第17話 三色の刻印
港町にルミナスを着けたリアたちは、まず街の雑踏に身を紛れ、情報収集を始めた。
リアはいつもの好奇心と慎重さを混ぜた口調で周囲を観察する。
「ここなら、何か手がかりがあるかも……」
すると、路地の角から少年がにやりと顔を出した。
「おやおや、こんなかわい子ちゃんが冒険者さんかい?旧世界の遺産を探してるんだって?」
「え、あなた……?」
「俺か?俺はカイル。十五歳だけど、この街のことならだいたい知ってるぜ」
カイルは軽薄そうな笑みを浮かべ、口も達者だ。だが、その目はするどく街の状況を見抜いていた。
彼は条件をつけてくる。
「いいけどさ、ちょっとした依頼をこなしてくれたらな。簡単なことさ。俺にとっても面白い話になるしね」
依頼内容は小さく、街の小さな雑用や情報の取りまとめだった。リアたちは了承し、まずは少年の案内で街の噂を集め始める。
一方、街の奥の古びた骨董屋では、年齢不詳の女性が店先で静かに微笑んでいた。
「いらっしゃい。私はセレナ。古い物や魔法の品を扱っているの」
知的で神秘的な雰囲気を漂わせるセレナは、店の奥からリアを呼び寄せる。
「あなた……少し特別な力を持っているのね」
セレナはリアの能力を察し、クロックハートや旧世界の遺産に関する知識を小出しに提示する。
古文書や巻物を差し出しながら、意味深な問いを投げかける。
「危険な目に遭ってまでこの世界の真実、知りたいと思うのかしら?」
リアは問いに真剣に向き合う。彼女の心は、クロックハートの力と自分の使命の間で揺れる。
カイルの軽妙さと、セレナの神秘的な存在。二人の異なる助力者が、リアに新たな道を示す。
夜が街を包むころ、リアたちは情報と依頼を整理しながら、次の行動を決める。
港町での出会いは、旧世界の遺産へ向かう新たな糸口となったのだった。
港町での情報収集を終えたリアたちは、ルミナスに戻る前に街で必要な物資を整えることにした。
「まずは武器と食料の補充ね……」
リアはそうつぶやきながら、バッグを整える。アッシュやミルダも各自必要な装備を点検する。
幸いにも、先日空賊の頭を捕まえたことで得られた報奨金はかなりの額になっていた。
「これでしばらくは困らなさそうだね」
ミルダは少し安心した声で言い、荷物を肩にかける。
街の雑踏を抜け、港の方向へ歩くと、情報屋のカイルから聞いた新しい旧世界の遺産の手掛かりが頭に浮かぶ。
どうやらその遺産は、北の港にあるらしい。
「北の港……か。よし、目標は決まったわね」
リアは強い意志を込めてつぶやき、ルミナスへ戻る足を早める。
街を後にしながらも、リアの胸には少しの不安が芽生えていた。新しい遺産にはどんな危険が待ち受けているのか。
しかし、仲間と共に進む道に迷いはない。
ルミナスの甲板に戻ると、船は既に出発の準備を整えていた。風を受けて帆が揺れる中、リアは仲間たちと目を合わせ、小さくうなずく。
「さあ、北の港へ向かいましょう」
その声に応えるように、ルミナスは静かに港を離れ、未知の遺産へと進んでいった。
リナは小型飛行機の操縦席で微笑みながら窓の外を眺める。
「ふふ、北の港街ね。面白くなりそうだわ」
空は澄み渡り、港町の赤い屋根や石畳が徐々に近づいてくる。着陸すると、リナは軽やかに機体を降り、街の雑踏に紛れながら歩き出す。
そのとき、胸の奥でクロックハート靑が微かに反応した。
「アハ、もう見つけちゃった♡」
リナは目を輝かせ、街の片隅にある古びた建物の地下室へ向かう。
地下への階段は薄暗く、湿った空気が足元を包む。リナは胸の高鳴りを感じながら、一歩一歩降りていく。
「ふふ、これでまた私のものになるのね……」
心の中で小さくつぶやき、地下室の扉に手をかける。
そこには、クロックハート靑が示す光の先に、古い遺産の気配が確かに漂っていた。リナは満足そうに微笑み、足を踏み入れる。
思わず声が漏れ、リナは小さくくすくすと笑った。いつもなら誰かに見られるのを避けるのに、この瞬間だけは心からの喜びが勝った。地下室を示す直感に導かれ、リナは街の片隅にある古びた建物へと足を運ぶ。周囲の喧騒に紛れて、自分の行動を誰も気づかないだろうという確信が、心に少しの余裕を与える。
建物の入り口に差し掛かると、木製の扉が軋む音を立てる。リナは指先で扉を触れ、わずかに震える心を落ち着けた。目の前の階段が地下へと続き、ひんやりと湿った空気が足元を包む。息を整えながら、一歩一歩慎重に降りていく。足音が階段に反響し、まるで地下全体がリナの存在を察知しているかのようだ。
「ふふ、これで……目的にまた一歩」
胸の中で小さくつぶやき、微かに笑みを浮かべる。リナはこれまでの孤独な旅を思い返した。誰にも頼らず、誰にも気づかれず、クロックハートを集め続けた日々。人知れず奪い取った青のクロックハート、黄色のクロックハート、そして誰も知らないもうひとつの力――それらすべてを手にして、今、目の前にあるものを見つけようとしている。
地下室の扉に手をかける瞬間、リナの心臓は高鳴った。扉の向こうには未知の空間が待っている。彼女の中にわくわくと緊張が入り混じり、まるで呼吸そのものが軽く弾むようだった。手を引き、ゆっくりと開く。扉の軋む音が響き、埃の匂いが鼻をかすめる。
