第26話 新しい日常

  今年最初の迷宮踏破は僕らだった。


 それから日にちと共に、迷宮の見つかる数が増えている。

 少しづつ、ギルドでの話題もその事になり、水の中の蛙のように日々にならされていっている。


 ギルドでまっていると、僕らとともに迷宮討伐をするパーティーがやっと決まったようだ。

 ギルド職員のラドルが3人、パーティーのメンバーを連れて来たのだった。


         ◇◇◇


 集まった2パーティー、中堅どころのCランク。


 そんな僕らと同行する彼らは、ラスクさんも、ノロシさんも全く話さなかった。

 そして時折、折りあくびを繰り返した。あまりの多さに僕にも移ったりす。

 

 ただ、彼らの中で、黒魔のイツクさんが、ふたりのお母さんの様に凄くしゃべっていた。


「ま、こいつらはあんまーしゃべらないけど、根は悪くないんだ。喋らないけど」


「まぁ、迷宮に行くまで何があるか、わからないしないかな。相談することも少ないしな」


 そう言ったアレックスとは、今度は、ラスクの持っている大剣について、何かを話しだした。


 ……しかし剣の名工などに、ついてだったので、僕としては理解がするまでにいかず――。


「こいつ、俺がしゃべりかけても話さないのに、剣の話はするか!?」


 イックさんにいたっては、ラスクさんの背中を叩いていた。


「仕事が増えそうだから、止めろ」

「お前まで、しゃべるのかーもーいやだ、こいつら」


 ノロシさんまで話し、知らぬ間に『ブラックファイアー』は解散の危機かと、僕はそっと見守っていた。


 ――これは……外野が口を出していい問題ないしなー。


 そして波乱な幕開けの中、馬車が止まる。


「皆さん、到着しました。まず、帰還用護符の確認いたします」


 僕の護符の上で、紐に括り付けられた水晶は大きく揺れる。


 「護符の魔力については、大丈夫のようですね」


 僕らはそれを聞き終え、荷物を持って馬車を降りた。

 そして魔法陣の中へ荷物を投げ入れた。


 淡々と作業は進む。火が見えることもなった。

 

「魔物は、出て来る気配はなかったな。では、先、行ってくる」


 アレックスに続き、ダークエルフさん、僕と続いた。

  

   ◇◇◇

 

 辿り着いた先、大きさとか関係なく、海がある。

 海と言う理由は、波の満ち引きがあり、波が出来ているからだ。


 そして磯野の香り。


 生息している人魚が僕をみた途端、手を振ったり、歌を歌ったり、なんか変だ。


「異常だな……。マーストンを見た途端動きが活発化している」


 そこへニンフが現れ、人魚の前へ薬草の葉っぱを持って歩いて行く。

 その途中で、近寄られている人魚は、ドボーンと海へ飛び込んだ。


「あれ、嫌がらせの意味もあるのか?!」

「まぁ、怒った時のほうが、多く葉っぱをくれますからね……。たぶん」

「え……っと」


 ダークエルフさんは複雑な顔をしている。

 

「どうしたんですか?」

 人魚は女性のみで、恰好について、複雑な思いがあるのかも?


 そして彼女は、黒魔術師の衣装を着て海風にあおられながら、ニンフのもとへ歩み寄る。


「ニンフちゃん、私のこと嫌い?」

「……あ、初対面の時、ニンフに薬草貰ってましたからね……」


「あっ、薬草やぶった……うんで、手渡した。なんだ?」

「あー彼女が、怒ってそうな時、おやつ渡して仲直りしてたんですよ。でも、子どもだったので、全部あげたくなかったんですよね」


 そうバツが悪く笑いながら誤魔化した。


 「本当に姉弟のように育ったんだな」

「祖父も召喚師なので、契約を行う関係で、すぐに敵対行動は推奨されなかったんですよ」


 そう言うと、アレックスは、腕と腕を支え顎を掴むような仕草をする。

 すまんマーストン人魚に近づかないようにして、魔法陣について聞いてみてくれ」

 

 彼はそれだけ言うと、ふたりのもとへ。


 僕は岩肌の上を歩いて行く。さざ波の中で僕の歩く靴音が響く。

 そして一人の人魚の前に立った。


 海の青さの髪から現れる、白い肢体は、岩肌を押さえて振り返る。

 

 大きな瞳、その色は、はしばみ色ヘーゼルナッツ色で、その透明感に息をのむ。


 彼女は濡れた瞳で、部屋の端を指さす。

 そこには華奢な青い、衣装をまとった娘が立っていた。


 ――あそこに、人などいなかった……。


「彼女は、誰だ?」


「あっ、アレックス、お世話になりました。わかりません。人魚が指さした時、出現したとしか……」


 その時、僕の前を走る少女を見た。


 ――ニンフだ!?


