16話 もうひとつの呪

僕はお義母さんからある物を預かっていた。

それは佳樹が家を出て行って…程なく届いた。


宅急便の小包には、音声レコーダーが入っていた。

そしてメッセージカードも。


佳樹へあなたの母、美紗樹より と…。



僕はこのレコーダーの事は何も知らされていなかった。小包に入っていた封筒にはこの品の経緯が書かれていた。


まだ佳樹が美紗樹のお腹にいた頃に

念の為とメッセージを込めた物で

お義母さんの手紙だと、美紗樹からは

佳樹が20歳になったら渡して欲しいと言われていたらしい。



それと僕は聞いてはいけないとも書かれている。


…少し淋しい気持ちもあるけれど、女同士の話しが…メッセージがあるのかも知れない。


それを男の僕が邪魔できるわけがない…

でも…正直に言えば…美紗樹の声を聞きたい…。



ちなみに付け加えるなら、佳樹が良いと言ったら僕も聞いて言いそうだった。


僕はこのレコーダーとメッセージカード…少し古びているけど恐らく美紗樹の直筆だ。

これとお義母さんからの手紙。

そしてスマホを纏めて宅急便で実家に送った。


もちろん送り先は…野々原 佳樹 様宛で。


もう、佳樹が田舎に行ってから一月近くになる。


変わらず向こうで何とか頑張っているらしい…。




それと、瑞月ちゃんから連絡があって


佳樹の、もう一人の仲の良い友人


久保 恵美 と言う娘が


僕に話したいことがあると、家に来るらしい。


正直…女子高生が、男1人の家に来るのは如何なものかと思うのだが…当の本人の希望らしい…。


なので、お客様が来るのを僕は待っているわけで

…なんだか落ち着かない。


瑞月ちゃんに同席を求めてみたけど


「バイトなのですみません」との返事だった。

さらに彼女はこうも言った。


「あ、恵美なら野々原さんも気に入ると思います安心して下さい」と言っていた。


佳樹に対して好意を持ってると言うことなのか…

果たして…。


そうこう思案しているとインターホンが鳴った。

カメラで確認すると…何かの勧誘かな…

女性だけど…高校生には見えない。


容姿のとても整った方だ。そこから伺えるのは宗教の勧誘?

はたまた…新聞の勧誘…ではなさそうな。

いずれにせよ高校生と言う雰囲気では無かった。


取り敢えずお断りしようと玄関に向かった。


「はーい…ただいま…」


ドアを開けるとそれは容姿の良い娘さんが佇んでいた…。

「あの…野々原さんのお宅でよろしいでしょうか?」


「あ…はい…えと勧誘などセールスでしたら丁寧にお断りさせていただきますので…申し訳ないですが…」


「え?」


「へ?」


「いえ…あの、私 久保 恵美と申します。

佳ちゃんとは仲良くさせて頂いてました」


「え゙ーーー!君がエッチな恵美ちゃん!?