地下室の中は薄暗く、壁に刻まれた古代文字や、ほこりをかぶった棚が並ぶ。光はわずかに差し込み、リナの足元をぼんやりと照らす。クロックハート靑の振動が微かに強まり、床の奥から何かが呼んでいるかのようだ。リナは目を細め、息をひそめながら足を進める。
心の中では、戦略や予測が巡る。誰もいないことを確認しながらも、もし何か罠があったら――と慎重になる自分と、もう待てないと心が叫ぶ自分。緊張と期待が入り混じり、時間の感覚が少しだけゆがむ。
「ふふ、もうすぐ……」
指先に力を込め、クロックハートの導く方向へ進む。奥にある小さな光が見え、リナの心が弾む。光は古い遺産から放たれる、ほんのりとした青白い光。クロックハート靑の導きと完全に一致している。
リナはゆっくりとその光の前に立つ。手を伸ばすと、まるで力が自分を歓迎しているかのように、胸の奥で熱を感じる。長い孤独な旅、誰にも見せられなかった笑顔や涙、すべてがこの瞬間に意味を持つようだった。
リナが光の中心に手をかざした瞬間、地下室全体が低く唸るような音を立てた。床が微かに震え、壁の石材が軋む。次の瞬間――
「……なっ!?」
目の前の景色が瞬時に変わる。広々としていた地下室は迷路のように入り組んだ通路へと変貌し、天井の高さも微妙に変わった。石の壁が不自然に組み替わり、出口らしき場所もわからない。リナは一歩後ずさり、息を詰めた。
「ふふ……簡単には渡さないってわけね」
リナの唇がわずかに歪み、挑戦的な笑みを浮かべる。クロックハート靑の振動がさらに強まり、冷たい光が指先に絡みつく。迷路の奥から、確かに何かがこちらを見つめている気配がする。
「……まずは、黄を用意」
リナはポーチから黄色のクロックハートを取り出し、掌に収めた。手のひらからじんわりと熱を感じ、心が落ち着く。黄と青のクロックハートの力を組み合わせれば、予期せぬ敵や罠にも十分対応できる。
壁の奥、曲がり角の先から微かな影が揺れる。気配は近づいてくる――冷たい風と共に、何かが忍び寄る音が床に反響する。リナは姿勢を低くし、目を細めて相手の動きを見定めた。
「ふふ、さあ来なさい!」
クロックハート黄を掌で転がすと、柔らかな光が周囲を包む。迷路の影がその光に揺らぎ、微かな足音が反射する。リナの心臓は高鳴り、息を整えつつも指先は戦闘準備を整えた。
迷路の奥から、気配が明確になり――低い唸りと共に、影がひとつ、またひとつと姿を現す。リナの目は光の揺らぎに敏感に反応し、攻撃と防御のタイミングを計る。
「簡単には渡させない……ってわけね。なら、私も本気でいくわ」
リナは掌のクロックハート黄をぎゅっと握り、奥から迫る気配に向けて一歩を踏み出す。迷路の壁は無機質にそそり立つが、彼女の視線は揺るがない。戦いの予感が胸を高鳴らせ、興奮と覚悟が入り混じる。
影が近づくたび、リナはクロックハート黄の光で動きを読み、次の行動を瞬時に決める。迷路の中での戦い――この地下室の試練は、簡単にはクリアできない。しかし、リナの瞳は楽しげに輝いていた。
奥から低く、何かが唸るような音が近づく。壁に反響するその音に、リナの耳が敏感に反応する。影がひとつ、またひとつ、石の間から滑るように現れる。四肢をひそめ、静かに光と黄のクロックハートを手の中で転がす。
「……来なさい消してあげる」
指先で光を操作すると、微かに壁のひびや影が揺らぎ、敵の動きが光に映る。迷路の構造が変わった今、予測できるものなど何もない。しかし、リナは楽しげな微笑みを崩さず、心の奥で冷静に計算していた。
影が突然、跳ねるようにリナに向かってきた。その瞬間、リナは黄のクロックハートを光の中心に向け、微かな衝撃波を放つ。影は光に撥ね返され、迷路の壁に打ち当たって軋む。
「ふふ、やっぱり……簡単にはいかないのね」
呼吸を整え、次の敵の動きを待つ。迷路内の暗闇は深く、影は壁に紛れ、音だけで存在を感じるしかない。しかしリナは、クロックハートの振動と光の反応で敵の位置を瞬時に把握する術を身につけていた。
「青、黄、もう一つ…………」
秘めたクロックハートを手元に感じる。まだ封じたまま、必要な時にだけ力を解放する。その選択肢があることで、リナは心理的にも余裕を持てる。迷路の中での攻防戦は、単なる力のぶつかり合いではない。戦略、心理戦、そして楽しむ心――すべてが揃わなければ、迷路を制することはできない。
影が複数、四方八方から迫る。リナは壁を蹴って跳び、黄の光を敵の足元に落とす。光が届いた瞬間、影は鋭く後ずさり、冷たい風が迷路内に舞う。
「簡単に渡さないなら……私も本気でいくしかないじゃない?」
掌で黄を操り、影に光の結界を作る。青は振動で敵の動きを乱し敵は混乱し、攻撃のタイミングを狂わされる。リナの心臓は高鳴るが、息は安定している。彼女は楽しんでいた。戦いという名の迷路探索を、クロックハートの力で進む楽しみを。
敵のひとつが壁を蹴って飛びかかる。リナはタイミングを見計らい、黄の光を前方に展開。影は光に弾かれ、床に倒れ込む。続けて青の振動を波のように放つと、迷路全体の石材が微かに共鳴し、敵の足元が不安定になる。
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