第15話 はじめての魔導回路・後半

「NANDができたから、あとは何でもつくれるな...少し背伸びして“ALU”を作ってみよう。」

足し算、引き算、AND、OR――切替線を増やし、演算の選択を加える。

自分で魔導素子を組み合わせて作った基本回路を積み上げていくと、机の上はあっという間に埋まった。

「まるでブロック遊びだな」思わず笑う。紙の上に配線図を描いては動かしていた頃の感覚が甦る。


だが、すぐに問題が顔を出した。

教材用の古い部品はばらつきが大きい。魔石からの供給も安定しない。素子を通るたびに微弱なノイズが乗り、出力はちらつき始めた。

「……これじゃ計算結果が安定しない」

水晶板の波形は揺らぎ、読み取りにくい。


リィナが考え込む。「魔元素の流れは湿度や温度に影響されます。規模が大きくなるほど、揺らぎが蓄積するのかもしれません」

「なら、補償を入れる」

僕は位相が逆になる小さな帰還路を組み、揺らぎを打ち消す網を挟んだ。

魔石を接続――波形がすっと整い、ALUの出力は狙い通りの値を示した。

「よし、安定」胸を撫で下ろす。


リィナがふと羊皮紙の束を取り出した。

「ソーマさん。図書館で見た古い写本に、これとは全然違う回路がありました。

……ただ、横に“ばらつき補償”とだけ書き添えてあったんです」


彼女が描き写したのは、驚くほど簡潔な図だった。

二つの増幅素子を一見不要とも思える幾何学的な曲線がつないでいた。

細い導線が渦を巻く――まるで小さな魔法陣のようなパターンだった。


「……こんな配線の仕方、初めて見た」

僕は首をかしげた。もちろん、電子回路でも配線の仕方で電気の流れを調整する技術はあったけど、

それよりもずっと、模様に見える。

「本当にこれで?」


リィナは少し照れたように笑った。

「……実は、写しているとき“なんだろう?”って気になって、つい覚えちゃったんです」

そして、指先で羊皮紙をなぞりながら続ける。

「でも、ちゃんと真似して描かないといけない気がして……ずっと緊張してました」


僕は工具を手に取り、細い導線をぐいぐいと曲げていった。

直線で済むところを、わざわざ曲げ、円を描き、重ねて交差させる。

見様見真似で、写本の図面と同じ形に合わせる。


不格好ではあるが、それっぽい形ができたので、最後の接点をつなぎ、魔石を接続する。


次の瞬間――波形がすっと整った。

誤差は抑えられ、ALUの出力も安定している。


「……動いた……? こんな曲線だらけの配線で?」

僕は思わず息を呑んだ。


リィナは水晶板を見つめたまま、小さく笑った。

「私は“古い図面を写すだけ”だと思っていました。

けれど、実際にこうして動かしてみると――ただの写しではなく、昔の技師たちの“知恵”そのものなんですね」


僕は彼女の言葉を反芻しながら、波形の整った水晶板を見つめた。

(理屈と工夫、模様と回路。どちらも――知恵の形、か)

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