16話
”こんばんは。”
お風呂上りに携帯を確認すると、連絡先を交換した石水さんから早速メッセージが来ている。
“今日は会えてよかった。もっと渡良瀬さんとゆっくり話したいな。どこか遊びに行こうよ。”
“うん。石水さんはどこか行きたいところある?”
やっぱり自分から提案するのは難しいな。もっといろいろ趣味とか、興味のあるものを持った方がいいな。
“実は、見たい映画があって…今度上映する魔法少女の映画なんだけど。そういうのオタクっぽくて嫌?”
ちょうど、つい先日魔法少女オタクと映画を見てきたばかりですよ。シリーズものかな?それとも別の作品かな?怪異に負けないためにも、今の私には彼女たちの明るく前向きなパワーを分けてもらってもいいだろう。まあ見てやってもいいかな。渡辺さんとの話題にもなるし。
“いいよ、一緒に見よう。”
“やった!また連絡するね。”
別に、はまったわけではないです。必要性ありと判断したから。友達との話題作りになるから。私自身オタクになったわけでは、決して…。
だから蒼美もそんなにじろじろ見ないように。
***
「今日も電車遅延してんの?」
「ここ最近毎日じゃね。また人身事故らしいな」
「隣のクラス先生が電車通勤で来れないから1限目自習だって」
「えーいいな」
クラスメイト達の話す話題に耳を傾けていると、確かにここ数日電車通学の誰かしらが遅延していたことを思い出す。席替えをしてもなお私の前の席になった渡辺さんも、今朝はまだ来ていなかった。
と、空の前の席を見ていると勢いよく座る者が現れた。
「おはよ~う真夜ちゃん!」
「おはよう、音色ちゃん」
声の主は他人の席に我が物顔で横向きに座り、私の机に肘をかける。はじめのうちは妙に注目されてしまったが、最近は教室で音色ちゃんが私を大声で呼ぶのは日常的な光景としてクラスのみんなも気にすることもなくなってきたし、自分も慣れてきてしまった。
「クロエちゃんが今日生徒会あるから生徒会室は使うなってさ」
そう言うと携帯の画面を見せてきた。てっきり信楽先輩からのメッセージを見せてきたのかと思ったが、内容は全く関係のないものだった。
”ザクロを確認して、念のため”
ザクロ?一瞬考えるがすぐにクラスメイトの吉祥ザクロさんを思い出し、廊下側の席で近くの男子たちと何やら雑談している吉祥さんに視線を移す。何を確認すれないいのかなんて聞くまでもない。私は吉祥さんに何か憑りついてはないか、悪い力が及んでないか、オカルトな何かに巻き込まれてないかよく目を凝らす。
確かに昨日少しお疲れの様子だったが、特に何もなかったし、今日も何も見えない。私は首を横に振る。
「そか、ありがとう。後で話すから。じゃまたね~!」
そういうと席を立ちクラスメイトに愛想を振りまきに行ってしまった。吉祥さん、何かあったのだろうか。
***
「これが噂のお人形さんですか!初めまして蝉川翠といいます、宜しくお願い致します」
蝉川さんは蒼美に深々と頭を下げる。人形の方は微動だにせず、人形用の椅子に座っている。
「やっぱり初対面だから警戒されてるんでしょうか、全然動きませんね」
「私もこの前動いてるのを見たのが初めてだし、それ以来動いてないよ。なんか視線を感じることはあるけど」
「疲れて動くのがだるいんじゃない?大活躍だったもん、ね~?」
音色ちゃんは蒼美がよほど気に入っているのか、よく猫なで声で話しかけている。彼女はお人形を椅子から取り上げると膝の上に乗せた。
放課後、蝉川さんのぜひ蒼美に会いたいという希望で、生徒会室が空いていないこともあり私の部屋に集まることとなった。せっかく買ったテーブルや座布団達がただのインテリアで終わらずに済んでよかった。
「そうだ疲れてるで思い出したけど…」
「待って、今朝の話なら待って」
「え、う、うん」
制止され、言葉を飲み込む。蝉川さんに聞かれたらまずいことでもあるのだろうか。もし吉祥さんがオカルトに巻き込まれていて何か相談事があるなら、霊感はなくとも知識なら頼りになりそうな蝉川さんにも相談するのもありだと思うのだが。
そして疲れているのは、フレスマリと名付けられたコックリさんも同様だった。私と音色ちゃんで呼び出そうとしても姿は現さず、声が聞こえるのみだった。今怪異に巻き込まれたらこの子の力を借りることは難しいだろう。
「やっぱりまだ回復しきってないのかな。なんか無言の時間も長くなった気もする」
「せっかく信楽先輩のおかげで一緒にコックリさんをやった人の名前まではわかったのにね」
「少なくとも県内にはいるようですね」
コックリさんの儀式を行ったのは、音色ちゃん、信楽クロエ先輩。そして帆井逢里さん、新座結菜さんの4人で間違いないことはフレスマリに確認が取れた。そばにもう1人、黒絹弥生さんがいたことも。
「なんか、インターネットに情報転がってたりしないかな。オカルトサイトっていうかさ。『美少女霊能者音色ちゃん現る』みたいな感じでほかの子の目撃例とか」
「秋津さんがネットで話題になってないように、他の方の話題もないですね」
蝉川さんは適当に音色ちゃんを捌きつつ、携帯で何やら閲覧している。
「どんなサイト見てるの?」
「オカルト系のまとめサイトですね。いろんなメディアで話題になったことを扱ってますね。有名な怪談から知る人ぞ知るマニアな怪談、最近のバツッターでの話題も取り上げてます」
