第2話


第二章 図書館での距離感



放課後の図書館は、いつもより混んでいた。

試験前ということもあり、空席はほとんどない。


亮は教科書を抱えたまま、本棚の間を歩いていた。

目当ての参考書を探していると――


「あっ」


声と同時に、伸ばした手が重なった。

ページの匂いが漂う空間で、亮と璃子の指先が触れ合う。


一瞬の沈黙。

心臓の鼓動が、やけに大きく響いた。


「ご、ごめん」

亮が慌てて手を引く。

だが璃子は顔を上げ、ほんのり赤くなった頬を隠すように笑った。


「いいよ……でも、これ欲しかったの?」


亮はうなずいた。

「試験対策用の本。奨学金返すためにも、いい成績取らないと」


璃子は少しだけ目を伏せる。

「……そうだね。私も、安定した仕事につきたいし」


互いに言葉を選びながら、本を手にしたまま距離を保つ。

その距離は数十センチ。

だけど心の距離は、ほんの少しだけ広がっていく。


「亮くんはさ」

璃子が静かに口を開いた。

「愛があれば大丈夫って、また言うの?」


図書館のざわめきの中で、二人の声だけが透明に響く。


亮は苦笑した。

「……言いたいけど、今はまだ胸張って言えないかな」


璃子は驚いたように目を瞬き、それから少しだけ微笑んだ。

「正直なところ、そういう答えの方が安心する」


二人の間に流れる空気が、わずかに柔らかくなった。


そのとき――。

「お前ら、図書館でイチャつくなよ」

背後から遼の声が響き、二人同時に振り返る。


「ち、ちがっ……!」

亮と璃子の声が重なり、近くの学生たちがクスクスと笑った。


気まずさと恥ずかしさ。

でも、その中にほんのりとした甘さが漂っていた。



第二章・結び


本棚の隙間で触れた指先。

それはすぐに離れたけれど、互いの心の距離を測るには、十分すぎるほどの出来事だった。



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