「ニンフ!?」

 叫ぶ前に、飛び出したダークエルフさんが、彼女を掴まえてくれる。

 しかし、ニンフは生まれたての子猫のように、彼女の腕の中で暴れる。


「わかるか? この状況」

「わかりません。こんな彼女は見たことない」


 僕は、ダークエルフさんの横へ行き、地面に膝をつく。


 「ニンフ」、そう言うとブラウンの瞳が僕を見つめる。


 そして彼女の瞼の上に手を置き「おやすみ」そういうと、彼女は手がゆっくりその力を失った。


 「寝かせた手前なんですが、まずいですね」

 「とりあえず、彼女は高台へ寝かせて置こう」


「うーんもうそろそろ、2陣も来る時間ですよね」

「そいうまに、一人目が降りてきた」


 ラスクさんが、こちらを見て手を振っている。


「成果は?」

「この空間は、切り取られた空間であるようです。ですので、切り取られた空間が移動して、彼女が現れました」


 「僕は海辺へ立つ、彼女を指さす」

「で、彼女は?」

 彼は、僕の腕で寝るニンフを見た。


「わかりません。彼女の走り寄ろうとして、止めるために僕が寝かせただけですが」

「しばら」


「うわぁ、人魚! しかも何も着てない!?」

 イツクさんまで、登場した。


「人魚は今のとこ敵対行動はありません、しかしあそこ、彼女は不明です。」

「では、行ってくる。彼女を頼む」


 僕は今、ここにいる彼らだけに、強化の魔法をかける。

 風は、光を纏い僕らのまわりを飛び交った。


「わかった。頑張ってこい! ってどうなっているだ?」


 そうラスクさんに聞いているようだ。時々、罵声を聞きながら、謎の娘の前に来た。


「なー君、こんなところで何をやっているんだ」

 そう言った途端、アレックスが飛びのき、娘は天へ吊るされるように空へ吊られる!?


 しかしダークエルフさんが、空中を蹴って、吊られた彼女の頭の下を、切った。


 多くの足を持つ、巨大なイカが姿を現す。

 それと、当時のアレックスが娘をキャッチ随分向こうの海へとザブーンと飛び込んだ。


 そして彼は、海からすぐ顔を出す。

 傍らには、彼女と、人魚、人魚は我らを助けてくれる存在に、間違いようだ。


 彼らは陸へ上がり、水を滴れさながらやってくる。

 

「鎧はすべて鉄じゃないが、危なかった」

 彼は鎧を脱いでいく。

 ダークエルフさんは、危なげない動きでイカを倒している。


 足を取られれば、逆上がりをして、直接0距離から魔法を撃つ。

 ついこの間まで、小さな部屋へ幽閉されていた人間にまず見えない。


「ダークエルフって、種族はここまですぐ、技術をものにするのでしょうか?」

 

「わからない。ホワイトが言った通り、種族自体まれで、彼女たちが地下空洞からやって来たと言うものいる」


 そんな僕らの話をよそに、彼女はイカを消滅させ、魔石を拾ってやって来る。


 そしてふと気づくと、助けた娘は居なくなっている。


 探すと、水ぎわを歩く彼女は、水音と、海水を辺りに散らばらせ、海へ飛び込んでしまう。


「ウンディーネ……」


 彼女はベールをはぐように、水色の透明な体になってそして海の中へと溶け込んでしまったのだった。


 それを僕らは、静かに見送った。


 ただ、目を覚ましたニンフが……。

 海へ向かって走って、寂しそうに見ていた。


 (しかし、薬草を海に流そうとして、アレックスに食べられてたから詳しいところはわからない。けど)


  続く

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