黒き森の深淵~因習百合学園~

楠本恵士

第1話・黒き森の深淵学園

 閉ざされた学園のシャワールーム──ほのかに血の匂いがする温水シャワーの中。

 白いシャツと下着だけの学生少女が二人……シャワーでシャツの下のブラジャーを浮かび上がらせた姿で、抱き合って唇を重ねていた。


「んぁ……ミズキ……はぁぁん、いつまでこうして……んぁ」

「んんんッ……ユズハ、集中して」

 ミズキと呼ばれたショーヘヤの少女の指先が、ショーツを穿いただけのユズハの下半身に伸びる。

 シャワーで濡れたショーツをミズキから触られ、ユズハは身悶える。


 二人の足元の排水口には、殺された女子生徒から流失した、血のスジが温水に混じって流れ込んでいる。

 ミズキが、再度唇を重ね直して女同士のキスをしながら、ユズハに言った。

「んんッ……まだ、怪物がこっちを見ている……殺されたくなかったら、もっと女同士で愛し合わないと……んぁぅ」


 ミズキの言葉にキスをしながら、震えるユズハは涙目で。

 こちらを凝視している、ターコイズブルー色の美しくも醜悪な怪物クトゥルフを横目で見ながら思った。

(どうして、こんなコトに……どうして)


  ◆◆◆◆◆◆


 学園に続く山道で、漆黒のリムジンを走らせている、運転手が言った。

「木の枝や幹が黒くて驚いたでしょう……酸性雨や環境変化の影響なんですよ」

 後部座席で窓の外に広がる、黒い森林を眺めにいる転入生。

弓月ゆみづき ユズハ』は、少し不安そうな表情で髪についている、タータンチェックリボンの髪留めをいじくる。


 整った顔立ちのユズハが、カーブを曲がって直線コースで少しスピードを上げた運転手に質問する。

「どうして、庶民のあたしが……名門の令嬢や子息が通う全寮制学園へ推薦をされて」

「ご不満ですか……学費免除で、お母さんの口座に当面の生活資金も振り込んだというのに」


「いいえ、お金を援助してもらったコトには感謝をしています……でも、なんの取り柄もない、あたしがなぜ? 名門の学園生徒に相応しい、英才教育なんて受けていないのに?」


 運転手はバックミラーで後部座席のユズハを見る。

千載一遇せんざいいちぐうのチャンスは、素直に喜んで受入れた方がいいですよ……ほら、学園が見えてきた」

 木々の枝の間から、白い校舎の一部が見えていた。


  ◇◇◇◇◇◇


 リムジンは学園の寄宿舎近くに停車した。

 リムジンから手荷物のショルダーバック、肩に掛けて降りた弓月 ユズハは、これから生活するようになる、学園と全寮制の寄宿舎を眺める。

 リムジンのトランクから、キャスター付きのスーツケースとキャりーバックを取り出した運転手が言った。

「荷物はここに置いて置きますので……それでは、わたしはこれで」

 そう言い残して、リムジンは去っていった。


 誰も寮から迎えに来てくれないと、ユズハがタメ息を漏らしていると、近くの木の枝に止まっていたカラスが鳴いた。

 このまま、寄宿舎の前に立っていても仕方ごないので、ユズハは先に教えられていた部屋番が書かれたメモを確認して。

 寮の階段を荷物を引いて上がる。


 汗だくになりながら、やっとメモに書かれていた番号の部屋の前にユズハは辿り着く。

 部屋にはカギが掛けられていなかった。

 カギは予備も含めて、ユズハが来ることを知っているルーメイトが、開けておいてくれた。

 部屋に入ると、二段のベットが視界に入ってきて、下の段に手書きで『ようこそ、因習学園は、弓月 ユズハを歓迎する 学園生徒会長・緋扇ひおうぎ エンジュ』と書かれた紙が置いてあった。


 とりあえず、ベットの横にスーツケースとキャリーバックを置いた、ユズハはベットに仰向けで寝っ転がる。

「なんか、急に疲れが出てきた……ずっと、移動だったから」

 両目を閉じたユズハは、そのまま眠りの世界に落ちていった。


  ◇◇◇◇◇◇


 どのくらい眠っていたのか……ユズハは胸を触られている感触にめざめた。

 目を開けると、ショートヘアの女子生徒がユズハの胸を服の上から、撫で回していた。

 驚いたユズハが女子生徒に訊ねる。

「なにをしているんですか?」

「ん? 転入生のルームメイトの胸を触っている……揉み心地はどうかな?」


 胸を揉みはじめたショーヘアの女子生徒が、平然とした口調で言った。

「触っても、全然起きなかったから、もう少し過激にブラジャーの中に手を入れて胸を揉めると思ったけれど……残念、オレの名前はルームメイトの『鏑矢かぶらや ミズキ』……よろしく」


「弓月 ユズハです……これから、よろしく」

 胸を揉まれながら、ユズハは奇妙な感覚で、初対面のミズキに挨拶をした。

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