あ゙あ゙!!し、失礼!…その娘からの説明でその…申し訳ない!!つい!!そう聞いていたもので…」


僕はつい驚いてとんでもないことを…これは

警察案件になってしまうのでは無いだろうか…と戦々恐々としていると…彼女は柔らかく笑った。


「うふふふ…佳ちゃんのお義父様。

どうぞ頭をお上げ下さい。

それと…お気になさらないで下さい。

佳ちゃんにもよく言われていたので…ふふ…」


「…いや…ほんとに申し訳ない…と、とにかくお入りください」


「はい♪失礼します」


いや〜びっくりした…この子が恵美ちゃんか…

確かに…容姿は大人びているけど…まだ顔は幼い気もする…。しかし美人だなぁ…親御さんはさぞ心配だろう…。


でも…視線が気になるな…こう…透かして見ていると言うか。…僕に対しての警戒もあるだろうけど…なんだろうこの違和感…。


…なんて事を考えながらリビングに案内した。


「どうぞ、こちらにお座りください」


「はい、失礼します…」


「えと…コーヒーか紅茶くらいなんですが…

どちらにしますか?」


「すみません、ではコーヒーを。砂糖ミルクは結構ですので」


「はい、わかりました。少しお待ち下さいね」


「はい」


そうして、落ち着いて話しをする準備が出来た。



「え〜と…その久保さんはどういった御用向きで…いらしたんでしょうか?」


「…ええと…その前にお義父様、瑞月にも敬語で話されるのでしょうか?」


「いえ…その久保さんが…顔は幼い気もするけど…その大人びているので失礼かなと…」


「ふふ…ありがとうございます、顔が幼いと言われたのは初めてで、とても嬉しいです。

ですが私も瑞月と同じ対応で構いませんのでお気遣いなくお願いします」


「あ…そうです…そうかい?ありがとう。

正直、美人さんだったから驚いてしまって…

あはは…」


「まぁ…お上手ですね♪ありがたく受け止めておきます。あと…私の口調は躾けられたものですのでお気になさらずに、先ほど言った対応で構いませんので」


「はい…うん、わかったよ、えと…」


「恵美で構いません」


「あはは…恵美…ちゃん?」


「はい…呼び捨てでも構いません」


「うん?いや…えと…それで恵美ちゃんからのお話とは…?」


「はいその前に…失礼します…少し暑くて…」


「あ…うん」


そういうと彼女はハーフコートを脱ぎソファにかけると…ハイネックのセーターに手をかけた。

あれ?な、なんでセーターまで!?


僕は慌てて目を逸らして恵美ちゃんに問いかける。

「あ、あの恵美ちゃん…なにを下着になってるのかな?」


「いえ…暑かったので」


「あの恵美ちゃん…僕の視界に入ろうと動かないでくれるかな?それと早くセーターを着てくれないかい?」


「そうですか?残念です…お義父様なら見てもらっても良いのですけど…」


「見るわけないでしょう!?早く着てください!」


「はい…でも、そこまで目を逸らされるとキズつきます…」


「いいから!もう着てくれたかい?」


「はい」


「ふぅ…でなんでいったい…わーー!!

なんで下着も取ってるの!!早く着て!付けて!

隠して!!」


なんだこの情況!!なんでこの子!胸をあらわに微笑んでいるの〜見てしまったじゃないか!!


あ…エッチな恵美ちゃんだからか…


て、いや!違う!そうじゃない〜!!


「お義父様…私じゃご不満でしょうか…」


「恵美ちゃん!!いい加減にしないと怒りますよ!!佳樹の友人だからって!!度が過ぎている!!」


「…はい、申し訳ありません…今着ますのでお待ち下さい。」


「……本当に着てる?」


「はい、あれ以上は流石に脱げませんから」


「…本当に着てますか?着てなかったら…

お、お帰りいただくよ?」


「はいしっかりと着ました、ご安心を」


「…ふぅ~…恵美ちゃん…なんでこんな事を…」


「…すみません、試すような真似をして」


「試す?…なんでそんな事を…それに!

