夢空杏という少女

姫川真

Flower guess #1

 コンビニエンスストアの駐車場に停車していた白いクラウンの車内でニンニクの香るチャーハンをかき込んでいた女性警察官の中林華なかばやしはなは、運転席に座りちまちまとおにぎりを食べている同僚で小・中・高校そして警察学校と一度だって離れることなく過ごしている幼馴染の巻島八重彦まきしまやえひこの視線を感じながら道路交通情報が流れるラジオに耳を傾けていた。


『ここで、只今入って来たニュースをお伝えいたします』


 ラジオから聞こえる緊迫した言葉とほぼ同時に警察無線に一本の連絡が入った。


志湧しわき管内、誘拐事案入電中。繰り返す……』


「志湧って管轄外とはいえ隣だけど」


「八重、ラジオの音量上げて」


『繰り返しお伝えいたします。先ほどこちらFM臼木うすきだけでなく各ラジオ・テレビ局やSNSに匿名による【本日昼、志湧市で幼い少女を預かった。少女の身を案じているのであれば志湧警察署を通じメディアで声明を返せ。それまでの間、少女は我々が預かる】という声明文が送られてきました』


 警察無線による入電の連絡が知らされるとラジオでは入電されていたと思われる誘拐事案の声明文が読み上げられていた。


『……本部から各局、志湧管内、誘拐事案発生、志湧どうぞ』


『志湧了解。どうぞ』


「僕らも志湧に向かおうか」


「待って」


 管轄外であっても迎える場所であれば独断専行で捜査を行うことで警察官でありながらその悪名を轟かせている華であったが、今回に限っては現場に向かおうとしないことに八重彦は驚きを隠すことが出来なかった。


「メディアやネットに声明を出すほど大々的な誘拐事案が発生したのに現場に向かわないなんて、華さん何か変なものでも食べた?」


「食べたとしたら八重が買ってきたチャーハンくらいだけど」


「それなら、どうして?」


「これはあくまでもの域を出ないけれど、今の文言がどうにも犯行声明に感じられないというか。誘拐だとするなら要求が無いのが気になる。それに、誘拐した少女の自宅ではなくてわざわざメディアやネットに声明を出しているのも違和感がる。なんと言うかわざとニュースになるように仕組んでいるような」


「確かに。それにしてもねぇ……」


 何気ない一言ではあったが、その一言に八重彦は華の腹違いの妹である緋色の髪の少女の面影を重ねずにはいられなかった。

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