第四章 後期試験へ
五日後、美幸は前期で不合格だった大学の後期試験に挑むことになった。
前期と後期を同じ大学で受ける生徒は少ない。
それでも美幸はその大学を選んだ。
——その大学に、どうしても行きたい理由があったのだ。
「きっかけは、ドラマだった。ヘリで患者さんを運ぶフライトナースの話。
その人が、すごくかっこよくて……でもそれだけじゃなくて、
“命のそばにいる”っていう感じが、すごく心に残ったの」
彼女の目は、遠くを見つめるように輝いていた。
「それからずっと、フライトナースになりたいって思っている。
誰かの“助かるかもしれない”に、少しでも関われる人になりたいって」
紘一は、その言葉に胸を打たれた。
美幸の夢は、ただの憧れではない。
誰かの命に寄り添いたいという、静かで強い願いだった。
「だから、この大学じゃなきゃダメだった。」
紘一は、彼女の言葉を噛みしめるように聞いていた。
——この子は、もう未来を見ている。
そう思うと、少しだけ寂しくもあり、誇らしくもあった。——
中期試験を終えた美幸は、再び教室にやってきた。
後期試験まで、あと二日。
いつものように、二人は並んで勉強を始めた。
鉛筆の音、ページをめくる音。
それだけが、静かに時間を刻んでいく。
紘一は、けなげに頑張る美幸を見つめながら思った。
何としても、合格させてやりたい。
けれど、自分にできることは何もない。
ただ隣にいて、問題を解く手助けをするだけだった。
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