貞操崩壊世界の退魔師たち~淫魔を倒すためにエロ行為が推奨されているが、俺だけは例外みたいだ~
矢島やじ
プロローグ
第1話 特殊部隊VS淫魔
自衛隊の駐屯地から四人一組で三機のCV‐19輸送
翼の両脇についているローター音を響かせ、長細くシャープなシルエットが夜の街を駆ける。数百キロの戦闘機材や乗員五名をのせていてもビル群の上空を快速で飛翔し、目標の
左翼側の座席に位置取った私――
「降下まで残り三十秒――
「うん、でもこれ窮屈で、肌も露出してないから上手く立ち回れない」
隣に座っている部下にそう言うと、私は不満げに口を窄めた。
「改良の余地がありそうですね。種族の個体差もありますから当然ですが……」
「ん、私みたいなのには必要。あとで開発部に進言してみる」
頷きつつヘルメットを被った。
すると視界がはっきりしてくる。中央に淡い同心円が現れ、視界端には動体探知器のレーダーやマップ情報、それにスーツ着用者の生体ステータスをリアルタイムに教えてくれるバイオモニターまで映し出されている。
私は彼らと同じ藍色の強化服の上に黒いバトルスーツで、首から爪先をあらゆる衝撃から守ってくれる緩衝ジェル層と優れた対弾性をもつ装甲プレートをつけていた。
だから私の白い肌が見える部分はない。そしてここから先の封鎖区域には、なるべく肌を露出して入らないほうがよかった。
(奴らは、貪欲に異性の肌を求めているから……)
間も無く目的地上空のビルにCV‐19が着いた。
屋上のヘリポートがどんどん近づいてくる。コンクリ床から一メートルのところまで降下すると、パイロットがそこで機体を固定し、私たちは側面のドアからそれぞれ飛び降りた。ばっと左右に散って、後続のチームが降りてくるのを待つ。やがて屋上に十二名の隊員たちが展開した。
周囲のビルから差し込んでくる照明の向こうは無人のオフィスが見て取れる。よほど慌てて避難したのだろう。この辺りの建物は明かりがついたままだ。
『階段、クリア』
「了解した。こちらは最上階のフロアから制圧する」
通信チャンネルで前衛の二班から報告を受けた私は、返答しながら階段を駆け下りた。
「二班はそのまま西階段から、三班は最上階を制圧後、東階段からそれぞれ
私が命じると、消音器付きのトクトクという銃声の合間に、了解を意味する緑のランプが視界端に点滅した。フロアに続く扉を押し開ける部下の背を追って通路に入る。
「――……っ!」
思わずうっとくるような光景が目に入った瞬間、私は眉間に皺を寄せた。
オフィスから差し込む光だけが頼りの薄暗い空間。そこに男女が蹲っていた。避難が完了しているはずなのに逃げもせずその場で痙攣している。しかも衣服を乱して粘液で艶かしくテカっている身体をビクビクさせ、何かを求める中毒者のように呻いている。
明らかな異常。そしてその異常の原因は、小さな人影となって無数に現れていた。
倒れている女に浅黒い肌の小人が群がっていた。
淫魔だ。正確には
そいつらが女に跨って耳障りな濁声でなにやら話していた。
「くそッ、セラス様の特製粘液が濃すぎて滑りやがる。全然つかめねぇ」
「どけよへたくそ。オレなら一発だぜ」
「ふぁっく!」
「ああ? ファックなら今からするだろ――ふぎぃっ!?」
私の怒りの叫びと共に照準したM31PDW短機関銃から小口径の銃弾が飛び出し、小悪魔級の胸部を穿った。胸から血を流し、倒れる淫魔級を目にすると、獣の皮のようなモノを着た粗末な格好の淫魔が、慌てた様子で両手をばさばさとハゲワシのように羽ばたかせ、倒れた仲間を放って逃げ出す。続けざまに撃った私の銃弾がそいつの背中を貫通し、バックの体勢から女性社員を犯していた浅黒いシルエットに着弾した。
