第二章 前期試験の前夜

教室の窓から差し込む午後の光が、机の上の参考書を柔らかく照らしていた。

静かな空気の中、紘一と美幸は並んで座り、黙々と問題集に向き合っていた。

前期試験を控えた最後の勉強。

言葉は少なくても、互いの集中と緊張が、空気を通して伝わってくる。

「明日、出発する」

美幸がふと顔を上げて言った。

「うん。いよいよだね」

紘一は微笑みながら、ページをめくる手を止めた。

試験日から十日後には、合格発表が待っている。

その間に何が起こるかは誰にもわからない。

けれど、今この瞬間だけは、ふたりの時間が確かに存在していた。

「中期も後期もあるし、まだ終わりじゃないよね」

「そうだね。第一志望の合格が出るまでは、勉強しなくちゃ」

美幸は小さく笑った。

その笑顔には、少しだけ不安と、たくさんの希望が混じっていた。

教室の時計が、夕方を告げる。

窓の外では風が少し強くなり、春の気配が遠くで揺れていた。

ふたりは、またページをめくる。

未来に向かって、静かに、確かに歩き出していた。

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