「副会長様がネットで発信することに否定的だからな~。個人情報がどうとか、犯罪に巻き込まれるだとか、頭堅いんだよな」
「どんな人とつながるかわかんないし、自分から発信するのは私も怖いかも」
私と音色ちゃんは蝉川さんからよく閲覧しているサイトを教えてもらい、門限があるからと先に帰宅する彼女を玄関先で見送った。
「下まで送らなくて大丈夫?」
「いえいえ!ご心配なく。では、お先にお暇します。あとは若いお二人で」
確かに誕生日的に確か蝉川さんが3人の中では1番お姉さんですが、私達2人は特に何もないので。そんなことより…。
「ザクロのことなんだけどさ、誰にも言わないって約束して。誰かに言う許可とってないからさ。でも真夜ちゃんには状況を分かってもらった方がいいと思って」
音色ちゃんは吉祥さんの過去について順に語る。中学時代イジメがあったこと。吉祥さんはそれを止めず加担したこと、止めようとして自分が標的になるのが怖かったこと。そしてイジメられていた子は最終的に自〇してしまったこと。吉祥さんはそれをすごく悔いていること…。
「その当時の友達から、〇んだ子に呪われてるみたいな連絡が来てて、参っちゃってるみたい」
「じゃあ私は、吉祥さんが呪われてないか気にかけていればいい?」
「それもあるけど、呪いとか関係なく病んじゃいそうだからさ、クラスメイトとして普通に気にかけてあげてほしいってのもある」
確かにその通りだ。寝不足気味なのが続いているようだし、体にも影響が出てしまいそうだ。
「分かった。ちょっと気を付けてみる。何か異常感じたら、すぐ相談する」
「助かる。それから…ザクロのこと嫌わないであげて」
「え…?」
「だってほら真夜ちゃんさ、中学の時いじめられてたっていうから…」
そうだ、私は中学時代ずっとイジメを受けていた。当時のいじめっ子は、今はどうしているだろう。改心しているのだろうか、それとも新たな標的を見つけているのだろうか。
いや、もうそんなことは関係ない。変わるべきなのは、まずは私の方だ。誰もかれもを嫌っていた自分は中学で卒業してきたんだ。
「嫌わないよ。吉祥さんにいじめられてたわけじゃないし、少なくともこれからはもうそんなことする子じゃないでしょ。そりゃ、全部赦されるべきではないと思うけど、私が決めていいことじゃないと思うし」
「そっかそっか!いや~成長したね真夜ちゃんも!」
「誰目線よ」
「そりゃあ、蒼美目線よ」
「いつの間に抱っこしてる!?」
***
その日はなんとなく寝付けず、布団の中で教えてもらったオカルトサイトを眺めていた。
”急増する高校生の自〇!!自〇者の呪いか!?”
そんな話を聞いてしまっていたからか、妙にその見出しが目に入ってしまった。バツッターで話題になっているコメントのまとめ記事のようだ。
”最近ウチの地区自〇多すぎ、皆病みすぎやろ。”
”また電車遅延してるわ。今週何回目?”
”〇んじゃった人、前にいじめで誰かを自〇に追い込んだヤツばかりらしいよ。皆恨まれて、呪われて、あっちの世界にいざなわれてんだよ。”
電車の遅延が多い、か。まさかこの辺の地域の話だろうか。皆言いたい放題言っている。確かに呪いは実在します。現に私が人形に力を与えてしまいました。でも、〇くなってしまった方がそう簡単に他人を呪ったりしない。先日の女子高生の幽霊ように現世に留まってしまうかもしれない、でも、それでもゆっくりと自身の〇を受け入れていくんだと思う。
私に力が付けば、いつかそんな幽霊たちの力になれるだろうか。
”これも呪い関係あるんじゃね、車だけど。”
コメントとともに貼られた事件が目に入る。
「…え!?」
事件の内容は、女子高生がトラックに飛び込み〇くなってしまったというものだ。いじめを苦に…という方向で捜査されているとのことだが、その女子高生の名に私の背筋が凍り付いた。
”石水あきら”
そんなはずはない。きっと同姓同名だ。昨日だって彼女からメッセージが来ていた。魔法少女の映画を見ようと。私はメッセージを確認しようと画面を切り替える。
『こんばんは。』
深夜だというのに窓のすぐ外から声が聞こえて、私は飛び起きた。そもそもここは4階、ベランダはなく窓の外には人が立てるようなスペースはない。
『インターホンを鳴らそうとしたのだけど、変なイバラが邪魔だったの。それでこっちに周ったのだけど、こっちもイバラにふさがれてるね。通り抜けられないし、結界って言えばいいのかなこれ。』
私はとっさに椅子の上で目を光らせる蒼美を抱きかかえた。蒼美が守ってくれていたのだ。怪異から。
怪異となった、同級生から。
月の光に照らされ窓に影が映っている。張り巡らされたイバラで見えずらいが、人影らしきものが映されている。
『渡良瀬さん本当に幽霊が見えたんだね。この前駅で会ったときは驚いたよ。渡良瀬さんの方から声をかけてくるんだもの。私、もう幽霊なのにね。』
『警戒しないで。渡良瀬さんに危害を加えようなんて微塵も思ってないから。ただ、お願いがあって。心残りがあって。でも幽霊の私ではどうしても解決できないの。』
『お母さんに会ってほしいの。』
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