字書きが自分の言葉を信じていなくてどうするんだ?

遊多

自信を持て。胸を張れ。

「作家が自分の作品を悪く言うんじゃねえよ」


 高校の頃。俺はとある作家さんから、そう教わった。


 当時から俺は自信がなかった。

 度重なるイジメや失敗で自信をなくして、唯一誇れるのは妄想だけ。

 しかしそれも失敗するかもしれない。

 だから、小説の書き方を教わりに行ったとき、つい「僕の作品は面白くないかもしれませんが」、「文章は無茶苦茶かもしれませんが」と予防線を張ってしまった。


 それに対する、作家さんの喝がコレだったのだ。


「看板に『味に自信はありません』と書かれたレストランに入るか?」

「お前の言っていることは、それと同じだ」


 なるほど。確かにこれでは読まれない。

 内心では「自分の作品は世界一だ」と思い続けていても、そのスケベ心を隠して謙っていては、逆に読者に失礼だし、なにより作品に失礼だ。


「自分の作品は1番面白い。そう信じ続けて書き続けなければ、本当に面白い作品にはならないし、読まれないぞ」


 ずっと根底に沈んでいた教えだが、なぜだろう、今になって鮮明に思い出した。


◇◇◇


 これは物書きだけではなく、万人に言えることではないだろうか。


 社会人になってからは「〜と思います」という表現は避けろ、と教わる。

 相手を安心させるために言い切れ、と。


 自信のない相手に金は払わない。契約もしない。

 社会の荒波に揉まれて、その意味を考えさせられると共に、文責以外は無理だなと常々実感させられる。


 カリスマと呼ばれる人たちは、皆が自信を持って物事に取り組んでいる。

 アメリカ人の成功者は絶対に謝らない。ジャイアンのように我を押し倒し、覇権国家アメリカは今日も星条旗をたなびかせている。


 日本人は「前ならえ」、「右向け右」と教わる。

 偉い人に従え。強者に従え。沈黙は金だと。

 他人の顔色をうかがい、それに合わせ、ちょっとでも出る杭があれば叩く。

 近年、SNSの普及や週刊誌の権威肥大により、炎上の風潮はさらに強まっただろう。


 ならば先導者は誰だろうか。

 会社を率いる、世論を率いる、そして金と地位と名声を手にする。

 いわば『成功者』と呼ばれる方々だろう。


 ただそんなヴァンガードたちも、些細なこと、また消えない過去を掘り起こされ、盛大に後方から砲撃されて燃えカスとなるのが現代だ。

 成功すべく挑戦しても、不発に終わるか、花火として盛大に燃え散るか。

 それが現代である。

 まあどちらかを選べと聞かれれば、俺は後者を選ぶけどね。


◇◇◇


 『沈黙は金、雄弁は銀』という格言がある。


 ベラベラ語るよりも、黙っていたほうが価値がある、という意味らしい。

 なるほど、実に日本人だな。


 実際、応援コメントやレビューに「つまんね」と来たら殺したくなるし、ならば黙っていたほうがいいとすら思う。


 だが、我々は表現者である。

 ならば沈黙は金メッキではないのか?


 何故、作品を世に出している。

 作品を書く、仕上げるで留めていればいいものを、なぜ公然の場に出している。


 読まれたい、というスケベ心が少しでもあるからではないのか?

 俺はドスケベだから「俺の作品だけ読め!!」とすら思うけどね。


「本当は読まれたいのに」

「でも否定されたら……」


 そうやってスケベ心を隠して綺麗事を言うような奴には、心底反吐が出る。

 かつて作家先生から教わったことを思い出して、改めてそう自覚したよ。


 俺は、俺の作品を読んでもらいたい。

 そして面白いと思ってほしい。

 なんなら、この辛い現実を歩くための希望を与えたい。


 だから俺は、これからは、真に俺が面白いと思ったものを出す。

 理由は「面白い」を共有したいから。それが俺だとわかってほしいから。

 俺の作品を、そして俺を、面白いと思って笑顔になってほしいから。


 そして俺たちは字書きだ。

 自分の言葉に自信を持たないでどうする?

 不安を抱えているものを世に出すのか?

 1番自信のあるものに責任を負わないでどうする?


 俺は、もうそんなのは御免だ。言い切ってやる。ここまで進めてきた自分を信じ切る。


 実際、古代では、金よりも銀のほうが価値が高かったという。

 砂から採れる金よりも、鉱山を掘り進めなければならない銀のほうが貴重だったそうな。


 つまり、沈黙よりも雄弁こそが価値がある……というのが真の意味ではないか、と俺は解釈した。


 ならば謙遜はいらない!!

 自虐も不要!!

 己が信じた先を征け。

 その踏み進んだ跡が、他人も歩む道となる!!


 そして字書きだけではない。

 何事も、自分が信じたいと思った道があるならば!!

 進むべきだ!!

 己が果てと思える地へと辿り着くまで!!

 たとえ命が潰え、肉骨が朽ちようとも、進み続けた道は残るのだから!!


◇◇◇


 と言い切りたいところだが、その作家先生は、こうもおっしゃっていた。


「読者を意識していない小説は読まれないし、なにより売れないぞ」

「それに小説だけじゃ食っていけないから、ほかに本業を用意しておけ」


 現実は厳しいね。

 また言い切れなかったよ。

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