どっちづかずの僕。
前回のエピソードでは、アザを自分の存在として吞み込んでいった大人になった僕のことを部分的ながら書き綴った。今回のエピソードではアザを対象化できるようになった青年期中頃から終盤の頃のことを書いていこうと思う。
浪人していた時期、まだ精神疾患が発覚するちょっと前のことだ。深夜にマクドナルドで書店で買ってきた本を読んでいた。社会学のちょっとした入門書だ。社会学の入門書に手をつけたきっかけは、宮台真司という社会学者をYouTubeで見かけたことに端を発する。その話し方や考え方に僕はすっかり感染してしまった。
それから宮台真司の著作を数冊読み、社会学って何なんだろうと思い、社会学の入門書に手をつけたわけだ。見田宗介の言ったように、社会学とは、
「人と人との関係の学」
であり、人が介在するあらゆる事に社会学は接近する。そうして僕はマクドナルドで社会学の入門書を徹夜で読み切り、社会学に没頭していった。
大学は最終的には社会学科のある大学を選択し、進学した。ただ精神疾患が原因で思うように通学できない日々が続いた。それでも社会学は手放さなかった。社会学は個人的なことを社会的なことと捉え、個人間に連帯をもたらす学問だと思っている。
アザの社会学を本格的にやりたい。いつしか僕は本気で大学院への進学を考えていた。でもその前に僕のようにアザをもった人はいないのか、本気で調べればいるのではないか?出逢えるのではないか?そう思い立ち、ネットで検索をかけて調べてみた。
すると思いの外いることがわかった。ネット社会様様である。同じようにSNSで検索をかけてみると、あるアカウントの投稿が目についた。それが、マイフェイス・マイスタイル(以下、MFMS)であった。
https://mfms.jp/mfms
それからというもの、MFMSのイベントにたまに参加していくことになる。イベント毎に参加者は違えど、「見た目」の症状がある人たちとも交流した。素直な感想として、僕よりも症状が酷かったり、つらい経験をしてきた人が大勢いて、僕のアザや経験なんて、ちっぽけなものでしかなかった。
彼らの前では、僕のアザは埋もれる。それは自分自身のアザからのちょっとした解放と、自分自身のアイデンティティの攪乱を意味していた。僕という存在は何なのか?自問自答するような日々が続いた。完全に非当事者とは言えないが、完全に当事者かと言うとなんだかしっくりこない。
なんて中途半端でどっちつかずな存在なんだ。そう思った。でもしばらく考えて見方が変わった。どっちつかずということはどちらの立場にも立てることを意味する。それはアザの社会学をやっていく上で、強みではないのか。
改めて、アザの社会学をやっていく決心がついた。でもアザがちっぽけな存在へと変わったかと思うと同時に、精神疾患のほうが悪化してしまった。僕の生きづらさはアザに依るのもよりも、精神疾患に依るものが大きくなってしまった。決心したのは大学2年生のときだったけど、大学4年生で単位が足りず、それどころではなかった。
アザとの付き合いと同じように、精神疾患との付き合いも長くなってしまった。MFMSの言うような「見た目問題」を研究する大学院生や研究者も増えてきた。過去よりも現在を、現在よりも未来を見据えたとき、僕の研究関心は本当にアザなのか、それとも精神障害者とそれを取り巻く社会との関係に焦点があるのか、わからなくなっていた。
それでも確実に言えることがあった。それはアザを対象化する時間よりも、精神疾患を対象化する時間のほうが圧倒的に多いという事実だ。それならばいっそ、今の関心事に研究関心をシフトしよう。そのようなわけで現在は精神障害者とそれを取り巻く社会に研究関心がシフトしている。
でも決してアザの社会学を放棄したわけではない。あくまでメインテーマではなくサブテーマになっただけのことだ。現に今、こうしてアザにまつわる自分の経験を言語化し、エッセイとして公開している。
どのような形であれ、アザを呑み込んだとしても、そいつは身体から滲み出てくる。終わりなき問いかけが始まっている。飽くなき問い、終着点は見出せるのだろうか。それは僕自身にかかっている。。
アザが世界の中心だった。 分倍河原はじめ @bubaihajime
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