第11話 ユグドラシル捜索

 ――ヴァルハラ、第1区画、ブリーフィングルーム


 ブリーフィングルームの中に残ったのは、捜索部隊に任命された、レイヴァンスさんとグエンさん、そして僕……と、何故かリシェルさんも隣に座ったままだった。


「ちょっといい?」


 リシェルさんが視線だけヴィーダル司令に向けて声をかける。


「なんだ?」

「その捜索部隊に私も同行していい?」

「ふむ、正直なところ、ヴァルキリーの神装機には残留してもらうか、捜索部隊に参加してもらうか悩んでいたところでな……理由を確認しても?」

「捜索に行くなら、空を移動出来るウルキューレがいた方がいいでしょ?機動力と殲滅力も十分に備えてる。それに、ユーディンはまだ神装機に慣れてないわ。そのフォローも必要でしょ?」

「そうだな、確かに目覚めたばかりのオーディーンのフォローについてもらえるなら助かる。同行を許可する」

「は、ユーディンさまのお守りをしないといけないなんて、ハズレ組じゃねぇか」


 グエンが不満そうな顔で嫌味を飛ばす。


「おい、グエン!いい加減にしろ。いつまでそんなガキみたいなこと言ってやがる」


 レイヴァンスさんが、その発言に対して釘を刺す。


「ちっ、うるせえな……早く作戦の説明をしてくれよ」

「お前が無駄口を挟んでんだろうが、ったく、それで?どこから捜索に行けばいいんだ?」

「そのことだが、生命の樹に関しては手掛かりがほとんどない。ミーミル殿は何かご存知か?」

「うむ、そうじゃな……わしの記憶じゃと、ここから東北東におよそ千kmの地点に生命の樹があったのは確かじゃが」

「東北東に約千km……この辺りかな?」


 樹里博士が部屋の中心にあるホログラムマップを操作して、ミーミルの教えてくれた地点にピンを指す。


「ここは、山岳地帯が広がっている所だな。深い谷も至る所にあるようだが、我々も足を運んだことはない場所だな」

「なら、その谷底のどっかに、その生命の樹があるかもしんないってことか?」

「その可能性が高いじゃろうな」

「じゃあ、そこまでの移動手段と必要な物資を用意しないとな」

「移動には機体の搬送用の車輌を使え、ユグドラシル・ドライブで機体燃料が不要だとしても、G.O.Dの修理用パーツや最低限の設備を載せる必要があるだろう」

「まぁ、そうだわな、整備班も誰か同行してくれるのか?」


 車輌の運転や、機体の整備や修理は最低限僕らでも出来るけど、専門の人員がいてくれた方が安心だ……


「当然だ。整備班の方にはもう伝えてある」

「おうおう、仕事が早いこって」

「出発は明日の朝だ、各位、十分に休養を取るように」


 そう言って、ヴィーダル司令と樹里博士が部屋を出て行く。それを目で見送ってから、レイヴァンスさんが立ち上がり皆を見渡す。


「よし、せっかくだ!名前考えようぜ、名前!カッコいい部隊名!」


 いつになく、楽しそうに声をあげるレイヴァンスさんにグエンがどうでもよさそうに答える。


「んなの、どうだっていいよ。ユグドラシル捜索部隊、そのまんまでいいじゃねぇか」


 どうでもいいって言う割には、無難な部隊名を提示してる……


「ラタトクス、と言うのはどうじゃ?生命の樹を駆け回る小動物の名じゃが」


 まさか、ミーミルまで部隊名を考えてくれるなんて……


「ユグドラシル捜索部隊、ラタトクスいい、カッコいいぞ!爺さん、最高だ!」

「ほっほ、気に入ってもらえたのなら結構じゃ」

「ラタトクス……」


 グエンさんまで少しニヤついてる。

 特に反対意見もなく、部隊名は『ラタトクス』に決まってしまった。


「……男って、神も人も拘るところは一緒ね」


 リシェルさんが、呆れた顔で小さく呟いていた。


 ――ヴァルハラ、第2区画、整備ハンガー


