第11話 国王との謁見と資料調査

王都に入ったその日の夕刻、僕とリィナは城へと呼び出された。

「陛下がお会いになりたいと」――門番を通じて伝えられたのだ。


荘厳な玉座の間に通されると、国王がゆったりと腰を下ろしていた。


「ソーマよ、急に呼び立ててすまなかった」

国王はそう言ってから、軽く笑みを浮かべる。

「門番から報告を受けたのだ。そなたが礼を尽くして王都に入ったと。

あの結界修復の件もある。改めて礼を伝えたくてな――

それに、ひょっとすると、そなたの願いを聞いてやれるかもしれぬと思ったのだ」


僕は少し肩の力を抜いて答えた。

「お気遣いありがとうございます。

……それなら陛下に一つお願いがあります」


「ほう? 申してみよ」


僕は姿勢を正した。

「王都に残る古い魔導回路の記録を調べたいのです。

結界を見て、どうしても理屈を確かめたくなりました」


国王は腕を組み、しばらく考えるように目を細めた。

「なるほど。だがその前に……ひとつ提案してよいか?」


「はい?」


「うむ。そなたは家臣ではなく客人であり、恩人でもある。

だから――友人として付き合いたいのだ。名で呼んでくれ。

我が名はアルディス」


思わず笑みがこぼれる。

「……わかりました。では、アルディス様と」


「よし、それでいい」

アルディスは満足そうにうなずいた。

「それで、ソーマ。王都まで来た目的は、その資料調査か?」


「はい。理論をきちんと知りたいんです。

ただ、今までの写本や図面には“なぜそうなるのか”が書かれていなくて」


アルディスはしばし目を閉じ、やがてうなずいた。

「確かに、大図書館や学院には断片的な記録しか残っておらぬ。

だが、そなたの目であらためて調べてもらうのもよかろう

……いや、むしろこちらからも調査を依頼したい」


そう言うと王は横を振り返った。

「ちょうどよい。ここに王立図書館の責任者が来ている」


謁見の場の端、控えめに佇んでいた人物が一歩前に進み出る。


「ルシア=グランヴェールと申します。

王立図書館の責任者を務めており、学問と資料に仕えることを誇りとしております。

気軽に“ルシア”とお呼びください。」


眼鏡の奥からのぞく瞳は、研ぎ澄まされた好奇心と責任感を宿していた。

その真剣な眼差しに、思わず「学者肌」という言葉を思い浮かべる。


「わかりました、ルシアさん。よろしくお願いします」僕は笑顔で応じた。


「彼女は今日、王立図書館の報告でたまたま城に来ていたのだ。

そなたの調査を助けるには、これ以上ない案内役であろう」


王の言葉に僕は「頼もしい限りです」と答え、ルシアも丁寧に一礼した。


リィナも笑顔でうなずいたが、胸の奥では少しだけ複雑な思いがよぎる。

(……二人きりで見て回れると思ってたのに。まあ、仕方ないか)


もちろん、ルシアが加わってくれた方が調査は心強いのは分かっている。

けれどほんのわずかに、楽しみにしていた時間を横取りされたような気がして、

彼女は小さな溜め息を胸の奥でひっそりと飲み込んだ。


――こうして僕は、正式に王都での文献調査を許可、いやむしろ依頼され、

さらに頼れる協力者を得たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る