第11話

 いつ頃かは定かではないけれど、気が付いた時にはソレがいた。

 私の背後に立つ人影。髪の長さからして、恐らく女だ。それは鏡を見る時、磨かれたガラス窓を横切る時、雨の日の水たまりを覗く時。いつも私の背後にいた。

 少しだけ離れた、斜め後ろ。いつも陰気に俯き顔を僅かに逸らし、そこにいる。

 いつがこちらを見るのか、いつ視線を上げてその顔が明らかになるのか、想像するのも恐ろしくて私は必死でソレから目を逸らし、見ないふりを続けた。

 ソレはいつも俯き佇んでいたが……ある日、寝起きでぼんやりした頭のまま顔を洗おうとした時、ふと鏡越しのソレが僅かに顔を上げているのが見えた。ソレは、ゆっくりと口を開いて言葉を発した。恐怖で塗りつぶされた声が、視線が、問いかけて来る。

「どうしてあなたは、いつも私の前にいるの?」

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橋の下の繰り言 睦月 @mutsu-ki-

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