第48話 思いもよらない打撃
滝が水しぶきをあげて、滝壺へと落ちている。
100メートル位の高さがあり、マーストンは死にそうだった。
「いらしてください! 地下の堅実な王へルモンド!」
マーストンは天に仰ぎ叫ぶ! そしてノーム、ヘルモンドは彼の前へとあらわれた。
小さな体のその老人は、マーストンを見つめてしかめ面をした。
「休憩かと思い、茶の用意をさせたのだが」
「すみません。出来たら今日中に終わりたかったので」
マーストンは、前のめりに倒れ込みながら、そう言うのだった。
◇◇◇
迷宮の貴族から辛くも逃げる事ができた。7人はギルドの待合席に居た。
イックは損傷は治っているが、蓄積しているだろう疲労があるだろうと、「マーストン、アレックス頼む」と言って、宿屋へ先に帰っていった。
「25番のお客様」
そう言われ、マーストンたちは立ち上がり、チトセの前に立つ。
「「よろしくお願いします」」
「あの……、ブラックファイアの皆さんを別に、先にお話ししてもかまいませんか?」
「困ります」
「無理です」
そう、ブラックファイアーの、戦士のラスクと、ヒーラーのノロシは即答した。
「うーん、困りましたね……。イックさんが居なくても業務連絡はする様にしましょう! 頑張りましょう!」
「「次回頑張ります」」
練習していたかのように、二人の声は揃う。
ウェーブのかかったブラウンの前髪から、見る事のできるチトセの目からは、彼女の感情を測ることはできなかった。
だが……。
「そんなんじゃー駄目なんです。イックさんが居なくても頑張って話しましょう。合同クエストの際、イックさんが後で、調整しに行くようじゃだめんですってばー!」
どうやら……だいぶ、ノックと、チトセが大変なことはわかった。
「その時は、何かいける気するんだが……」
「じゃー今、いけます。頑張りましょう」
そう、両手をグゥにしてチトセが言う。
「やろう……」
「だな」
「では、僕らは……」
そうはその場を離れようとすると、彼らはそろって「「なんでだ!?」」と、言うし……。
「『世界樹の葉』の皆さんできれば、一緒にお願いします」
「わかりました」
「では、報告がラスクがします」
ラスクは、そう言ったノックを、目を見開いて見ている。
どうしても無理なのか? 話さないための、頭脳戦が始まってしまったようだ。
「なんでだ……。今回、迷宮のクエストでは一層から執事はおり、ノックの不用意の一言で激怒し、今回のクエストは失敗。以上だ。不測な事態が想定されるため、2日間の迷宮侵入禁止を、提案されているはずだ」
「はい、ありがとうございます。2日間の迷宮侵入禁止の提案は、考慮させていただきますが、制限時間がありますので、その限りにないことをご承知ください。迷宮に限り、基本討伐料が設定されております。今回、不測の事態って事でこれくらいとなりますが」
「了承している」
ふたりは見ずに、決断してしまう。
まぁ、もめると話して妥協点を探す話し合いだしね……。
「はい、ありがとうございます。あの……イックさんのお加減はいかがでしょうか? 貯めてある費用はお使いになりますか?」
「元気だから大丈夫だ。以上だ」
「はい、ありがとうございました」
『ブラックファイア』受付が終わり、ラスクさんたちは早々にベンチと帰ってしまった。
そしてマーストンたちの番となった。今回、執事の対策は失敗したがやはり、迷宮について言われるのだろう。
「次は『世界樹の葉』の皆さんですね。……あの皆さん」
チトセのいつもと違う口調に、マーストンたちに緊張が生まれる。
「迷宮は大切なクエストです。しかし一般的なクエストも大事なんです。だから、期限切れ間近のクエストを手伝ってください!」
「えっ……ああ……」
マーストンがそう言ってる間に、「いいぜ!」、「はい」と、声が上がる。
そしてカードを見せつける様に、薬草を持ったニンフがいた。もしかしたらニンフは包帯を持った、看護師ポジションにいる感じだろうか?
