第12話 ラタトクスの出陣
――要塞都市ヴァルハラ、外周門
翌日、ユグドラシル捜索部隊は搬送車に乗り込み、出立の最終準備を行っていた。
「それじゃ、父さん、母さん、行ってくるよ。研究ばっかりしてないで、しっかり休んでよ?」
笑顔で手を振るユーディンに、オルヴァンが穏やかに頷く。
「ああ、分かっている。お前こそ、無理はするなよ?」
「大丈夫よ、レイヴァンスさんがいるし、リシェルちゃんも一緒なんだから」
レイヴァンスさんはともかく……リシェル、ちゃん?
「お母様、行って参ります。ユーディンのことは任せてください」
「ええ、リシェルちゃんも気を付けるのよ」
ん〜?お母様?
この二人って、いつの間にそんな仲良くなったんだろ……
このユーディン達のやりとりを、面白くなさそうに睨み付けるグエン……
「ちっ、ガキの見送りかよ」
「おい、グエン?そうやっかむなよ」
そんなグエンに気さくに声をかけるレイヴァンス。
「そういうんじゃねぇよ……こんなの、時間の無駄だろ?早く出発しようぜ」
「はは、まぁ確かにそろそろ出発しないとな」
グラードに手を振って合図を送り、レイヴァンスはユーディンたちのもとへ駆け寄る。
「そろそろ出るぞ、ユーディン!……神峰博士、暫くの間、息子さんをお預かりします何があっても、必ずお守りしますので」
「ありがとう。でも、皆さん揃って無事に帰って来てください。どうか、お気を付けて」
「もちろん……では行って参ります」
そして、一行は見送りに来てくれた面々に手を振り、車に乗り込んで行く。
「よっしゃ、ユグドラシル捜索部隊、ラタトクス!出陣だぜ!」
レイヴァンスの号令とともに搬送車のエンジンが唸りをあげる。グラードがアクセルを踏み込み、排気ガスを吹き出しながらゆっくりとヴァルハラを出立した。
――ヴァルハラを出てからの道のりは順調だった。
ヨトゥンと遭遇することもなく、平坦な道が続き、五時間程走っただろうか?目の前には山岳地帯が広がりはじめ、ここからは周辺の地理を確認しながら進むことになった。
「お嬢さん、悪いな。レーダーだけじゃ周辺の細かい地形とか確認できなくてな」
「気にしないで、ずっとここに座ってるよりも気分転換になるし」
そう言って、リシェルさんはウルキューレに乗り込む。キャリアから降りて、少し離れてから空へ飛び立った。
遥か上空、ウルキューレの操縦席でリシェルは姉に話しかける。
「姉さん、ごめんね。窮屈だったでしょ?」
「ふふ、ほんと最悪だわ。ガタガタ揺れるし、ミーミルなんか話し相手にもならないし、私たちだけで捜索した方が早く終わるんじゃない?」
「そうね、でも目的は生命の樹の保護でしょ?可能なら、あの搬送車で持ち帰るつもりらしいし」
「まどろっこしいわねぇ」
「仕方ないわよさぁ、周辺の状況を伝えましょ」
しばらくすると、ユーディンの左手のデバイスから「ピピッ」と音が鳴る。
「リシェルから通信じゃな、繋ぐぞ」
「リシェルさんから?うん、お願い」
「……聞こえる?」
デバイスからリシェルさんの声が聞こえ、周辺の状況を教えてくれる。
「このまま直進して山岳地帯に入っても問題なさそうよ。平坦な道とは言えないけど、その車でも走れると思うわ」
「そうか、ありがとさん!そんじゃ、山岳地帯に入る前に休憩しよう。お嬢さん方も戻って来てくれ」
「わかったわ」
ラタトクス隊一行は、休憩をとってから山岳地帯へと進路を進めていく……
――その数刻前、北の氷原では
ガルム型のヨトゥンがおよそ二十体、氷原の一部を黒く塗り潰すかのように集まっていた。
その先頭に佇むニ体のガルム、一体は他のガルムよりも遥かに深い黒……漆黒の毛並みと瘴気を纏い、その身体の周りを星が舞うように金色のエーテルが溢れていた。
そして、もう一体のガルムは陽光の如く白い毛並みに、暗赤色の瘴気を纏い、周囲の空気は陽炎のように歪んでいた。
そこへ、黒い霧を纏った禍々しい機体が現れる……
『冥王機ヘルヘイム』
「ハティ、スコル……首尾はどうだ?」
ハティと呼ばれた漆黒のガルムが答える。
「ロキ様、順調とは申し上げにくいです……先の大戦で殆どの生物が滅んだために、負の感情が集まりません」
「ふむ……」
「それ故、格の高いガルムを生み出すのに時間を要してしまい、この数を用意するのが限界といったところです」
