登場人物

介象（かいしょう）…………方士。干将（かんしょう）、莫邪（ばくや）、眉間尺（みけんしゃく）の三剣を佩（お）びる。

元緒（げんしょ）…………方士。介象の師であり、初代の介象。

巩岱（きょうたい）…………細作（しのびのもの）。介象に仕える。

丘坤（きゅうこん）…………美質な弓の名手。妖（あやか）しの狻猊（さんげい）を僕（しもべ）に持つ。萬軍八極（ばんぐんはっきょく）のひとり。

蚩尤（しゆう）…………邪神。

　立ち止まった介象（かいしょう）に、その騎馬が寄せて来た。

　眉は秀（ひい）で、唇（くち）は紅く、聡明そうな瞳だった。馬上の娘子は、介象の前で駒を止めると、下馬して拝跪（はいき）した。

　すると――。

　拝跪した娘子の肩越しに、すうっと、獅子のような頭が宙に出現した。

　介象の背後から感じられる視線が消えていた。

「ほう。狻猊（さんげい）とは、久方振りにお眼に掛かるのう。視線の主は、此奴（こやつ）であったか」

　云ったのは、介象の肩に鎮座した霊亀の姿の元緒（げんしょ）だった。

　娘子は、爽やかな微笑を湛えた。

「御無礼をお許しくださいませ。極主さまを探し当てるため、狻猊を遣（つか）っておりました」

　一礼を施した娘子は、美質の顔から笑みを消すと、真摯（しんし）な眼差（まなざ）しで告げた。

「私は、萬軍八極（ばんぐんはっきょく）の末裔（まつえい）、丘坤（きゅうこん）と申します」

　頭だけ宙に浮いていたような狻猊の姿が、すうっと消えていた。

「…………？」

「ば、萬軍八極じゃと――⁉」

　訝（いぶか）しむ介象を他所（よそ）に、顔色を変えたのは元緒だった。

　その元緒は、徐（おもむろ）に丘坤の右手首に視線を移した。

それを察した丘坤は、袖を捲（め）くって八芒星（はちぼうせい）の痣（あざ）がよく見えるよう右腕を差し出した。

　丘坤の痣をまじまじと見遣（みや）った元緒は、息を飲んで続けた。

「右腕に八芒星……。萬軍八極のひとりに相違なかろうが、お主が現れたということは……」

　銅鑼（どら）のような声音（こわね）を放った霊亀の元緒に、丘坤は臆することなく頷首（がんしゅ）してみせた。

「ここへの途次、魯（ろ）の都、曲阜（きょくふ）は、得体の知れない者どもの巣窟（そうくつ）と化したと耳にしました。その脅威は、日増しに大きくなりましょう」

「蚩尤（しゆう）が目覚めたと申すか――⁉」

　声を大きくした元緒に、丘坤はこくりと頷（うなず）いた。はっとしたような元緒は、唸るように呟いた。

「近頃の地震（ない）は、蚩尤の仕業（しわざ）であったか……」

　狼狽（うろた）えたような元緒の様子に、合点（がてん）のいかない介象が怪訝（けげん）な顔を向けた。