マリア崇敬

　恐ろしい腹痛が突如として襲来してきた。

　お腹が、お腹が痛い。これまでに経験のない痛み。よもや妊娠？　馬鹿を言うな。身に覚えがなさすぎる。

　しかしながら聖母マリアは処女懐妊したというから、よもや私も偉大なる預言者を産み落とすべく神に選ばられた可能性がワンチャンある。新たなビッグ宗教、爆誕の予兆。そうなったら私は聖母として崇め奉られるのか。29歳アニオタ腐女子に務まるのかそんな大任。対魔忍の方が適性あるんじゃないかぁ？

　などとふざけているとガチでヤバい。あ、これ産まれる。遺伝子に刻み付けられた情報で直感できる。マジでお産まっしぐら。ちょっと冗談じゃないよ。非正規でカツカツの生活してんのに子供なんて無理だよ。しかも父親不明のシングルて、なんぼなんでも世間体が気になりすぎる。育てれんて。経済的にも社会的にも。あぁ、日本の子育て支援が、母親の権利と尊厳がもっと尊重される世界だったらもっと子供の事とかこれからの世界情勢の事とか考えられるのに。どうしてこうも余裕がないのか。女に生まれた事が、悔しい……

　……違う。

　女に生まれたからこそ、私は戦わなくてはならない。奇跡を託された者の定めとして、女性のために、生まれてくる偉大なる神の子のために！

「それから私は全世界の女性問題のために尽くしています。まずは男性を正しく剪定し、間引かなければなりません。女性のために、世界のために」

　万雷の拍手。よかった。啓蒙できた。

　あれから一年。私は今、聖母として女性の権利確立のために活動し、全国を渡り登壇している。神の子となるはずだった、結石を握り締めて。