第18話 魔導回路調査の報告・後半
「私がこちらの世界に持ち込んだFPGAは、あと一枚になってしまいました」
数々の結界を救い、多くの人を守ってきた頼みの綱――それがあと一枚しか残っていない。
次に何かが起これば、もう同じ方法では対処できないだろう。
胸の奥に重さを覚えながらも、僕は思考を巡らせる。
……もっとも、FPGAがなければ何もできないわけではない。
この世界に古くから伝わる魔導回路の技術を使えば、論理回路を組むことは十分可能だ。
すでに小さな回路を組み立てる中で、その有効性は何度も確かめてきた。
けれど、やはりFPGAは便利だ。
必要なときにすぐ書き換え、複雑な仕組みをまとめて載せられる――あの柔軟さは、魔導回路単体ではまだ届かない。
ならば、この世界の素材と知恵を使い、同じような仕組みを築けないだろうか。
僕は顔を上げ、はっきりと告げた。
「……最終的には、この世界で“魔導回路版のFPGA”を作ってみたいと考えています」
リィナがはっと目を見開き、やがて笑みを浮かべた。
国王の前だということも忘れ、抑えきれない気持ちがそのまま言葉になった。
「ソーマさん……それ、絶対に一緒にやりましょう! 研究所のみんなも、きっと喜んで力を貸してくれます」
玉座の上でアルディスはしばし沈黙し、腕を組んで考え込む。
やがて口を開いた。
「魔導エフ・ピー・ジー・エー……面白い。
確かに、そなたがこれまでに示した成果を思えば、夢物語ではあるまい。
国としても協力を惜しまぬ。必要な資材や人員があれば申し出よ」
そこで、ふと思い出したように、アルディスは続けた。
「そういえば、ルシアから報告を受けた。――エルグランドに会ったそうだな。
私も知らなかったが、彼はかつて王国屈指の魔導回路技術者であったと聞く。
もし協力を仰げるのなら、大きな力となろう。
……大戦の頃、私はまだ若くして王位を継いだばかりであった。
混乱の中で多くの知識や人材が失われ、彼の名も伝わらずにいたのだ」
「それは……心強い!」
思わず声が漏れた。あのときの奇妙な出会いが、こうして確かな支えにつながるとは。
「ありがとうございます。必ずや形にしてみせます」
僕は深く一礼した。
リィナの瞳には期待が、アルディスの顔にはわずかな安堵の色が浮かんでいた。
――いつかこの世界で、自分のFPGAを作る。
それは険しい道に違いない。けれど、胸の内には確かな高揚があった。
ふと、元の世界の研究室を思い出す。
教授が山のような申請書を書いて、ようやく研究費を取ってきてくれていた日々。
まさか、この世界では国王の一声で研究費が下りるなんて――。
手続きがあまりにシンプルすぎて、逆に怖いくらいだ。
それでも胸が高鳴るのを抑えられなかった。
期待をかけられることには緊張する。けれど、それ以上にワクワクしている。
***
後日、ルシアから連絡があった。
「祖父に声をかけてくださって、ありがとうございます。
ソーマさんが基礎から回路を学んだうえで新しいことに挑もうとしていると聞いたようで、
『一緒にやれるやつだ!』と大喜びで張り切っています。
“若い頃の祖父が戻ってきたみたい”って、母も驚いていましたよ」
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