僕はカモメじゃない

水月 莉羅

出会い

(今日も来るかな)

僕の部屋の窓の外にかもめが来る。それは冬も深まってきた今日までもう3か月以上続いていた。

「ん?何か持ってる?」

今日は何か白い小さなものをくわえている。なんだろうと思い、窓を開け身を乗り出すと、かもめはこちらへ向かって一直線にやってきた。ぎょっとして思わず身を引くと部屋に小さな紙切れを落として行った。

「びっくりした…なにこれ?」

『今日、15時蔽ヶ浦おおいがうら

「この手紙?は僕あてなのかな」

普通に考えて学生は15時には学校に行っているはずだし手紙の受け取り手は自分ではないのだろうと考える。それに、何より外に出たくない。

(家の外に出たらまたーー。)

いや、よそう。考えるな。


コツン。何か窓に堅いものが当たった音がして目を覚ます。

「もうこんな時間か…」

いつもかもめが来る時間だ。

外を見ると相変わらずの曇り空で、相変わらずかもめがいた。

(それはそうと、さっきの音は何だったんだ?)

窓を開けるとレールの上に昨日と同じような紙があった。

『おい。なんで来ないんだよ。5時間も待ったのに。今日も同じ時間に待ってるから今日は来いよ。』

昨日と変わらず誰から誰に書かれたのか分からない。

「バカじゃないのか。」

5時間も待つなんて、理解できない。とはいえこの様子だと、何日でも何時間でも待っていそうだ。

「はぁ…仕方ない。間違えてるって言いに行くか…。」

できることなら家から出たくないのだが、蔽ヶ浦ならそうそう人も来ないだろう。


「おっ!きたきた」

「僕のところに手紙を寄越したのは君?」

僕のところに手紙が来たのは間違えだと思っていたがそうではなかったらしい。

「おう。お前、名前は?」

「りと。ってか何であんな手紙を?君の名前は?こんな時間に呼び出すなんて信じられないんだけど。学校あるとか思わなかったわけ?」

「質問攻めだな。まあ、落ち着け」

「……。」

「おい、なんか言えよ」

「わがままだな。」

「えぇ?まあいいや、俺はたすく。お前に手紙を出したのはいっつもお前の部屋の前にかもめがいることが気になったからだな。あとはー」

そうして同い年であること、彼も学校に行っていないこと、僕がかもめを見ているのに気づいたことなどを聞いた。

「それにしてもお前、どうして昨日来なかったんだよ」

「まさかあれが僕に宛てたものだと思わなかったし、お前だって知らない人が来ても困るだろ。」

「昨日5時間も待ってたんだけど」

「知るかよ」

「つれないなぁ。せっかく会ったんだし仲良くしようぜ」

「遠慮しとく。もういいだろ、僕は帰る」

そろそろ帰らないと…学校が終わってしまう。

「明日も朝からいるからいるつもりだからここに来いよ」

「断る。」

「じゃあ昼ぐらいに呼びに行くよ。昼くらいなら起きてるだろ」

何なのだろうか、こいつは。5時間も待つことといい、わざわざ呼びに来るなんて言い出すことといい、しつこすぎる。

「はぁ、仕方ない。昼までには来るから呼びに来るなよ」

「よっしゃあ。じゃ、また明日な」

「…また明日」


あいつのぺースで話していたせいで遅くなってしまった。

「あれ?りとちゃんだ〜!」

「ほんとだ、りとちゃん久しぶり〜」

「最近学校来てないけどどうしたのー?まあ、りとちゃん可愛くないし恥ずかしくてこれなくても仕方ないか〜服装もそうだし、がさつだもんね」

「ちょっとー、本当のことだけどそんなこと言ったらかわいそうでしょー?」

「あはははは、ごめんねーりとちゃん」

「……」

最悪だ。こいつらに会うなんて。あいつにかまわず家にいればよかった。

「ねぇ、聞いてるの?」 

「無視はひどくない?」

「なぁ、何してんの。家に帰るんじゃなかったのかよ」

振り向けば何故か佑がそこにいた。

僕だって可愛くなれるもんなら可愛くなりたい。でも、うまくできないから。だから、新しく会う人の前では男として振る舞えば普通に…って期待した。けど、こいつらがいる世界で、そんなことは所詮しょせん、夢物語でしかなかった。

「佑。」

「そいつら何?お前の友達…じゃないよな。悪いけど、俺こいつに用があるから」

「ふーん、そっか。じゃあねりとちゃん」

「りとちゃんまたね〜」



佑に手を引かれるがままになっていると蔽ヶ浦に戻っていた。

「……なぁ、大丈夫か」

「……。」

「さっき、りとちゃんって呼ばれてたけど。お前、もしかして、女?」

「……うん。」

最悪だ。

僕は逃げるように家に帰った。

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