第12話 裂け目3
裂け目3
夢?……
と
(身体を
と、夜中に温かいタオルで全身を拭かれた夢だ、、。
タオル以外の、熱いモノに背中をなぞられていた感覚もあったが、よく思い出せなかった。
ゆっくりと、布団から上半身を起こすと、
その陽射しを手で
これも夜中に置かれていた気がした。
(……あれは、夢じゃ無かった、、)
「男」は左踵の傷も触って確認していた、、。
(、あれは、怪我をしたのを心配されてるだけだ、、)
そんな考えに自分を押し込もうとした。
〈背中を優しく撫でる手〉
〈当てられた唇〉
熱いその快感に、震えて、、、
〈それを心地良く受け入れていた日向自身、、〉
全て、思い出したくは無かった。
(どうしていいのか、分からなくなる、、ここの所、そればっかりだ、)
日向は溜め息をついた。
包帯を巻かれた
(あれだけ、やって貰ったのに、俺はあの人が怖い、、)
昨晩、あっという間に踵を貫いていた釣り針を取ってくれた。日向は感謝をするほかはなかった。
では、なぜ自分は、あの人を恐れているのか、、?
大きな怒号ではなく、、入れ墨でもない、、一体、どこが怖いのだろう?
しばらく自問自答したが、答えは出なかった。
ふと壁の時計を見ると、いつも起きる時間より、数時間遅い時刻を示していた、日向は自分が寝過ごした事に気づいた。
(!?、いけない! 朝食の事をすっかり忘れてた!、準備しないと!)
包帯をしている左足は指先で歩けば問題無い、慌てて着替えた。
民宿には誰の気配も無かった。
(伯母さん、戻って来なかったんだ、、伯父さんは大丈夫なんだろうか?)
いつも見守ってくれていた優しい伯父さんの顔が思い出されて、日向の胸が痛んだ。
けれど、昨夜「男」が言っていたように、良くない状態だったならば、連絡が来て起こされるのは間違いない
それが、向こうから連絡が来ないのは、まだ大丈夫という証拠だ、、と日向は自分に言い聞かせた。
その時、玄関前に車の停まる音がした。
(アレは、、?、伯母さんではない、、あの人の車だ、、何処に行っていたのだろう?)
鍵を開けて玄関に入って来たのは、やはり「男」のようだ。
キッチンから物音がしてきた。
「え、?、まさか朝食の準備をしてるのか、、」
日向は壁に手をつきながら、とにかく急いで廊下を歩いていく、
玄関で海水と一緒に保管しておいた筈の、昨夜に取り返した〈密漁された貝〉がバケツごと無くなっているのも目に入った。
「起きたか?」
食堂から「男」の声が聞こえた。
「はい、おはようございます。」慌てて日向は食堂に入って行った。
「ゆっくり歩け!」大きな声で注意されてしまう。
「はいっ、すみません」
食卓を見るとすでに朝食が並べられていた。
日向の作っておいた、
「まだ、寝てろ、出来たら持っていく、」
日向が左足を浮かせているのをみて、
「まだ、僅かしか歩けないだろう?」と言われた。
「えっ、、でも、お手伝いをさせて下さい!、お客さんにして貰うなんて、、俺、困ります。」
難しい顔をしていたが、「男」の方が折れた。
「……、分かった、座って、茶でも入れてくれ、、」
椅子に座って、日向は「男」が持ってきてくれたポットから、急須にお湯を注いだ。
茶葉を蒸らしながら、キッチンに立つ人を見つめた。
大きな背中を少し丸めて、飯をよそってくれている。慣れた手つきにも感じられた。
その姿は可愛らしくも感じてしまい、日向はつい
(怖いけれど、不思議なヒト、、)
何でも出来るのに、強いのに、、
どうして、俺には想像も付かない仕事をしてるのだろうか、?
「これ、鯖の味噌煮、お前が作ってたんだな、、凄いな。」
その味噌煮の隣に、漬物と2人分の飯、昨晩のキノコの白出汁の澄まし汁を持ってきて、並べながら「男」が言った。
(おれがやったのはサラダだけ、、って言ってもレタス千切っただけだけどな、)
眩しい朝陽が注ぐ、食堂で快活に笑う「男」は屈託が無かった。
「あの、先程、何処かに行かれたのでしょうか?、昨日の貝が、無かったようですが、?、、もしかして、漁協の方へ?」
「そうだ、分かってるな、でもまぁ、とにかく先に食べよう、
話すから、、しっかり食べないと傷の治りにも差し支える、、」
「男」は自分も椅子に座りながら、言ってきた。
「……はい、ありがとうございます、準備をして頂いて、、」日向は深々と頭を下げた。
「、、それから、夜中に汗を拭いて貰って、そちらもありがとうございました、、」
「お前、真面目だなぁ」
日向が入れた、お茶の入った湯呑みを飲んで、そう言われた。
――――――――――――――――――
「男」が話してくれた。
先ず、朝早く、漁協に行って〈密漁者数人から取り返した貝〉を説明と共に渡して来たと言う。
伯母さんからも、漁港の知り合いに朝早く連絡が入っていたから、話が早かった、と「男」は言った。
「今の漁協のおっさん達はな、、
前にもちょっとした仕事。請け負ったからお互いに知ってるんだ、」
ニヤッと笑った。
「だから、この件はもう終わりだ。アイツらの事は不問になってる。許してやって欲しい、、多分、もう来ないしな、、
そして、お前に怪我をさせたのは、おれの注意が足りなかった、、悪かった、」
「いえ!、そんな事は有りません、俺がいけなかったんです、声を出さなければ、、」
「不問だと、言っただろう?」
