第2話

 その前には、「妖艶な、和装の美魔女が、桔梗やら露草やらのお花を活けているところ」

と、オーダーしたら、こういう絵ができた。

https://kakuyomu.jp/users/joeyasushi/news/16818792439168973399


 ここから、ハナシを作れば…


 「奇矯な女」


 二か月、精神科病棟で、治療のセッションを繰り返して …

 やっと、喬子は家に帰ってこれた。


 猫を5匹飼っていて、不安だったが、いやおうなしにいろんな人や動物病院に頼って、その猫も無事に帰還した。


 若いころから情緒不安定やら神経過敏で苦しんでいて、さまざまに病名をつけられたり、薬も無数に飲んだ。


 アルコールに耽溺したこともある。

 センシティヴなぶん、感覚的な快楽が強いのだろうか…セクス依存になったこともある。

 

 親戚中から嫌われて、鼻つまみになっていて…鼻つまみ、は嫌われ者を言うが、英語では” stinky ” と書いて、これも「臭い奴」の意味らしい。

 「欲望という名の電車」という戯曲を読むと、主人公の精神を病んでいる女性が、「親戚中の嫌われ者」と自己紹介していて、親近感を持ったが、結局は精神病院に連れていかれる…というハナシで、嫌な気になった。


 二度結婚したが、破鏡した。 古い言葉だが、喬子は既知だった。 若いころから読書家で、漢字に強く、俳句を作ったりした。


 芥川龍之介の小説の登場人物のように、神経過敏、ニューロティックで、パセティック、なんだか共感できない異常な雰囲気、緊張感を、自分が纏っているのには自覚的だった。


 だんだんに、言葉のシニフィエとシニフィアン? そんな言葉も既知だったが、それが遊離するような感覚にとらわれ始めて、ますます生きるのが厭わしくなっていった。


 漱石の小説にも、主人公が「ある言葉がその意味の記号だったのかに違和感を感じるようになってきた」という、悩みを妻に話しているくだりがあり、「あなたノイローゼよ」と言われていたっけ。


 そうなると、なんとか誤解はせずに済んでも、ヘンな「拘り」が他人との意思疎通を円滑にさせまいと立ちふさがり、疲れて、失調してしまい、最近はもう普通に会話をすることも断念せざるをえなkなっていた。


 昔に、他人が自分の噂をしているのを立ち聞きしてしまったことがあった。

 好感を持っていた男性が、「あのひとは、だけどどこかキキョウすぎるような印象で、ボクは苦手だな」と、喬子のが傷つくような感想を漏らしていた…


 その”キキョウ”は、もちろん”奇矯”のことで、ナーヴァスすぎる自分の性格にコンプレックスを抱いていた喬子にとって痛い指摘だった。


 傷つきやすい性格ゆえに、だんだんに悪循環を繰り返して、そうして閉じこもりがちになってきて、で、その一言で「とどめを刺された」みたいに、完全に他人恐怖症になってしまったのだ。 


 なんとなく桔梗の花を活けながら、喬子はやはり、強迫的に、「奇矯なヘンな女が桔梗を活けている…泣きたくて、欷歔ききょの声を上げたいくせに…」とかナンセンスな雑念に苦しめられていた。 見た目は、女盛りで、小股の切れ上がった、頗るつきの美貌の妖艶な美魔女…ヒトとして生きるということはなんてややこしくて難しいのだろう…もう達観している喬子は、藤村操のごとくにあす、哲学的自殺をしてやろう、などと世を呪っているのだった。


<了>


 


 

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