名脇役、ドッペルゲンガー。

抹茶ちゃふくについちゃっちゃ

本編

フランクモリスと名乗るドッペルゲンガー

今は、8月15日。残り、22日といったところだろうか。

暗い部屋の中で、カタカタとパソコンを叩くように調べる。

彼は1から100まで、隅々この目で通している。

この目が一つ潰れてでも見つける。いや見つけなければいけない。

「ドッペルゲンガー」と表示された検索欄。

その下には一万を超えるサイトが表示されていた。

彼は一つずつ、彼にも似合わず丁寧にカチッと鳴らしながら。

俺は探さなければならない。ドッペルゲンガーと交わしたこの「契約」の抜け目。

きっちりと締められたこのネジの隙間を見つける。

俺は生き続ける。そうしなければ…

彼は落ち着きつつも心の中ではどこか不安や焦りを感じていた。

前沢 亮。彼は「Dirty VIBES」というラッパーであった。

はっきり言えば彼は世間の嫌われ者。

様々な問題を起こして、晒され、叩かれ。

その彼がかつての栄光を掴む。

そんな話。

「小説なんかどうでもいいんだよ…俺が知りたいのは、ドッペルゲンガーそれだけ…絶対に奪わせない」

俺は、繰り返すように何度も、何度も、サイトをざらっと見る。

でも、見つかるのはおすすめだとか、面白い話だとか、くだらないクソみたいな集まりが書く、しょーせつだけ。何度も繰り返して、やがてサイトも目に見えて少なくなってくる。


 ======


DirtyVIBES。

彼は天性の才能を持ち合わせていた。ヴォンヴォンと鳴り響き繰り返される重低音を耳にしながら、相手を卑下する言葉を並べ、歓声は沸きあがり、舞台は大盛り上がり。下界上がりの俺の罵詈雑言はひどくプロデューサーに響く。

様々なとこからひっきりなしにやってくる。

しかし…


「いい加減にしろッ!!」 

ドンッ!

「一体何がしたい!!我々を陥れるつもりか?!」

プロデューサーが見せてきたスマホの画面には、彼が先日彼に対し罵倒を投げかけた人物にたいして、制圧している動画が流れている。

さらに酒に溺れたままステージに飛び乗り乱入する姿さえも。

彼は次々に

「クビだ!」

「消えろ!」

「どっかいけ!!」

普通に自制し活動していればこんなことにはならなかった。

しかしこれは彼自身の問題でもあった。

(みんな、俺の良さを分かっていない。わかっていれば、俺をクビにしたり失脚させたりしないはずさあいつらが悪い。みんなが悪い。みんなが憎い)

…といったように、他責思考。

これまでの少しばかりの炎上、彼の人間性も目を瞑れば悪いところは一つもなかった。音楽を作ることに関してだけは一級品。

掲示板では次々に彼の対応や行動に批判が集まる。勿論、彼は丁寧にもその批判の一つ一つに返信をしていく。


「Dirty VIBESははっきり言ってクソだ。リズムもセンスも崩れていて、聞いてて頭がおかしくなる。」

 << お前の耳とセンスが、掃き溜めに捨ててあるだけだ。拾ってきたらどうだ?


「態度もクソだしあんなのを聞いてるのが正直信じられないけどね」

 << お前が生きているのが正直俺も信じられないね


「一度の成功だけで世界のラップ界に名前を刻んだとかいうけど、よくそんな恥ずかしいこと言えるよね。何度も成功している、EWINEMとかSLOOP FOXXの足元にもたどり着けてないじゃん」

 << 俺は成長し続けている。今に見てr

 

「焦ってrしか打ててませんが?ありゃ、びびっちまったか?」

「あいつら相手にはできないか。「世界の」Dirty VIBESさん(笑)」

「そんなこと言えるなら、俺のほうが上だとかいってみろよ。やってみろよ。結果を出せよ」


無駄にも思えるレスバトルを繰り返す日々。


カタカタカタカタ…

暗い部屋で、パソコンの打鍵音が鳴り響く。暗い部屋の中で、電気をつけないまま、ノートパソコンを凝視している俺は、新しい音楽を上げた直後、暇な奴らから面倒なコメントが来る。掲示板でも、暇すぎて俺にかまってくる輩も多々。

「クソが、あいつらめ、インターネットで匿名だからって言いたい放題言いやがって…ひどいもんだ」 

ノートパソコンの画面には、俺を卑下するコメントがずらりと並ぶ。

「悪いが、俺の良さを知らない馬鹿どもには、消えてもらうんだよ!」

俺はそう言い、そのコメントに煽り返す。

そいつはムキになったのか、俺を再度批判する言葉をひっきりなしに出してくる。

マジで馬鹿なのか?俺を殴ったところでカウンターで返されるだけなんだよ。

ピロン

あ?メールの通知音がなった。ということは…?

