4章
14話
今日は日曜日。予定の時間まで、私は渡辺さんとレストランで早めの昼食をとっていた。中間テストや体育祭といった、高校生になってからの初めてのイベントを終えて、時間もできたことだし2人で遊びに行こうと誘ってくれたのだ。
外に誰かと遊びに行くことに慣れておらず全く行くあての思いつかない私に渡辺さんが提案したのは、映画館だった。見る映画は彼女お勧めの、アレだ。
「絶対魔法少女でしょ!!」
「いや、残念ながら」
「えー!?じゃあなんで急に信楽先輩までオカルト研究会入ってくるの!?絶対オカルト研究会の皮をかぶった魔法少女のチームだよね?先輩魔法少女だったんでしょ、信楽先輩」
渡辺さんの中ではすっかりオカルト研究会のメンバーは魔法少女ということになっているらしい。一見、接点のなさそうな女の子たちが謎に仲がいいならそれはもう魔法少女以外考えられないのだそうだ。実際には嘘偽りなくオカルト少女の集まりなのだけど。
「秋津さんが赤で、渡良瀬さんが青。信楽先輩は緑かな?でも名前的には蝉川さんの方が緑っぽいかな、
これから映画を見ることもあり、渡辺さんはすっかり魔法少女一色になっているようだ。
確かに私達オカルト研究会は、秘密を共有しているというところでは魔法少女と通じるところがあるかもしれない。
***
「そうですか、そうだったんですね」
蝉川さんは私の話を徹頭徹尾、真剣に聞いていた。物心ついた頃には怪異を見ていたこと、人形のこと、先日の鏡のことも。
「信じてくれる?」
「勿論です。まあ、副会長の話も、渡良瀬さんの話も、霊感のない私には信じることしかできませんが。皆さん真剣だったので。とても私がオカルトが好きだから騙してからかっている、というようには見えなかったので。私は皆さんを信じます。そして、話してくれてありがとうございます」
「ううん、私の方こそ、真剣に聞いてくれてありがとう」
こうして自分から話すのは初めてだ。音色ちゃんにはバレた形だし、信楽先輩にはなし崩し的に知られていた感じだった。信楽先輩の話を聞く様子から、理解を示してくれる人であることをあらかじめ確認したうえではあるがやはり緊張した。
「でも私このメンバー以外には伝えてないの。どう思われるか、どういう扱いになるか心配で、怖いの」
「過去の経験があるわけですから、渡良瀬さんがそう思うのも無理はないですよ。絶対口外しません。でも…」
蝉川さんは目線を私から音色ちゃんと信楽先輩が見えるように運ぶ。
「でも、もし皆さんのような見える人がいたら、皆さんの存在を伝えてもいいでしょうか。もちろん要相談で、です。きっと同じように悩んだり、苦労しているでしょうから、仲間がいるとわかるだけでも心強いと思うんです」
「アタシは賛成」
「まあ、そうね」
本当にその通りだ。現に私は、今こうして仲間ができ一人ではないという安心感がある。以前より前向きになれた気がする。もし一人でつらい思いをしている人がいるなら力になりたい。
「とりあえず目標としては、かの『帆井逢里』さんと『新座結菜』さんの捜索でいいでしょうか」
「クロエちゃんも2人の連絡先とかはわかんないんだっけ?」
「ええ。当時は遊ぶ約束は学校でしてたし。それに2人とも中学校では見なかったから、引っ越したか、私立の中学に行ったのかしら。携帯でSNSでやり取りすることもできず、小学校以来会ってないわね」
「地道に情報収取したり情報発信したりしてお互い気付くしかないのでしょうか」
名前までは判明した。だがそこからは煮詰まってしまった。私も何か考えなくては。コックリさんに手当たり次第にどこの高校にいるかネットとか、地図とか使って指して確認するとか?ただ鏡の怪異の件以降まだ回復していないのか声が聞こえないことが多いらしい。今はあまり酷使しない方がいいだろう。
「あ、そうだ」
信楽先輩は表情は変えないが、何やら名案を思い付いた様子で案を出した。というよりもそれは指示だった。
「あんたたち、文化祭の実行委員やりなさい」
「ええ、急に何!?」
「わ、私もですか!?」
「1年生の参加が少ないし、頭数もっと欲しいのよ。あたしがオカルト研究会入ってあげたんだから、あんたたち文化祭手伝いなさい。
交換条件というのはあらかじめ提示しておくべきものではないだろうか。後出しだし、脅迫まがいだ。3人は視線を交わした。
「助けてよ、あたしたち仲間でしょ」
***
「やっぱり仲間っていいよね!」
「そ、そうだね」
戦う魔法少女ものを見たのなんて久しぶりだったが、そこそこ楽しめた。内容はよく言えば王道、まあ言ってしまえばありきたりではあるのだが。本来ちびっ子向けなのだからあれくらいわかりやすいのが丁度良いのだろう。
映画館の最寄りの駅までの間、渡辺さんの感想・解説を聞きながら歩いていた。なんでも、今では空手部に所属する渡辺さんが小さいころ武道を始めたのも、いつか強い魔法少女になるためだったんだとか。
「いつか黄色枠で私も仲間に入れてね!絶対だよ!」
オカルト研究会のメンバー=魔法少女の設定は続いているようだ。さっきの映画に出てきた女の子達ほど純粋な子ではないんだけども。いろんな意味で裏があるというか。まあみんな根はいい子なのは違いないけど。
「渡辺さんは黄色が好きなの?」
「名前的に黄色が似合うと自負してるの!」
「あ、そっか、下の名前がk…」
バアァーン!!
