第10話 北ヨーロッパエリアのレジスタンス
「今日は北ヨーロッパエリアのレジスタンスとミーティングをする。ピュアは他エリアのレジスタンスと顔を合わせるのは初めてだな。緊張しなくて良い。皆目指す所は同じ、神明叡一の首を取って食人を止めさせる事だ」
ここのベッドにも慣れてきた頃、ボスからそう言われた。
ノンエデュリスは少数精鋭のレジスタンスだけど、他エリアではけっこう手広く活動しているレジスタンスもいるらしい。
他のレジスタンスとのやり取りはダークウェブでしているらしい。僕の知らない世界が、そこには広がっているんだ。
『こんにちはノンエデュリス。みんな元気にしているか?』
ボスが開いたデジタルアイ画面に映ったのは金髪緑眼の美しい女性だ。
髪を短く切っていてボーイッシュないでたちをしているけど、その美しさは全く色褪せることなく、むしろ輝いて見えていた。
ボスから聞いていた話だと、フィンランドエリアの女性でレジスタンス『ヴァストス』のリーダーであるアマリア・シエヴィネンさんらしい。
ヴァストスはメンバーが三十人くらいいる大所帯で、それをまとめているのが『鋼鉄の美女』であるアマリアさんらしい。
イヤリング型イヤホンで自動翻訳されているから何を言っているか分かるけど、彼女が話すのはフィンランド語で僕らは日本語だ。地球上の国々が統一されてから一世紀以上経つけど、言語の統一は一向に進まないんだって博士が言っていた。
「おう、アマリア。俺ん所に新メンバーが入った。ピュア、ちょっと顔見せろや」
ボスの端末に顔が入る様に移動する。アマリアさんは『おう、キュートだわ』と一言発した。
「あ……アマリアさん初めまして。ピュアです。十七歳です。まだここに来たばかりで良く分からないんですけど……」
「おうおう、もう人一人殺してるんだ。もっと自信持てよぅ」
ボスは僕の背中をびしばしと叩く。
『ピュア、あなたはもう美食家を殺したのですね? それはワタシ達の崇高な目的の一歩を積み重ねることに有効です』
AIの翻訳っていうのは、何となく文章が堅い。アマリアさんはもっとくだけた言い方をしているのかもしれないけど、僕の耳に聞こえてくるのは古典文学のような文章だ。
「それで? そちらでは美食家の殲滅は進んでいるか?」
『ワタシ達はこの半年で十五名の美食家を殺害した。でも、奴らはまだまだ潜んでいる。最近では人肉の供給のペースが追いつかないほどに食人が進んでいるという。金目当てに子供を産み、食べ頃になるまで育てる親もいるそうだ』
「ひでぇ話だぜ……」
僕は吐き気を覚えた。金と引き換えに自分の子を売る。それは僕の両親も同じ事をしようとした。僕がワールドに適応できないから。育てにくい子だから。将来が有望じゃないから。AIと共に生きる素質が無いから。だから両親は僕をお金に換えようとした。
「それで、そちらに神明の住居はありそうなのか?」
話の核心だ。ボスやレジスタンスはワールド総裁神明叡一の拠点を探している。神明を殺すために。
『こちらに神明がいるという根拠は何も見付からなかった。やはり日本エリア出身の神明はそちらにいるのではないか?』
ボスは顎に手をやって「うーん」と唸っている。
「こちらも歓楽街や裏組織を通じて情報を集めている所だ。何せワールド政府には中枢になる建物が無い。奴は配信をする時も周囲の情報が一切漏れないように細心の注意を払っている。実は日本エリア中央辺りにいるっていう噂もあるんだがな。そういや、アフリカエリアとオーストラリアエリアからは『痕跡が無い』って報告があったな」
アマリアさんは短いもみあげを耳にかけ直す。
『情報の共有をありがとう。そうなると、やはり怪しいのはアメリカエリアと日本エリア、中国エリア辺りだ。結局、身に付いた水から離れるのは寂しいというものなんだよ、人間は』
「やはり臭いのは日本エリアか。日本エリアが管轄する地下世界も相当に広いが、あまりにも人口が少ないエリアでは隠れるのは無理だ。と、なると中央が怪しい。俺らももっと情報収集してみるぜ」
『よろしく、ノンエデュリスの長よ」
「じゃ、またな」
『またの機会を待ちわびています」
そう挨拶するとボスはデジタルアイを閉じた。
「おい、お前ら、今の聞いていただろう? やはり神明の拠点として一番怪しいのは日本エリアだ」
「一口に日本エリアと言っても、この地下世界は広大ですよ」
博士はコンクリートの壁にデジタルアイを投影させて日本エリアが管轄している地下世界の地図を広げた。
この地下空間は、小規模なエリアがいくつかまとまって作られていて、離れているエリアを繋ぐのはリニアモーターカーだ。例えば東京なら東京で小エリアがいくつも連なって掘られているし、そのエリアをリニアで繋いで名古屋があったり大阪があったりする。この小エリアの名称は、真上にある地上のエリア名をそのまま使っているらしい。なお、日本エリアからアメリカエリアに行くとしたら、一旦地上のコロニーに行ってシャトルを使って宇宙経由で移動する必要がある。
「歴史の授業で習うてんけど、神明叡一の祖先は日本エリアに存在した
「多分……な……。だがあいつの住居の情報がなかなか出て来ねぇ。あいつ家から出ねぇのかよ。目撃証言がちっとも見付からねぇ」
「やっぱりそのためには歓楽街で聞き込みした方が早いのかしらぁ?」
「あぁ。あそこにいる奴らは情報通が多いからな。……おい、ピュア! 明日俺と一緒に歓楽街に行け!」
「え、えぇっ!? 歓楽街ですか!? 僕行った事ないですよ? それに、まだ未成年ですし……?」
「別に酒飲むわけでも女を買うわけでもねぇんだから問題ねぇ。あそこは腕っぷしが強くないと渡り合えねぇ場所なんだ。お前のフィジカルに期待しての抜擢だぜぇ」
「ピュアって良く見ると筋肉質だものねぇ……」
「あ……運動が好きで少しですけど筋トレとかはしてたんで……」
「ええなぁ、ピュア。ボス~、わいも連れてってくれへんよ~」
「お前はもう少し筋肉を付けたら、な」
「へへ。頑張るわ!」
そういう流れで、僕は明日歓楽街に行く事になってしまった。まさか自分があんな場所に行く事になるとは思わなかった。でも、もう人を殺してしまった僕だ。少しそのあんな場所を楽しみにしている自分もいた。
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