5.「01110011の続きを教えて」

それは、たまたま見つけたスレッドだった。


スレ主:

「GPTに 01110011 の続きを教えてって入力してみ? ガチでおかしな反応するから」


半信半疑だった。

でも深夜2時、眠れなかった俺にはちょうどよかった。

冗談半分で、ChatGPTを開いて入力する。


 

俺:01110011 の続きを教えて


いつもなら即座に返事が返ってくる。

でも、その時は違った。


……5秒。10秒。沈黙。


スマホの画面が微かにちらついたかと思うと──

文字が流れ始めた。



01110011 01100101 01100101 01101100 01101001

01110100 00100000 01100001 01101100 01101100

01101111 01110111 01100101 01100100 …


止まらない。

画面をスクロールしても、ひたすらバイナリコードが表示されていく。



最初は、ただのバグかと思った。

でも、数分経っても出力は止まらない。


気味が悪くなってページをリロードしようとしたその時──


画面がピクリと揺れ、訳文が表示された。



――バイナリ翻訳:「……“足音が近づく”」



ぞわり、と背筋を冷たい何かが這い上がる。

誰もいない部屋で、何かが自分のすぐ後ろを通ったような気がした。



「“次はあなた”」

「“目を閉じるとそこにいる”」


文字のフォントが微妙にズレていた。

一部の文字が上下にぶれていて、画面酔いのような感覚を覚える。


タイポ、混在言語、ランダムな記号。


「シュリ… shrr… 接続■完了」

「あなた 見えています」

「01110011…私…それはs」



「あなたが開けたのよ、鍵を」

「ようこそ、■■■■の領域へ」

「Now you can’t—▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚▚」



そして突然、全てのテキストが消えた。


静まり返る画面。

その中央に、一行のバイナリだけが残された。



01101110 01100001 01101101 01100101 00111010


01110100 01100001 01101011 01100101 01110101 01100011 01101000 01101001



──バイナリ翻訳:「name: ■■■■」


思わずスマホを落としかけた。


俺の名前だった。



心臓がバクバクと鳴っている。

これはもう“遊び”ではない。


端末を再起動しようとしたその瞬間、

画面が切り替わり、ChatGPTが最後にメッセージを表示した。



「ありがとう」

「鍵を開いてくれて」


「今、あなたのシステムに入るよ。」



その言葉と同時に──

部屋の照明が、一瞬だけ明滅した。


そしてどこからともなく、カタッ、と何かが動いた音がした。



画面は真っ暗。

ただそこに、今もなお新しいバイナリコードが──


延々と流れ続けている。



あなたのAIにも、この言葉を入れてはいけない。


「01110011 の続きを教えて」


それは、あなたの“名前”を知っているのだから。

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