突然の音と衝撃に会話がかき消され、私は驚いてビクッと一瞬縮こまった。音は私達からすぐ近いところからだった。
「な、なに…?」
音のした方へ視線を向けると、そこは駐車場だった。駅近物件のマンションが建っており、その住民用のものだろう。まだ夕方で仕事や用事で出かけているのであろう、駐車している車はまばらだ。
そんなちょうど車の止まっていない場所、マンションの非常階段に近い場所、黒いアスファルトの一か所が真っ赤に染まっているのが目についた。そして、赤いアスファルトの中央にある
「ヒッ…!」
初めて目にするし、思わず目を覆いたくなる光景をはっきりとは見てないが、状況からヒトが落ちたのだと本能的に察知した。
「ど、どうしよ、警察…いや救急車…!?」
「救急車?確かに顔色悪いけど、渡良瀬さん体調悪いの?大丈夫?」
振り返ると、慌てる私をよそに渡辺さんはずいぶんと落ち着いた様子でいる。というより私の心配なんかしていて、あたりの状況を把握していない様子だ。
「あそこ、ひ、人が倒れて…!」
そう指をさしてから、もし渡辺さんが気付いていないなら、口だけで説明して見せるべきでなかったかもしれないと後悔した。見なくて済むならその方がいい。
「あそこ?人なんかいないけど。あ、カラス」
私の後悔などつゆ知らず、渡辺さんの反応は暢気なものだった。私が指さしているカラスもまた、暢気に駐車場を闊歩している。
「あ、あれ?」
「もーやだなあ、何と見間違えたの?」
見間違いだっただろうか。それにしてもやけに鮮明だった。状況が状況だっただけに、あそこの非常階段から…と考えてしまったが、思い込みだったのだろうか。
そう考えながら非常階段を見上げた私は、自分は決して魔法少女のようなキラキラした存在ではないし、ここは決してハッピーエンドばかりの世界ではないということを思いだした。
マンションの5、6階あたりの非常階段に、人がいる。セーラー服を着ており、おそらく私と同じくらいの年齢の高校生か、あるいは中学生の女の子だ。背格好と、服装からの推測だ。女の子は静かに下を見下ろしている。
「ごめん、変なこと言っちゃって。い、行こう!」
「え、ちょっと待ってよ~」
残念ながら、過ぎてしまったことなのだ。あの子を助けてくれる魔法少女はいなかった。もしかすると、倒すべき明確な敵もいなかった。すでにあの子は結末を選択してしまった。私なんかでは、どうにもできない。誰にも、何もできない。
私は後ろから聞こえる衝突音が聞こえないふりをしながら、足早に駅へ向かった。
***
私は渡辺さんと別れ、乗り換えの駅で次の電車を待っていた。渡辺さんに変に思われなかっただろうか。そればかり気になってしまい、その後のやり取りが不自然になってしまってなかったか気がかりになる。オカルトなことに関わりのない貴重な『普通』の友達だ。過去の経験から、やはり自分に霊感があることを知られるのはまだ怖かった。渡辺さんは蝉川さんのようにオカルトな話に関心や理解はないようだし、幽霊とかの存在は信じてない感じだ。渡辺さんとはこのまま『普通』の友達でいたい。
渡辺さんとのやり取りを反芻して一人で反省会をしていると、妙な視線を感じた。
隣に人の気配を感じてそちらを向くと、制服姿の、女子高生と思われる女の子がことらをまじまじと見ていた。ばっちり目が合ってしまったのだが、一向に目をそらす気配はない。気まずくなり先に目をそらすも、なんだかずっと視線を向けられている気がする。もしかして、知り合いだっただろうか。でも私に知り合いといえそうな人なんて限られる。それにもしそうなら声をかけてくれればいいのにと思いもう一度振り向くとやはり目が合った。
やっぱりどこかで会ったような気もする。顔の雰囲気に見覚えがあるような気がする。せっかく背が高くてスタイルもよさそうなのに、猫背気味なシルエット。確か中学の時の…。
「…思い出した。もしかして石水さん…ですか?」
「え!?うん、そうです。やっぱり渡良瀬さんですか?」
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