白いガルム、スコルもハティに続き、答えた。
「仕方あるまい。今回はこのヘルヘイムで我の復活を知らしめるためのものだ。偽神の堕ちた要塞なぞ、少し突けば負の感情が溢れ出るだろう」
「では、この戦力で向かわれますか?」
「ああ、我とお前達だけでも十分な程だろう」
「御意に……すぐに出立いたしましょう」
冥王機ヘルヘイム……ロキが率いるヨトゥンの脅威がヴァルハラへと迫りつつあった。
しかし、このロキの復活を期した初陣を前に、ヘルの姿は無かった。
――それから数刻後、ヴァルハラの空は夕陽に染まり、もうすぐ夜闇に包まれようとしていた。
――ヴァルハラ、第1区画、管制塔
「ユーディン君たち、大丈夫かな……」
管制官の鳴視=フルーレがポツリと呟く。それを聞いていた隣の管制官が茶化すように声をかける。
「なになに?フルーレったら、ああいう子がタイプなわけ?」
「なっ!違うわよ!なんかこう……放っとけないって言うか、そう!弟みたいな感じなのよ」
「ふ〜ん、まぁ確かに、頼りないけど真面目で頑張り屋なとこは好感もてるわね」
「ちょっと、そんなこと言ってたら、ユーディン君に告げ口するわよ?」
「ええ、やめてよ〜……」
などと、他愛ない話で管制塔が盛り上がる中、ギャラルホルンのセンサーにヨトゥンの反応が捉えられる。
モニターが赤く表示され、警報が鳴り響く。
「管制塔より全区画へ通達!北方よりヨトゥンの存在を確認!数は……十……二十!?」
今までの襲撃で現れる、倍以上の反応に驚く管制官たち。
「ヨトゥンのタイプは、すべてガルム型です……何?このエーテル指数……通常の個体よりも遥かに高い数値の個体がニ体います!」
そこへ、ヴィーダル司令が管制塔に入り、状況を確認する。
「G.O.D部隊をすべて出せ!ヨトゥンがヴァルハラに辿り着くまでに迎撃、もしくは数を出来るだけ減らせ!取りつかれたら終わりだと思え!」
いつも冷静なヴィーダルが、焦りを見せながら指示を飛ばす……
(想定より早すぎる……ニブルヘイムからの援軍もまだだと言うのに)
――ヴァルハラ、第2区画、カタパルト
「出撃出来る機体は順次発進させろ!搭乗者はまだか!?」
「ジルとフェリクスさんは準備出来てる!」
「よし、二人とも!カタパルトへ接続!どうぞ!」
敵襲の知らせを受け、戦場と化す格納庫内……緊張感に包まれる中、出撃準備が進む。
「G.O.D-03、ジル機、出ます」
「G.O.D-07、フェリクス、出るぞ」
2機のG.O.Dがカタパルトから射出され、滑走路を火花をあげながら突き進む。
夜の迫る荒野の高台へ着地したニ機は両翼に展開し、射撃体制に入る。
フェリクスの機体はG.O.D-07、重装狙撃戦用の機体で、全身をエーテライト装甲に覆われている。また、新規に開発された、エーテライト精製機構を取り付けているため、エーテル弾の精製が可能となっている。
「フェリクスさん、索敵、入れます」
「頼む、索敵情報を同期したら初撃で出鼻を挫く」
ジル機が敵影を索敵し、敵の位置をフェリクスの機体に同期させる。
「位置、北北西に約二十キロ、数はニ十二……エーテル・カノン発射準備、完了」
「多いな……ビフレスト・カノン、チャージ……十秒、合わせろ……カウント、五、四、三、ニ、一、撃て!」
G.O.D-03の両肩の連装砲から凝縮されたエーテル弾が放たれる。
G.O.D-07の肩部砲が唸りを上げ、熱の奔流を一直線に放つ。数秒後、ヨトゥンの群れが火柱に包まれ、二十キロ離れたこの場にも、爆風の余波を感じた。
直撃を確認した二人が、再び敵影の反応を確認する。
「え、数が、二十……」
「あの威力で二体だけ、か……まずいな、他の機体はまだか?」
『は、はい!セルマ機、シグフェイル機、出撃準備が
完了しました。戦線に合流します』
管制官の言葉のあと、ヴァルハラより三機のG.O.Dが打ち出される。
「G.O.D-04、セルマ機、並びに、05、06、合流しました」
「もう、なんなのよ!二十体以上とか有り得ないんだけど!」
「有り得なくても、目の前にいるんだから、戦わなきゃ」
セルマとソレーユ、ルーナが戦場に降り立った。
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