それなら下着までで充分でしょう!もっと自分をなし大切にしなさい!!」


「はい…申し訳ありませんでした」


そう言うと、さっきまで何処か僕を透かして見ていたような目ではなく、落ち着いた年相応の眼差しを僕は感じた…。


そして、容姿の良いこの子の…その視線は何処となく儚げだった。


「…とにかく、事情があるのはわかったから。

ちゃんと話をしてくれるかい?」


「はい…それは私の親に関する事と繋がる事で…

あ、下着まで取ったのは少し意地悪をしたくなったと言いますか…ごめんなさい」


「…意地悪でそんな事…僕が君を襲うとは考えなかったのかい?あまりに危険な事だよ?」


「はい…ごめんなさい」


「うん…大事にしてね?」


「はい♡お義父様…大好きです♪」


「…いやあの…そうじゃなくてね?…取り敢えず話を聞かせてくれないだろうか?」



「はい…それは……――――――」



彼女から聞かされたのは驚くべき…彼女の境遇…そして、それ故の男性に対する不信感と嫌悪感。

それと現在の彼女の資産…。全てが想像以上だった……。

それと瑞月ちゃんから家の事情その他は聞いていた。…と言うより相談を受けていたらしくて…その…お恥ずかしい限りだ…。



「……うん…それは辛かったね…」



「…はい…」



「ごめんね…少しの間、信用してほしい」



「え…」



僕は彼女の瞳が揺らいでいるのを見て、本当にショックな事であり…そして親の両方がそんな事であれば…彼女はちゃんと泣いていないんじゃ無いだろうかと心配になった。



そしてゆっくりと彼女の正面から腕だけで抱きしめる…。



最初は困惑しているようだった彼女だか…



落ち着き出すとポロポロと、涙を流していた。




それはそうだ…高校生と言ってもまだ子供だ…

その経験は余りに残酷すぎる。



そっと手で背中を叩いて落ち着かせる、

…佳樹にも、ついこの間こうしたな…。




少し立つと彼女は顔を紅くして僕にお礼を言った。



「…お義父様…その…ありがとうございます…

お恥ずかしい所をお見せしました…」



「うん…大変だったね…頑張ったとも思う。

だからこそ、自分を大事にしてね?人を試すような真似をするのに、君の事を晒す必要はないんだからね?」



「…はい…ありがとうございます♡」



あれ…?何か視線に熱を感じるけど…まぁ気のせい…かな…だよね…。



「…それで…経緯は分かったのだけど…」



「はい♡話が前後しますが…その、佳ちゃんが帰ってきたら、お義父様との関係が落ち着くまでうちで暮らしたら如何かなと思いまして…」



「なるほど…でも…生活費やいろいろあるでしょう…それにプライベートも。」



「いえ…部屋はあと二つ余っていますのでご安心を。それと生活費は…それこそ自立を促すならアルバイトなり…しても良いのかなと…。」



「うーん…つまり…僕から離れて…なおかつ目の届く範囲で彼女を自由にさせる…と言うことかな?」



「はい♡もしもお義父様が寂しかったら…私が遊びに来ますので♪」



「うん、それは世間体もあるので駄目です」



「ええ…もぅ…つれないのですね…♡」



「でも…そうまでしてくれる理由…を聞いても?」



「…はい、私は…瑞月も佳ちゃんも大好きなので

2人が揃わないのも嫌ですし、この情況も嫌です。

でも…彼女には時間も必要…そして青春の…。


今しかない年齢相応の友人たちとの様々な経験を彼女が受けれないのは不憫です。


佳ちゃんはもっと人に好かれるべき人…。


今、彼女自身が思っている彼女では決してないんです。

私は自分ができる範囲で、それも大して苦労しないで出来る事をしてあげれる…だからそうしたいと思いました。


何より佳ちゃんと一つ屋根も…私は楽しそうだなと。…後は…こう見えて私寂しがり屋さん…なので…。」




ふむ…確かに…ありがたい事だ。


何より学校に通わせられる事と…瑞月ちゃんにも喜んで貰える提案だとは…思うが…。


…事の発端は置いといても…確かに父親として

僕も不甲斐ない。


佳樹からの信用…とは違う気持ちを理解は出来ないし…それに受け入れられない。

佳樹は僕の娘だ…大切な娘だ…娘と愛し合うなんて出来ない。


でも良いのだろうか…この娘さんに甘えてしまって…。



「…恵美ちゃん、とてもありがたい話だし。


何より佳樹を思っての提案に僕は心から感謝するよ…。

でも…親としては情けない限りでね…

…その少し…考えさせて頂けないだろうか…。」



「はい♡あくまで一つの提案だと思って下さい。


あ…でも、私とお義父様が結婚すればとても丸く収まる気も―」「だめですよ?何言ってるの?」



「…残念……冗談です…半分♡」


そう言った彼女はとても素直な笑顔で笑っていた。

初めて会った時とは比べものにならない程に。


少なくとも…信用はされたと思って良いのだろう…と暖かな気持ちになる。


