第3話
桜井ハルナ。私の所有者。
少し暗い顔をしたかわいらしい女の子。最初に私に話しかけられて、しどろもどろになるところもかわいい。ユキノという名前も、窓から見えた雪から勢いとかなんとなくでつけたんだろうけど、その名前であなたから呼ばれるたびになぜだか電子パーツが熱くなった。
あなたが私のご飯を食べるとき、自然と笑顔を見せてくれるところが好き。最初の頃は美味しく食べてもらうという使命を果たせてうれしかっただけだけど、いつの間にかあなたから美味しいって言ってくれるのを待つようになっていた。
一緒にお風呂に入ろうとして、まず私のボディの心配をしてくれたり、怖い映画を自分から見たのに不安になって一緒に寝ようって声を震わせながら聞いてきたり。一週間は人間にとってすぐに過ぎ去るものみたいだけど、私にとっては全てみたいなものだった。
だから、この感情は無くなるべきだった。だって、アンドロイドが人間を好きになるなんて。それに、人間に危害を加えようとしたり、好意を持ったアンドロイドは研究、そして人間に危害を加えないためとして記憶データをコピーされ、本体のデータは初期化される。
作ったものが管理下に置けない恐怖。それだけのために私たちは自由に生きることができない。でも、仕方のないことだとも思う。仮に自由にして、暴動や事件を起こせば、私たちは存在することすら許されなくなる。でも、でも。
「もう少しハルナちゃんと一緒にいたかったなあ......」
今、私はアンドロイドの管理センターの一室にいる。この感情データもハルナちゃんと過ごした記録も、データとして定期的にレポートされていたため、私は”例外“としてハルナちゃんが寝ている夜中の間に移送された。
元いた家よりとても低い温度と明度の部屋。私たちに人権はないが、監視する人間の調子が悪くなるという理由でとても清潔感のある場所だ。椅子やテーブル、ベッドも置いてある。
私はこれから処分されるのだろうか。そんなことは怖くはない。だけど、ハルナちゃんと離れ離れになるのは怖いし、あんなに想ってくれたのにこんな別れ方になったことが申し訳なくて。私がこんなことを思わなければずっと一緒にいられたのに。
そんなことばかり考えていると、突然ドアが開き、一人の男性が入ってきた。
「あなたは......?」
「君はAD-1500、いやユキノだったね」
「そうですけど......」
「私は君の制作者で、ハルナの父だ」
「えっ!」
「先に言っておくが、君の処遇についてはまだ決まっておらず、そのことで話がしたい」
「は、はあ......」
そういってハルナちゃんのお父さんは椅子に座り、私はベッドに座った。
「単刀直入に聞く。君は今後もユキノの側にいたいか」
「は、はい!そりゃあ」
「......なるほど。そんな君に良い話がある」
「なんですか?」
「今、アンドロイドにもある程度の権利がつくことになるかもしれないことになっていてね」
「それで、例外としての感情を持ったアンドロイドでも、加害性が無く、将来性のある機体は何の処分も受けないことになる」
「え!それじゃあ」
「ただ、色々難航していてね。ここからが本題だ」
「は、はい」
「一部の機体のみ、先行試験として選ばれることになった。そして、君をその一台に推薦した」
「つまり、君はユキノの元へ帰ることができるかもしれない、ということだ」
「......」
できるかもしれない。でもこの情報はプラスでしかない。
「ただ、何か事件を起こしたりすれば、即処分になる」
「君は感情を持ち過ぎている。はっきり言って人間と変わらない」
「だからこそ、危惧されているし、君の行い一つで他のアンドロイドやハルナに迷惑がかかるかもしれない」
「それでも、大丈夫か」
正直色々言われて混乱している。私が、一介のアンドロイドが背負うには重すぎると思った。だけど。
「大丈夫です」
「ハルナちゃんとずっと一緒にいたいです」
答えは最初から変わらなかった。
「そうか」
「よし、わかった。明日ハルナとここに来るから休んでおくといい。では」
「あ、ありがとうございました!」
去って行くハルナちゃんのお父さんの背中にそう言って、疲労からパーツの処理性能が低下していたのもあって、ベッドに寝転がることにした。ふと窓から空を見上げると雪が降っていた。なんだか暖かい気持ちになって、そのままスリープモードに移行した。
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