第49話 彼らの家にて

 昼時前、キッチンにマーストンたちは集まり、皆で、お揃いの部屋着を着ていた。


 ◇


 その服については、サラティーがマーストンたちの住む家へ引っ越す際、必要なものをマーストンたちを含め、新たに買いたそうって話しが発端だった。


 もちろんサラティーもいろいろ買い足すことになり、彼女の馴染みの服へ向かう。

 

そこでどうやら……、ダークエルフさんの普段着に、何て言うか男性二人と精霊は無頓着だったようで、サラティーが加わったことで、普段着以外の事にも話しが盛り上がったようだ。


 そして……。

『まぁ、お揃いですか? 皆さんよくお似合いですわ。今、皆さんで買いになるなら、これくらいお安くなりますが、いかがでしょうか?』


 サラティーと仲の良い店員さんが、そういってくれて、おまけして貰える事になったらしい。


「これをみんなで買おう! こういう風に、パーティーメンバーでお揃いの装備、着てみたかったんだ~」


 だからニンフの分も、子ども服も売っている店だったので、それまで遠くから見守っていた僕は、ニンフに連れていかれ色選びを手伝う羽目になっていた。


 そして彼女は試着室から出てくると、ピンクの収縮性のある生地の部屋着を着て、「可愛い」「可愛い?」と言うかのように、パーティーのみんなに見せてまわる。


 そんな風にニンフと、サラティーが目を輝かせていたことについて、良かったと安心してたら、男性用もありますよと、気づいたら色ちがいで、本当に全員でお揃いの部屋着を買うことに。