「それとね恵美ちゃん…瑞月ちゃんにも話すけどね、その…佳樹を連れ戻すのは…もう少し待ってほしいんだ。」


「…はい、佳ちゃん自身の気持ちの整理…ですよね?」


「うん、ありがとう、その通りだよ。後ね

つい先日、佳樹の母…妻の美紗樹からのメッセージをお義母さんから預かってね…置いていったスマホと一緒に宅急便で送ったんだ。」



「…!!お義母さまの…メッセージ…」



「うん…僕は聞いてはいけないらしい。

淋しい限りだけど…でも美紗樹の事だから

きっと佳樹を元気付けてくれる…と思ってね」 



「お義父様…今も愛されているんですね…」



「いや、あはは…僕はね彼女に呪いをかけられたんだよ、ふふ…」




「呪い!?…ですか?」



「うん…彼女が亡くなる数日前にね、こう言われたんだ


【ねぇ…あなた…私が居なくなっても…他の人好きになったら駄目よ?】とね。


僕は当然そのつもりは無かったんだけどね。

でも彼女は続けた…。


【あなたは私の物…私はあなたの物…大好きなあ


なたが…他の人と見つめ合うなんて許せない…


考えたくも無い…ごめんなさい…。


多分…良い奥さんなら…貴方の幸せを考えてね。


なんて言うんだろうけど…私は言えない。


そんな綺麗なこと…言えない。


これは呪、あなたに対する私の呪…。


愛してやまない貴方を…残して逝ってしまう

自分勝手な私の呪…。


ごめんなさい…でもどうか…呪われて? 】

…とね」




「……お義父様はなんて…」



「ん?はは…いや…恥ずかしいんだけどね…

僕はこう答えたんだ。


【…とっくに呪われているよ、君にね。

出会ったときからずっとだ。それはこれからもずっと…仮に君が居なくなっても、僕が居なくなってもね。】―てね」





「……はい…素敵なお話だと思います…」



「いやここは怖い所じゃないかな?あはは。


…でも…本当に…今だに恋焦がれているんだ…


僕達は…そう言うお互いの求め方をしてきたからね…。

僕は呪を解かないし、解く気もない。

淋しい気持ちはあるけれど…ね、それは…美紗樹に会えないから。


でもそれ以上に心は、今だに満たされている。

だから生きて居られるよ…。


…は!て、いや!あの…惚気てごめんね…

あははは…恥ずかしい限りですまないね…」



「いえ…とても素敵で…残酷な…お話だと思います。…せっかく男性に興味を持てたのに…はぁ…

勝ち目なんて、佳ちゃんにも私にも無いないじゃないですか…」


「ん?いや勝ち目って…はは…

君達は君達でこれから幾らでも出会うさ、素敵な人とも…良くない人とも。

だから大切に考えて行動してほしいと僕は思います。」


「はい…でも私はお義父様が好きになりました♡」


「…うん…あは…は…まぁ…取り敢えず佳樹のことに至っては瑞月ちゃんにもメールその他連絡はをしてるけど…恵美ちゃんも連絡先教えてくれるかな?

もちろん佳樹関連以外では連絡しない、安心してほしい。必要でなければ瑞月ちゃんとやり取りしてもらっても構わないからね」



「はい♪ぜひ連絡先を交換して下さい♡ちなみに…お食事など私が誘うのは…」



「だめですよ?佳樹や瑞月ちゃん達と家で賑やかに食事するなら別だけど…二人きりなんて駄目です」


「佳ちゃんも、お義父様も…もう…でもそこも素敵です♡」


「…うん…ありがとうね」


「さて…話はこのくらいかな?」


「はい、今後ともよろしくお願いします。あと…

佳ちゃんお預かりの件も善処していただけると嬉しいです。」


「…うん…ありがとう。瑞月ちゃんにも恵美ちゃんにも…本当に頭が上がらないよ…」



「いえ…私は私の守りたい物を守るだけです♡

…でも、今日また増えてしまいました♪ふふ…」



「…うん…それはよかった…ね」



「はい♡」


「それではお義父様、失礼致します」


「うん、今日はありがとう…これからも佳樹と仲良くしてやってね」


「はい♡お義父様とも仲良くしていきたいと願っておりますから♪それでは」


「…あ…うん…ありがとうね〜」


そう言って僕は玄関から彼女を見送った。


時刻はまだ、三時…夕飯の買い物でも行こうかな…。


佳樹を取り巻く関係や環境が少しずつ変わっていく…。

美紗樹…どうだろうか…良いことの様にも思える 


し…少しさみしくも…あるよ。


僕達は…親なんだな…。


これも幸せの感じ方のひとつなのだろう…。


そう受け取りながら…離れていく娘を想う。


翌日の午前中に僕は恵美ちゃんにメールをした。


考え抜いた結果…。


恵美ちゃんのお宅に住まわせてもらうかは


佳樹自身に委ねようと、決めたことを伝えた。






今回はここまで



少しずつ、読んでくださっている方が増えて嬉しいです♪

応援してくださっている方々、ありがとうざいます。

心からの感謝を…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る