何人かは棍棒や弓で応戦しようとしてきたが、部下たちが壁の両側にわかれ、射線が重ならないように掃射する銃弾の前には無力だった。
咳き込むような銃声が止むと、通路に動いている者は私たちを除けば痙攣した市民だけになっていた。
だがこれは敵の一部にすぎない。後衛の三班がこのまま通路を進み、敵の残党を倒している間、私は三名の隊員を引き連れてオフィスに入った。
動体探知器に光点が点滅した。数は十数個。デスクから躍り出ると、反応があった場所に女体を貪る醜悪なモンスターがギィシャッと驚きの声を上げた。引き金を短く三度絞り、振り向いてきた猿のような顔に銃弾をお見舞いしてやった。
そしてオィスにいた敵を一掃し、新しいマガジンを短機関銃に叩き込んだ。
人間を犯す淫魔を駆逐する。これが私たち
「まったく、派手にヤりちらかして……人間をオモチャにするなんて、あいつら……!」
粘液と血が混じった床を金属のブーツで踏みつけ、私は静かな怒りを宿した瞳でだらりと弛緩した浅黒い身体を見下ろした。
その横では、部下の男性隊員が恰幅のいい初老の男性を抱き起こしていた。おそらく管理職の人だろう。びりびりに裂かれているものの仕立てのいいスーツであることが窺える。
「おいしっかりしろ、何があった……!?」
「うう……尻は、尻はご勘弁を……その穴は家内にも許したことがなくて、ですから責めるならぜひ前を……!」
「お前のケツなんてどうでもいい!」
うわ言のように呟き続ける男に部下が怒鳴った。
「何があったかを教えてくれ」
「ナニが
初老の男が惚けた表情で固まった。
その次の瞬間――
「んほおぉぉ、まだ勃ちますぞぉおん……! 還暦前のわたしでもまだまだヤれます、ですのでっ、どうかご慈悲をッ! またぁ、また尻穴でメス〇キ体験をわたしにィ……ッ!」
「ダメだ。調教済みだ……話が通じない」
突然叫びだしたかと思うと、男は中毒者よろしく悶え、情けなく懇願した。完全に目がイっている。よほど凄い体験をしたのだろう。
そんな様子に部下が力なく首を振り、気持ち悪いおじさんをそっとデスク脇に寝かせた。
さながら地獄絵図だ。重要な役職と思われるいい大人がこれほどまでに『んほっ』てるのだ。周りを見れば女性社員も何らかのショック症状でびくびくしているし、床はイカ臭そうな体液まみれ。もしヘルメットの空気循環システムがなければ、その臭いに頭がくらっとしていただろう。
『シュナーフ2、こちらシュナーフ10。最上階フロアは制圧した。東階段から二班を援護する』
私が背中のガンラックからMR15マークスマンライフルを取り出していると、通信ウィンドウが視界端に開いた。三班の男性隊員だ。
「了解、シュナーフ10。それと、おそらく敵の指揮官は特殊な粘液を使うと思われる。十分注意して」
『粘液? ははっ、そんなのでこのアーマーをどうにかできるとは思えませんね』
「甘く見てるとあなたもこうなるかもよ?」
「あっ、ああっ、ダメだぁ! 一度あれを知ってしまったらもう……っ! おおっ、こ、こんなところにセラス様の残り香が……は、はいぃ! 舐めろと言うのなら今すぐにでも――じゅるるるるる――ッ!」
『舐めるというか、明らかに吸ってるよな……?』
「そこは問題じゃない。あなたもこのおじさんみたいに幻覚見るほどヤられたくなかったら慢心しないこと」
『ええ、分かりました。自分も、まだ理性とはさよならしたくありませんから。シュナーフ10、アウト』
苦々しい声で答えると部下が通信ウィンドウを閉じた。
マークスマンライフルの安全装置を外し、窓際で銃を構えつつ私も部下と同じように苦い息を吐いた。
「まだ理性とはさよならしたくない、か。まったくその通り」
