第二章 出会い

第3話 レジスタンス

 初めて浴びる本物の太陽の日差しに目が眩んだかと思った刹那、僕を襲ってきたのは強烈な熱波だった。


 マンホールから出た地上にはビルの廃墟群が立ち並び、劣化したアスファルトはあちこちにヒビが入っている。廃墟になったビルには、熱にも強い種類の植物が絡みついている。


「ハァ……ハァ……呼吸が……苦しい……暑い……火傷しそうだ……」


 青年は「おらよ」とぶっきらぼうに言いながら僕に白い長袖のパーカーを投げた。


「遮熱加工してあるパーカーだ。それを着れば少しはマシだ」


 僕は恐る恐るそのパーカーに手を伸ばす。


「あ、ありがとう……。その、何ていうか、さっきも助けてくれてありがとう」


 青年はペッと唾を吐き捨てると、僕にさっき見た『レーザー銃とは少し違う物』を向けて来た。


「これからの回答によってはお前を銃殺する。銃って分かるか? 今お前に向けているこれだ。これで頭を撃ち抜かれたら、お前は即死する」


 血の気が引く。僕は工場ファクトリー行きから逃げてここに来たのに、ここでも命を狙われているっていうのか?


「お前の名は?」


 暑い……。パーカーを着ても、暑い。水が飲みたい。


「僕は……桐林純」


 青年は淡々と質問を続ける。


「お前は何故ここに来た?」

「その……今朝、父さんから僕は工場行きになるって聞いて」

「食肉になりたくなかったから逃げてきたのか?」

「そうだ。そうだよ! 僕はまだ死にたくないし美食家グルメ達に食われるのも嫌だ!」


 青年の表情が少し緩み、口元には薄ら笑いが浮かぶ。


「お前、何故逃げ場所に地上を選んだ?」

「その……両親がAIで僕を探すって思ったから、電波が届かない所に逃げようと思って」

「何故、あの梯子を登り切れた?」


 これじゃまるで尋問だ。

 でも僕は青年に従うしか当面の命を長らえる方法を見付けられないでいる。


「ぼ、僕は昔から身体を動かす事が好きなんだ。あのマンホールも、子供の頃あそこら辺を探検していて見付けたんだ」

「お前、そもそもそのイヤホン端末を捨てればネット回線から遮断されるとは考えなかったのか?」

「……え?」


 青年はというものを僕に向けるのを止めて、フッと一息笑った。


「バカだよな、お前。そのイヤホンを捨てればネットから逃げられるだろう? 何故それをしたまま逃げる方法を選ぶんだよ」

「え? そ、その……僕、あんまり頭が良くなくて……。このイヤホンは物心付いた頃からずっとしているから洋服みたいな感じがしてて。……それで、これをしたまま逃げていたんだけど……」


 青年は愉快そうにケラケラと笑い出した。


「お前、ワールド適性診断で非適応って出たんじゃないか? それで父ちゃんや母ちゃんに国に売られたんだろう?」

「なっ……何で分かるんだよ!」

「あははは、これは愉快だな。おい、博士ドクター! もう出て来て良いぞ。こいつはだ」


 青年がそう声をかけると、建物の陰からまだ幼さが残る男の子が出て来た。


「お前、そのバカさ加減で良くその年まで生かされて来たな」


 初手がこれだった。


 どう年齢を高く見積もっても小学校高学年の男の子に、僕はいきなりストレートを食らわされた。


「あ、あの……博士? 君は? 君達は何者なの?」


 黒髪で浅黒い肌をして、背も高く筋骨隆々の青年と並ぶと、この男の子はあまりにも華奢だった。色も白く、髪は金色で、今時珍しく眼鏡もしている。


「あぁ、まだ名乗ってなかったな。俺は荒嶺あらみね武蔵むさし。レジスタンス組織ノンエデュリスの長だ。俺の事は『ボス』って呼べ」


 男の子の方は、眼鏡をくいっと上げると物憂げに口を開いた。


「ボクは才川さいかわクリス。皆からは『博士ドクター』って呼ばれてる。ボスみたく腕力は無いが、頭脳でなら大人にもAI管理者達にも負けない」


 そう言うと、博士は僕に握手を求めて来た。


「あ、よ、よろしくお願いします。博士……」


 ボスと名乗った青年と比べて、クリスという名の博士の手は柔らかくすべすべとしていた。まだ十歳くらいなんだろうけど、年を聞くのも野暮だと思った。だって、それ以上に彼は僕よりも優秀なんだろうから。


「レジスタンスって、政府に対して抵抗している組織でしたっけ……? 君達はその、何と戦っているの?」


 バカみたいな質問をした。


 咄嗟にそう思った。でも仕方がない、僕は本当に頭が悪いんだ。


「それはアタシが説明してさしあげるわよ~?」


 今度は女性が出て来た。


 それも、とびきりの美人でスタイルも抜群の超イイ女だ。


 髪はつやつやのロングヘアーで軽くウェーブが掛かっている。メイクは最小限だが目鼻立ちが華やかで圧倒的な美を感じる。


 そして何より、出ている所が出ていてくびれるべき所がくびれている。


 AIモデルとは違う血の通った美しさに、僕の視線は思わず釘付けになる。


 まさに超が付くイイ女だ。


「おー、ガール、来たか。こいつに俺達ノンエデュリスが何なのか教えてやってくれよ」

「あらぁ、ボス。その前に建物の中に引っ込まない? こんな道端じゃ暑いわ」

「おう、すまねぇなガール。お前を直射日光に当てたままじゃ危なかったな」


 そう言うと、ボスはガールと呼ばれた超イイ女の腰に手を回す。


「おい、お前、純! 俺達に着いて来い」


 従うしか生きる道はないし。


 僕は黙って彼らに着いて行く事にした。

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