 途中でうろうろしていたニンフは僕に捕まり、他のお客さんの邪魔にならないように、手を歩いて一緒に歩いて見ることに。


 そして2人で、ダークエルフさんのもとへ行くと、彼女は袖を、上から下へ擦るようにして着心地を確かめ、そして僕らに気づくと「お揃いで可愛いですね」と微笑む。


 ざっくりとした感じの部屋着なのだけど、プロポーションの良いダークエルフさんが着ると、どこか違って見えるな、ってのは、ただの感想。


 そしてマーストンは……。


「なんか練習着を思い出すな」

「ご存じなんですね。そうなんですよ。家でくつろぐための着心地の良さ、動きやすさを重視して、一部の騎士団の方が練習着として愛用してる、練習着と同じ生地でおります」


「あぁ、やっぱり」

「それにしても、皆さん身長が高くて、着ていただいて服が映えますわ。劇団の方々だったりしますか?」

「いえいえ、そんな」


 そう話すアレックスの話が終わるのを、服の影から見ていた。

 なんというか、あそこに割ってはいるってのは、気が引けると言うか……。

 まぁー、そういうことはある。


 しかし、マーストンの手を離し、ニンフが2人の間へ割って入ってしまう。

 そしてペコッっとお辞儀をすると、アレックスの手を引いて、こちらへと帰って来ようとしてしまう。


「まぁー可愛い妹さんですね。ごゆっくりご覧ください」

「はは、ありがとうございます」


 そしてやって来たアレックスは、紺の部屋着が似合ってた。


「ニンフはどうしたんだ?」

「部屋着が、気に入ったから、早く買って欲しいらしいんです」

 ニンフは、コクコクとうなずく。


「似合っているし、可愛いからいいんじゃないか?」

「じゃあ買おう。ところで、ニンフはそれで帰るの? ……部屋着は部屋で着るから、部屋着なんだけどな……。まぁいいか、ニンフは別に部屋着はあるし」


  「「お買い上げれ、ありがとうございます」」


 ◇◇


 って具合に、何となく色はバラバラで、同じ形のものを着ていた。


 そして、今、昼ご飯の準備中、僕はじゃがいもを剥いている。

 昼ご飯にはカレーにするつもりで、作っているけれどサラティーも増えて食事作りも一仕事になっていた。


 僕の目の前に、ボールいっぱいにじゃがいもがある。

 皮剥き器はニンフと、ダークエルフさんがむいいて、……ニンフは監督をしていた。


 ……ニンフ……彼女に何が出来るんだろう……、この前、玉ねぎの皮を剥いてる手で、目をこすって凄く泣いてたし……。


 精霊の幼い姿をあまり見ないから、きっと大人なる前、普通はふわふわとしている土塊つちくれで、意志なんてないからな……。


「やはり……子供には料理は危ないし無理か……」

「そんな事ないよ。子供でもやれば出来るよ!」


 サラティーは、涙を浮かべ、まな板を置く机にもたれて立っていた。


「サラティー大丈夫かい?」

「ボクは昔から玉ねぎとは、相性が悪いんだ……」

「あ……目に染みるからね~」


「ボクも、じゃがいも剥きやろうかな……?」


 玉ねぎを切る時、泣かない方法はないわけではない。

 だけど……、早く切ってしまった方が早かったからな……。


 マーストンは祖父との2人だけの生活を思い出すが、助言を出来ることはなかったようだ。


「じゃーお願いするよ」

 そういうと彼は立ち上がり、人参を向いているダークエルフさんのもとへ行く。


「ダークエルフさん、ニンフこれ借りるね」


 そう言って、皮むき器を持って行きサラティーへ差し出す。

「やった! じゃがいもなら剥けると思うんだ」


 そう言ってじゃがいもを剥きだし、僕は玉ねぎの皮を剥ぎ切って行く。

 独特のツーンとした香りがあるが、僕には泣くほどではないようだ。


 用意したフライパンにいれ、玉ねぎをジュージューと飴色になるまで、フライ返しを使いながらで炒めていく。


 しばらくすると美味しそうな玉ねぎの匂いが、辺りにただよう。


 そこへニンフがやって来る。


「ニンフ、小鍋に水を入れて大鍋に2杯ほどいれておいて」

 うなずくニンフは少し危なっかしい感じで、大鍋に近寄ったところで――。


「ニンフ、貸して入れるのは僕やるよ」

「いや、ボクやるよ」


「サラティー、じゃがいもは?」

「ダークエルフさんがほぼやってくれたよー。凄いよ! 彼女はシュルシュルと、剥いていくんだ。しかも包丁でね」


「うん、凄いね……」

 そこに迷いの森の、秘密があるって知っている僕は、静かに同意した。


 そして、炒め終えた玉ねぎを入れたところで、「話し込んでしまった」そう言ってアレックスが、隣のブルーノさんの家から、鶏肉を持って帰って来た。


 鶏肉がこんがり焼けていてやはり、食欲を誘う良い匂いがする。


「美味しそうですね」

 そう言ってじゃがいもを剥いたら、ダークエルフさんもやってくる。


「焼いてくれたんだよ。コンロが足りないだろうって言って」

「今日はカレーは、鍋で持って行く?」

「いや、ブルーノさんの家は、シチューにするらしい」


 そう話しながら、アレックスは鍋に鶏肉をいれていく。


「後、ボクが焼いてあげるよ。炒めるのは上手いかもよ?」

「僕の家ではじゃがいもと、人参は直接鍋に入れてたから……」

「うちも山で作った時は、そんな感じだ」


「いいの! ボク流でやるの」

 そう言って、彼女に押しのけられてしまった。


「そう言えば、これから迷宮どうする?」

「きら、執事は結構直情的で見た目ほど、穏やかでないことですかねー」


 マーストンたちは、キッチンの壁と机に少しだけ体重を預け話している。


「そして十中八九、ホワイトが言っていた、『200年ほど前、希少なハイエルが何人か殺されている』……その犯人だな」


「なら、エルフの管轄じゃないですか? でも、問題が今は、人間界の出来事は管轄ではないとか、言い出しそうな事ですね。でも、エルフなら200年ならまだ殺された親族が……」


  そう言った時、口をつぐみ手をやった。


 そして振り向き、ダークエルフさんの方を見ると、彼女と目が合い。

 少し困った要に笑った。


 マーストンがうろたえた事が、彼女にはわかったらしい。

 200年のエルフの殺害の動機が、彼女の周辺にあった事は間違いない。


 マーストンはその話を含めて、どう切り出すべきか悩みが増えた。


 続く

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