一杯の酒で人類史と宇宙までつなげてしまう

「星を飲む夜」、とても印象的でした。
居酒屋という日常的な場面から始まるのに、気づけば縄文の口噛み酒からギリシャ・ローマ、中世修道士、海賊やウイスキーまで、人類史を酒で縫い合わせる壮大な流れに連れていかれるのがすごいです。
 さらに、そこに祖父の晩酌や大学時代の安酒の記憶を自然に織り込んでいて、“歴史と個人史を同じ杯で結ぶ”感覚が見事でした。
作者の特筆すべき点は、壮大なスケールと身近な記憶を違和感なく接続する筆力だと思います。
 特に後半、ランプを星に見立て、宇宙を飲み込むような描写へと一気に広げていく想像力は圧倒的。
 最後の「ラストオーダー」で現実に戻る余韻の残し方も巧みで、短編の中に酔いの揺らぎと宇宙的な広がりを同時に体験させてくれました。短くても厚みのある読後感が残る、作者ならではの感性を感じました。