 僕らの部隊名が決まり解散した後、僕は一人、整備ハンガーまで足を運んでいた。

 整備ハンガーの奥に、機体4機を載せられる大きな搬送車が用意されていて、既にG.O.D-01と02の2機が載せられていた。

 その搬送車の点検をしてる男がユーディンに気付いて、声をかけた。


「お?ユーディンか、明日からの遠征任務、俺も一緒に行くことんなったから、よろしくな」


 彼は『グラード=ハインリヒ』整備班の中でもベテランで、僕に機体整備の基礎を教えてくれた人だ。

 そしてその後ろから、油で頬を汚した顔をひょこっと見せる女性が『ライナ=ハインリヒ』、グラードさんの娘さんだ。つなぎ服にレンチ片手に、クルクル回しながら、口を開く。


「え?あ、ユーディン、ちょうど良かった。アンタのオーディーンをここまで持って来てくれない?動かしてくれると助かるんだけど」

「ライナっ!ユーディンに何頼んでやがる!ったく、悪いなユーディン……今回の遠征はあいつも一緒なんだ。親子ともどもよろしく頼む」

「そうなんですね、こちらこそよろしくお願いします。ミーミル、オーディーンに転送して」

「その必要ないぞ?」

「?それはどういう……」


 オーディーンの格納スペースに目をやると、機体がゆっくりと起き上がり、こちらに向かって来ていた。


「あれ?オーディーンが勝手に動いてる!?」

「驚くことではあるまい?ウルキューレもリシェルが乗っておらずとも動いておったじゃろう」


 そう言えば、昨日の話し合いの時も上空で待機してるって言ってたな……


「搭乗者がいなくても動けるなんて」

「動かせるだけじゃよ。武装も使えることは使えるが、戦闘技術なぞ、わしにはわからんでな」

「いやいや、凄いことよ!」


 ライナが興奮して声をあげる。


「神装機に人格が宿ってるのは聞いてたけど、機体そのものを自分の身体のように動かせるってことは老いて朽ちる体から解放されたってことじゃない」


 言われてみれば、そうか。機械の体に魂が宿せるなら、永遠の命を手に入れたってことに……


「ほっほ、確かに老いることからは解放されたが、神装機の核を破壊されれば、わしらの神格も失われる」

「そっか、核が文字通り心臓ってことね」

「そういうことじゃ、さて、どこに行けばいいんじゃ?」


 搬送車の近くまで来たオーディーン(ミーミル?)がライナたちに尋ねる。


「ありがとう、それじゃ、そこの車輌の後方からキャリアの中に入ってもらえる?空いてるスペースに座ってくれたらいいから」

「了解じゃ」


 そのまま、オーディーンはキャリアの中に入っていった。


「神装機って凄いわ!これなら整備も効率よく出来そう!」

「そうだな、流石は神の遺物ってだけのことはある」


 グラードも感心した様子で、うんうんと頷いていた。


 ――ヴァルハラ、第4区画、墓地


 ヴァルハラの第4区画の一角にある墓地……整然と並ぶ墓石の前に、グエン=マークの姿があった。


「親父、明日からしばらくここには顔を出せなくなる生命の樹とかいうのを探しに行かなきゃなんねぇんだとよ」


 グエンは父親に話しかけるように、一人静かに呟く……返事はなく、ヴァルハラの換気口パネルから吹き込む風が墓石を撫でる。


「神装機……もっと早く、動くことが出来てりゃ、死なずに済んだかもしれねぇのにな」


 グエンは辺りを見渡し、視界に広がる墓石をその目に焼き付ける。


「くそ……苛つくな」


 神格を受け継ぐ人間が憎いわけではない、襲ってくるヨトゥンの存在が元凶であることも理解している。それでも、彼の大切な家族を失ってしまった心の穴は塞がることなく、ドス黒い感情に満たされていた。

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