「わかりました。クエストについて説明してくれますか?」
そう言うと、チトセはテーブルの端に置かれていた、クエストの手配書を右手でずらし、彼らの前へと置いて見せた。
滝に眠る紫の卵、その卵がいくつも集まり、落ちる滝の裏に眠っている。
そんな感じの内容で、その孵化が3日前もから始まっているようだ。
「クエストの内容はそのままなのですが、なにぶん滝の裏って点がネックなようで、なので……どうしても冒険者さんたちは、迷宮のクエスト側に足が向いてしまいます……」
「足場作りにむいている魔術師も、魔力の限界があるから、滝に作れる人は限られますよね」
「ですが、ニンフちゃんの薬草なら大丈夫かと、思いまして」
そう手を合わせるように彼女は、満面の笑みを浮かべ、僕の心臓は、あの苦味を思い出したかのように跳ねた。
滝の大きさによっては、どれだけ薬草を食べさせられるか、わかったものではなかった。
マーストンが考えている間に、ニンフが片手を上げ、薬草を掲げながらバレリーナの様にクルッっとまわる。
そしておめめをキラキラさせて、チトセに向けて薬草を手渡そうとする。
「くれるんですかー! わぁーこれ高いのですよねー。S級冒険者さんがそう言ってましたー」
「あっ……苦いですよ」
「むぐっ、モグモグモグモグモグ…………あっ、本当、ちょっと苦いですね」
そんなちょっと? 涙目のチトセを見て、「できる事はします」と、彼は大いに動揺しながら言ったのだった。
◇◇◇
そして馬車で、3時間の距離移動し、ここへ来た。
足場作りで、今は2回目のノームのへルモンドさん召喚したところで、早いもので足場のかかった滝の下側の、卵は剣技の魔法によってほぼ全滅らしい。
そしてその空き時間、ダークエルフさんが土の魔法の練習を兼ねて、滝の付け根の足場作りを行っている。
「土よ、集まっ
「もっと集中して、強く念じてくれ」
ダークエルフさんは両手を前に出し、詠唱している声が、滝の水音に混じり聞こえて来る。
「マーストン、手がお留守だぞ」
「あぁ、ヘルモンドさん、ヒーラーほどではないのですが、さすがに貴方を呼び出している最中に何度も黒魔法は使えませんよ。でも……彼女は、さすがダークエルフ、先ほどから見ていますが、彼女には魔力の衰えがみられないのですよ」
「人をうらやんでも、どうにもなるまい?」
「それはそうですね」
僕が言い終わらない内に、まるで、布団を引くかのように、
「お見事です」
「お前は俺が魔法を使うたびに、世辞を言うつもりか? それにしても、先ほど言ったが、魔法を上から下へ降ろせばいいだけだろう? めんどくさいのう……」
「ノームは自然を愛してるのでは?」
「愛してはいるが、知識のないものに、火山地帯に追いやられたからなー……、それに自然は思った以上に、自然を壊しもする」
そんなことを言われると「そーですね……」と、僕は返すしかなかった。
「では、始めるぞ」
「はい!」
◇◇◇
そして夕暮れ時ーー。
夕暮れの茜色の空、土の要塞と化した滝と、そこから流れ去るどこまでも続く様な、川の流れを背後に働いていた。
その時、滝の中からふわふわと、アメーバの様な何かが現れ、風に吹かれて飛び去ろうとしている。
「孵化が始まった?」
「倒しましよう!」
足場蹴りあげ、ダークエルフさんが跳び、アメーバをたたっ切る。しかしその背後から新たなアメーバ!?
「数が多すぎる……」
「マーストンなんとかして!」
「こう足場が悪く、数が多いと魔法も仲間にも被弾する可能性がありますからねー」
「それは見ればわかるよ! 剣! 剣はないの?」
「あ……あります」
「じゃー行きなよ! 何やってんの?」
サラティーは滝の魔物を指差し、従兄に情け容赦なくいた。
ヒーラーの彼女が居るなら、マーストン生き残りさえすればいい。
彼は鞄の中を探し、細身の剣を組み立てる。
「これだけいれば、どれかに当たりますかね?」
そう言って剣の刃をなぞっていく。
そしてグリップを握り魔物向かって、振り回す。
一瞬、空間が明るくそまり魔物は、メラメラと燃え上がる
そして足場を飛び、次のエリアに。
「これは」
アレックスが、マーストンを見てニヤっと笑った。
「マーストン、何してるの!? 危ない!」
「大丈夫です。剣は父に習ったので」
そして彼は敵を次の場所へと、飛ぶ。
次の場所へは、アレックスも飛んできて、「なぜ、隠してた?」彼は笑い顔で、マーストンに聞いた。
「ヒーラーをやってくれって、言われてから忘れてました」
「なるほどなー、筋はいいが、久しぶりなら無理のない様にな」
会話を交わすと、マーストンも、アレックスも次の場所に向かった
そして一番星が空に瞬く頃、敵は沈黙し帰る時間をむかえた。
帰りの馬車でーー。
「マーストン、明日から朝のランニング加わってくれ……」
「え……、ですが、、朝寝坊は僕の最大の娯楽であって……」
「マーストン、朝の空気は痺れるようで、朝~って気がしますよ。頑張りましょう」
マーストンは完全に、体操座りの格好で、膝に顔を埋めうなだれていたが、小さな声で「はい……」っと言ったのだった。
続く
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