片膝をついてスコープを覗き込み、大通りを挟んだ向かい側のビルを照準する。だが狙撃姿勢を取る私の背後では還暦間近の駄犬が一匹べとべとの粘液の中ではしゃいでいた。
「ヘッ! ヘッ! ヘッ! 美味しいでしゅ……っ! はい、美味しゅうございますぅ!」
「誰かそのおじさんに鎮静剤打って。うるさくて集中できない」
「了解。さぁおっさん、これ以上醜態を晒す前に寝てな」
そう言うと部下が薬剤の入ったシリンジを男に刺し、静かにさせた。
これで狙撃に専念できる。すでにビル前の大通りには装甲車が何台も止まっていた。部隊を二つにわけ、向かい側のビルの一階を本隊が掃討している。それに足並みをそろえなければ私たち別働隊がここにいる意味がない。
スコープに映った三階の窓際で小悪魔級が逃げ場所を求めて動き回っている。そこに私たちは銃弾を放ち、駆除していった。窓の近くが危険だと知った淫魔たちは、通路側に逃れようと走っていく。だが、そこに待ち伏せていたCRAT隊員が容赦なく銃撃を浴びせ、次々と倒していく。
いつ見ても凄まじい威力だ。CRATが採用している
それに中にはこの銃弾ですら容易に倒せない個体もいる。それが
『
『なんだと……!? アルファ1、詳細を報告せよ』
現場指揮官の
『セミロングのピンク髪に服装はほとんど裸のネグリジェ! それと、乳デカケツデカ太ももムチムチガーターベルト……!』
『ムチムチなのか……!? そいつは危険だ、相当溜まっているぞ……!』
これだけ聞くとミリタリーオタクのスケベな会話だが、実際はそんな笑える状況ではなかった。通信チャンネルに息が詰まるような緊張が走る中、戸田三佐が即座に指示を出す。
『アルファチーム、下手に手を出すな。ガスを使え、催涙ガスで目を潰してから火点を集中させろ。反撃の隙を与えるな』
『了解――ガスグレネード、カウント3で突入する。3、2、1――ほごっ……!?』
CPに返答する途中で隊員が息を詰まらせた。からん、というグレネードが転がるような音が聞こえてくる。
『ゼロぉ♪』
『ど、どうした!? 何があった!?』
『こいつ、いつの間に!? このっ――おおん……っ!』
『ゼロっ♪』
『ガスで何も見えないッ! 熱探知バイザーに切り替え――えぇんっ!』
『ゼロ……っ♪』
『三名、
催眠ASMRが始まっていた。私のイヤーマフには、戸田三佐の狼狽とアルファチームの苦悶(?)と驚愕の叫び、そしてこの場ではあまりにも場違いな艶かしい女の声が聞こえていた。
『気をつけろ、奴は肛門を狙ってくるぞ! ケツに力を込めて応戦しろ、侵入を許すな!』
『いや無理だろ、アーマーを貫通して入ってくるやつだぞ!? そんなので――』
『この新米が! こういうタイプの敵の透過能力は有機体には適応されないんだ!』
『そ、そうか。だから括約筋を鍛える訓練があったのか! ふんっ! よしこれで――』
『あはっ♪ なかなかしまりがいいわね、でもぉー♪』
『うわおっ、やッ、やっぱりだめだあぁぁぁッ!』
『はい残念♪』
『残念なのはお前だ、捉えたぞ!』
けたたましい銃声が鳴り響く。
『あはっ、まだいるまだいる♪』
『じゅ、銃弾が効かない! なんて硬い羽なんだ――ああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『あれ? もしかして痔だった? ごめんねー』
その言葉を最後にアルファチームのシグナルが途絶えた。
楽しんでいる。罠に飛び込んでくる獲物を狩るように、新しいオモチャを貰った子供のように。無邪気に性を貪っている。
どこまでも腹立たしい。恨めしい。奴らにとって人間狩りは娯楽の一つだった。
(次回に続く)
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