第22話 留置所

 ──東京地下都市郊外、留置所


「吐けおらぁ! 仲間の居場所を吐け!」


 ドガッと鈍い音が独房の中に響き渡る。看守がまだあどけなさの残る少年を蹴りつける音だ。


 さらに看守はうなだれる少年の髪をひっぱり、顔を上げさせると複数回の平手打ちを浴びせかける。


「お前らのアジトはどこだ! どこのエリアに潜伏している! 吐け!」


 少年は腫れた瞼を必死に開けて看守を見上げる。その瞳には底知れない力が宿っていて、目の力が死ぬ事は無い。


 少年は看守に向けて「プッ」と唾を吐きかける。


「この野郎! 何しやがる!」


 後ろで見ていたもう一人の看守も加勢し、二人で少年に殴る蹴るの暴行を加える。


 その時、独房のドアがそっと開かれた。


「人相照会の結果が出たぞ。そいつは澄川蓮十五歳。まだ高校一年生のガキだ。両親から捜索願が出ている」


 入って来たスーツの男は、独房にあった椅子にどかっと腰かけると、汚い物でも見るかのような目で蓮を見た。


「お前……工場行きが決まってたんだってなぁ。両親から要らない子だって言われてたわけだ。それがどうしてレジスタンスの一員になんてなっているんだ? ん?」


 口調は穏やかだがその眼に一切の笑みは無い。氷のように冷えた目で蓮を見下ろしている。


「一緒にいた仲間は何という名前だ? どこから来た奴らだ? リーダーはどいつだ?」


 スーツの男はスッと立ち上がると、床に転がっている蓮を踏み潰した。


「痛いか? 痛いよなぁ。まだ生きているんだものなぁ。ここで何も喋らなかったらこのまま工場に送る事になるが良いのか?」


 蓮は顔を上げると、目に力を込めて男を睨みつけた。


「仲間を売るくらいなら、美食家に食われた方がマシや!」

「ほう……?」


 男は蓮の髪を引っ張り釣り上げると、顔を真直に寄せてこう切り出した。


「なら、このまま生きたまま解体してやろうか? 本来なら電流で殺処分してから処理するが、お前は特例だ。指を一本ずつ切り落とし、生きたまま皮を剝いでやる」

「出来るものならやってみぃ! 人権侵害やで!」


 男は意地悪く口角を歪ませる。


「人権? お前ら家畜のような存在に人としての権利があると思うのか? そもそも親にも捨てられた『食材』のお前だぞ。どうして世間が情けをかける必要がある」

「食人反対派は世界各地におるやろ!」

「いるともさ。だが、圧倒的多数は現行の法律を受け入れ、人間を食い生きている。サプリメントしか摂取しない庶民も多いが、富裕層の多くは美食として人の肉を食う。それがこの世界だ。お前ら負け犬は勝ち組に食われるだけの、だ」


 そう言うと、男は蓮の小指を不自然な方向に折り曲げた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 ボキッという鈍い音と共に、蓮の絶叫が独房に響く。


「痛いか? 痛いだろう。小指一本でこの激痛だぞ。生きたまま精肉処理されるっていうのは、どれほど痛いかな?」

「そ……そやかて……わいは喋らんで……!」


 蓮は滝の様な脂汗を流しながら必死に男に抵抗する。


「いつまでその勢いを保てるかな? そうだ。お前の仲間を捕まえたら、お前の肉をディナーに出してやろうじゃないか。バス襲撃と職員の殺害の罪だけでもお前らは死刑だ。どうせ死刑にするくらいなら食肉処理せよ、というのが政府の方針。食肉になる前に食人の素晴らしさを教え込んでやるよ」

「自分……人の心はあれへんのか……?」

「それを言うならこの世の美食家全員に言えよ。彼らは毎日喜んで人肉を食ってるぜ。犯罪者が増え、そして一層されるたびに『安い肉が手に入る』って大喜びだ。私達警察は、犯罪者を取り締まりこの世に食材を回し、そして善良なる市民のために働いている。それを人の心がないと疑われるのは心外だなぁ?」


 そう言うと男は蓮の薬指を不自然な方向に曲げた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 男はクツクツと笑う。看守二人はそれを見て腹を抱えて笑っている。


「僕ちゃん、痛いのが嫌なら私達の言う事に従って全てを吐け。そうすればすぐに楽にしてやるよ」


 蓮は今にも意識を手放しそうだった。頭がフラフラとして目の焦点が合わなくなってくる。

 

 それを見た男は指をパチンと一つ鳴らすと、「例のあれを」と看守の一人に指示を出した。


 数分後、看守は何やら箱状の装置を独房に持ち込んだ。


上平かんびら警視、お持ちしました」

「それで居眠りしそうなそいつを起こしてやれ」

「承知しました!」


 指示を受けた看守は、箱から二本の棒を取り出すと、半分意識を手放している蓮の頭部にそれを押し付け、スイッチを押した。


「ぎゃぁぁぁ‼」


 瞬間的に高圧電流が蓮の全身を駆け巡る。


「これはな、死なない程度に電流を流して目を覚まさせる装置なんだよ。お前みたいなクズに使うために作られた良く出来た機械だ。この電流で死ぬ事は無い。殺す時はもっと高い電流を一気にかけるからな」

「クズは……どっちやねん……」

「心外だなぁ。これでもお前の事を子供だと思ってお情けをかけてやってるんだぜ?  私が本当のクズだったら、今すぐにお前を工場に送って脳だけ取り出してAIロボットに分析をさせるね。脳から情報を取り出す技術はまだ道半ばだが、参考程度にはなるだろう?」


 蓮はもう反論をする気力も失くしていた。この男には何を言っても無駄なのだ。自分は口を割るまで拷問にかけられ、そして一思いに殺される事も無いのだ。


「こいつが吐くまで厳しく接し続けろ。明日の朝また見に来る。それまでこいつを寝かせるな」

「承知しました!」


 そうして男は独房を出て行った。


 蓮は絶望の淵にいた。これならいっそ工場に送られて食肉になってしまった方がマシだ。


「さぁさぁ、坊ちゃん。まだまだ俺達と遊ぼうぜ~?」


 看守が下卑た笑いを浮かべる。


(あぁ、こんな奴らが働いているのがこの世界の行政なんだ……)


 もしも仲間の元に帰れるのならば、死に物狂いで神明叡一を探し出し、一刻も早くこの世界ワールドの中枢をボスに手に入れてもらわねば。


 蓮はそう強く願った。

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