ジッと強い目で見られて、反論する事が出来なくなった、、
(どちらにも強くて、怖さを出せるヒト、なんだ、、)
この人の強さが少し分かって来た気がした。
「お前のスマホを持って行ってたから、伯母さんからの連絡も取れた。
うん、味噌煮、凄く旨い、足りなかったら、冷蔵庫にある塩焼きも持ってくるからな、、」
「いえ、、充分です、、それで伯母さんと伯父さんのご様子は、如何ですか?」
大きな病院への転院で伯父さんの容態は変わりないって、これからの事もあるし、会いに行くぞ。
それから、お前の怪我の事も話した、 状態を診て貰いたいから、丁度良い。食べたら出掛けるぞ。保険証持ってこい。
「えっ、?はいっ?」
一気に話されて、日向は焦った。
「俺、片付け、手伝いますから、、それが終わってから準備します。」
「割と頑固だな、お前……」
苦笑された。
――――――――――――――
片付けを日向も手伝ってから「男」の車に乗り込んだ。
隣町の大きな病院に数10分かけて向かった。
この街は伯母さんの親戚も多く居るので、子供の頃にたまに遊びに連れて来て貰っていた。
日向にも馴染みの街だった。
此処には、大きな漁港もあり、海沿いの幹線道路から山へ伸びる道路を走ると、そこに今回の伯父さんの転院した大きな病院があった。
「伯父さんはいくつか持病があったんだな」
「はい、若い頃からと伺ってます」
「年齢的に悪化する心配もあったのか、、」
「とても、気を付けて治療をされていて、民宿にくるお客さんたちは殆ど知らなかったと思います。」
「偉いな、お二人ともに、、」
「先に、受け付けしてくる、待ってろ」
病院に着くと、待合室の椅子に日向を座らせて、「男」が外科の受付をしてくれた。
「お前は診察受けてから、伯父さんのいる◯◯号室へ後で来い、コレで支払え」と、ポンと財布を持たされて、さっさと「男」は先に面会に行ってしまった。
「えっ、」
(えぇー!、また!?) 日向は心の中で叫んでしまった。
――――――――――――――――
「
医師に怪我の説明をし、レントゲン、傷跡の確認と診断をしてもらった。
傷は綺麗で、処置が良かったと医師に褒められた。レントゲンでも骨に支障も無かった。
「ありがとうございました」
(やはり昨日のあの人の処置は的確だったんだ、、)日向は思った。
傷を消毒して貰い、伯父さんの病室へと向かった。
「男」から聞いた話では、転院が完了した後で伯母さんの方はこの病院の近くにある従姉妹の家に泊めて貰ったらしい。
(良かった、、伯母さん、いつも頑張りすぎだから、、)
ホッとしながら、歩いていると少し空いてるドアから伯母さんと「男」と声が聞こえてきて、部屋が分かった。
軽くノックをして、
「こんにちは、伯父さん、伯母さん、日向です」
病室に入った。
伯父さんはベッドに横たわっていたが、上半身を起こしていて、その横に伯母さん、そして窓際に「男」が居た。
「おお〜、日向君、久しぶりだね。悪かったね、来て貰って、、民宿の手伝いもありがとう」
と、きちんと切り揃えられた白髪の伯父さんは、穏やかな表情で、いつも通りの温かい言葉を掛けてくれた。
「うん、大きくなった。お父さんに似て来たかな?、伯父さんはちょっと弱ってしまってなー、迷惑を掛けるね。」
「いえ、良かった。春の時よりもずっとお元気そうです」
日向は、照れながら伝えた。
けれども、今年の初めに見舞いに会った時よりも、痩せて来た伯父さんに日向の胸は悲しみを覚えた。
掛けてくれる言葉は、思い遣りに溢れていて、子供時代を思い出した。
伯母さんは、「昨日はごめんなさいね、急に此処の部屋が空いたと、前の病院の先生からご連絡を貰っちゃって、、転院は以前から勧められてたのよ〜」
と言ってくれていて元気そうだ、日向は胸を撫で下ろした。
「男」は窓際に身体をもたせ掛けて、そんな日向と伯母さんと伯父さんを見ていた。
そして、
急に、直立したかと思うと、深々と伯父さんと伯母さんにお辞儀をした。
「おれの不注意で日向君に怪我を負わせてしまい、申し訳御座いませんでした」
伯母さんが直ぐに言ってくれた。
「違うわよ、悪いのはルール違反、マナー違反をした人たちよ、全く困るわよね!」
伯父さんも
「矢尾さんはそうだよ〜悪くないからね、傷はどうかな?、日向君?、診てもらって来たんだよね?」
そこで、先程の診断について、全員に話した。
「そう、良かったわ、でもしばらくは無理しちゃいけないわ、矢尾さんが手伝って下さると言うから、出来合いのモノでやっていけば良いわよ、
私たちこそ、迷惑かけてしまってるわね、」
「いえ、おれの責任なんです、手伝わせて下さい。」
もう一度、「男」は深くお辞儀をした。
伯母さんが、これから、ちょくちょく、従姉妹の家に泊まって伯父さんの世話をする事を告げられた。
(えっと、、怪我が治るまで、お手伝いをして貰う、と言う形で良いのか、?)
もう、殆ど踵は痛みはなく、数日で元通りになると日向は考えていた。
帰りがけに、病院のロビーまで伯母さんが来てくれた。
「あのね、日向君、貴方にだけ言ってなかったのだけれど、、、」
「えっ?」
その後は日向は覚えて、なかった、、。
「帰るぞ」
手を引く、「男」の手の熱さだけ分かった。
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