずは火炙りの壺への対処を優先する。


「スペル発動ツールブレイク!」


 壺が砕け散ると共に炎も自然と消えていき、道が開けると共にシェダとディオンが走りヤーロンを追う。

 素直に追いかけるだけでは追いつかないとディオンは判断して手すりを乗り越え跳び、先回りする形でヤーロンの行く手を阻み魔槍を突き出し制止させる。


 じりじりとディオンがヤーロンを睨みつけながら前へ進み、後退するヤーロンの背後からは追いついたシェダが挟み込む形となり追い込む。


「大人しく捕まってもらうぜ」


「アイヤこれはこれは絶体絶命アルネ、困った困った」


 カードを引き抜きながらシェダが言い放つのに対しヤーロンは何処か飄々とし、ぽんぽんと前に出た腹を軽く触れながらわざとらしく振る舞う。


 次の瞬間、ヤーロンのかける色眼鏡の下に鋭さを感じ取ったディオンが足に力を込めて前へ踏み込むも、刹那にヤーロンのいる床を突き破り現れた大シャコ・デウが魔槍を殻で防ぎ止めると素早い鋏の一撃で反撃しディオンを吹き飛ばす。


「ディオン! ちっ、スペル発……」


「遅いネ! デウ!」


 いつの間にか召喚されていたデウに驚きつつもシェダがカードを使おうとするも、それより素早くデウが巨体を使い廊下の柱を圧し折り屋根を落としシェダを狙う。

 咄嗟に下がって避けはしたがカードを使う機会を逃してしまい、さらにそこからヤーロンはデウの背に乗るとカードを悠々と引き抜く。


「コレでワタシらの仕事は大方済んだアルネ。スペル発動、バニッシュスペル!」


 発動されたカードがヤーロンの周囲に白い壁のようなものを作り、次の瞬間にそれが砕け散ると共にシェダはカゲロウ神社の何かが崩れる感覚を感じ取る。

 それが防陣の一つが壊されたものと悟った時には既にディオンがデウ目掛け跳躍し魔槍を繰り出す。が、当たる既のところでヤーロンがびりっと紙をやぶき、刹那に魔槍が空を貫くと共にヤーロンとデウの姿がそこから消えた。


「転送陣を使えたという事は陣を破られたも同じ……! シェダ、すぐにタラゼド殿へ」


「わかってる! もう念話で起きた事は伝えてるよ」


 海面を素早く蹴って廊下へと戻ったディオンの言葉に即応したシェダの見聞きしたものは、陣頭指揮を取るタラゼドとアヤセのところへ伝わり、そこからさらに全体へと伝わる。


 防陣の一部を破壊された事は緊張感を強めこそすれど予想外とまではいかない。その乱れの少なさを遠巻きに見ているザキラは感じ取りつつマリンの背びれを背に足を組んで座り、次の一手を考えながら動くべき時を見定めていく。


(ヤーロンの方は既に仕事を果たした、トリスタンの方はアテにせずに手を打つか……)


 他者を期待して仕事をする事には抵抗はある。しかし依頼とあればそれは仕方ないとザキラは割り切り、静かにカードを引き抜きその絵柄を眺めてから魔力を込めてぽいっと前へと投げるように放つ。


「ツール使用、爆砕の機巧魚」


 放たれたカードから海面に落ちるのは魚の形をした三本の金属の塊。着水と共に尾ビレの部分が激しく回転し凄まじい速さで水を切ってカゲロウ神社へと向かい、海中の柱に命中すると大きな水飛沫を上げながら炸裂し社を吹き飛ばす。


 それが三回起きた事で社全体へビリビリと振動が伝わり、大きな何かが起きた事を一同が理解する。

 その中で真っ先に反応するのはリオと対峙していたトリスタンであり、舌打ちしつつデフィアをカードへ戻すと素早くカードを切った。


「スペル発動アセスフォース! デフィアを選択!」


 前にかざすカードから黒い煙が放たれながら広がり、それが煙幕の代わりにもなった事でリオとローズは交代せざるを得なくなり、その間にさらなるカードをトリスタンがリオの方と社の拝殿目掛けカードを投げ、それが突き刺さると素早くその力を解き放つ。


「スペル発動インパクト!」


 見えない衝撃波がカードより放たれるのをローズが盾を構えてリオを庇って防ぎ、一方で拝殿に刺さった方はその衝撃波で拝殿を崩し半壊に至らす。


 その中を確認してからトリスタンは帽子の位置を直しながら舌打ちし、ここまてだなと呟くと小さな紙を破ってその場から姿を消した。


 殺し屋二人による破壊工作により防陣が弱まると共に、何かを察したローズが外の方へと飛んで海中を高速で進む何かを捉える。

 そのうちの一つを見切り切り裂きつつその場から離脱すると水飛沫が巻き起こり、それがザキラが放つものと察したリオもまた手を打つ。


「スペル発動デュオガード!」


 咄嗟に切られたデュオガードによる結界が海中を進む爆砕の機巧魚を防ぎ、炸裂するそれが結界の前で水飛沫を舞い上げた。

 ザキラが確実にこちらの守りを崩していくことは彼女らしからぬものを感じる。暴力的とも言えるそれは、世界を股にかけた盗賊とは思えぬほどに。


 ゆっくりとローズがリオの元へと戻り翼を閉じ、破壊を何とか免れた社の状態を確認していく。その影に、盗賊ザキラがいるとは知らずに。

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