ついにか!俺を見限らなかった、新しいPから連絡が来たのか!

ニヤニヤしながらメールを開いた。要件はもちろん…

…迷惑メールだった。

なんだよ、俺は尼じゃねぇから化粧水なんかいらねんだよ。 

ドンッ

パソコンのキーボードを叩き、大声を上げる

「てめぇなんざに、用はないんだよ!!!バ――カ!!」

…ちっクソが、あいつのせいでキーボードが反応しなくなっちまった。

プラスチックだが、そのキーボードには俺の拳の跡がはっきりと残っていた。

「はぁ…クソがマジでムカつくぜ。俺をほったらかしておいて、あいつらは何を考えてんだ」

足を上げて、冷蔵庫を開け、中身を見ればほぼすっからかん。

「っチ…なんであいつ買ってこないんだよ。もう捨てちまおうかな」

唯一残ってる、麦茶を手に取り滝飲みし、残りを飲み干す。

扉の向こう側でスーツのまま眠っている女を見る。

正直、もう欲はこいつじゃわいてこない。


ピロン

再度、メールの通知音が鳴った。どうせまた、迷惑メールだろうと、肩を透かす

机に戻り、一応、内容を確認する。そこには目を疑うものがあった


件名:あなたの人生を貰いに来ました


…と書かれている。正直、誰かのいたずらメールかと思ったが気になり、メールを開く


 あなたの人生を私は生きてみたいです。栄光に取りつかれた男の堕落した人生からの再起の動きを見てみたいです。

 とのことで、連絡させていただきました。


はぁ?「栄光に取りつかれた男の堕落した人生」ってこいつも何言ってやがんだ。ふざけやがって

 <<てめぇに俺の何がわかるっていうんだよ

と即送信。と同時に一瞬でメールが返信された


 名前は、前沢 亮。性別は男。年齢は36歳。身長は177cm。体重は67kg

 自称ラッパーの無職

 一世代前は、Dirty VIBESとして活躍し一度は成功を収めたものの、

 強欲な性格な上、名前を変えて活動しているもプロデューサーに何度も

 見限られてしまい現在に至る


「?!」

何だこいつッ!一体なんで、WIKIにすら乗ってない俺の個人情報を知っているんだ!??一体何位が目的で…

 

ピロン

 私は、あなたの余生を手助けしたいのです。奪ってしまう私のエゴですが、

 最期は幸せに過ごしてほしいのです。

 教えてください。あなたの人生の最期の甘美を。


汗がじわじわと体中を駆け巡る。匿名がバレた焦りが止まらないし、何を言っているのかすらわからない。

余生?エゴ?甘美?はぁ?! 一体全体こいつは何を言ってやがる!

ガチガチと歯が震えながらも、悟られないよう体を安静させ、文字をタイプする


 <<そんなに俺の人生が見てみたいなら、俺の目の前に出てみろよ


あいつがどれだけ、俺の名前を知っているとはいえ、住所はわからないはずさ。どうせ無理な話さ。なんってたって俺の戸籍はないから。

と彼は得意げに言うも、トントンと後ろから突かれる感覚が体を走る。

「こんにちは、亮さん」

瞬間、男は亮の後ろにいた。

「うわあぁぁぁ!」

ドタッドタと音を立てながら、机をけり後退する。

「誰だてめぇ!!!いつからそこにいた!!!」

「こんなところに匿ってもらったのですか、それも女性までも騙してまで」

亮はとっさに机を持ち上げて後ろに来た彼を攻撃するも、いとも簡単に止められてしまった。

「シーッ…騒いではいけません。同居人が起きてしまいますよ」

「だ…誰だよ…」

見つめる目は、黒に滲んだ赤い目をしていた。ただそれが不気味で怖い。

「お望みどおり、目の前に来ましたよ?亮さん。これで信じてもらえますか?」

亮は目の当たりした現実が、現実なのか理解が追い付かないまま、口を半開きしなはがら恐怖の顔を浮かべて動けずにいた。

「これでも信じられなさそうな顔をしていますが…どうですか?私はあなたを裏切るようなことは致しません」

「どうって言われても…というかまず!誰だ!てめぇいつから俺の後ろにいた!」

「そうですね、まずひとつ、私にはフランクモリス。最も呼ばれているのは…ドッペルゲンガーといったやつでしょうか。そしてふたつ私はあなたに呼ばれてここに来ました。これで構わないですか?」

ドッペルゲンガー。

都市伝説でしか聞かない名前を出されてもより空想にしか思えない。

「は?ドッペルゲンガー…?じゃ、じゃあ!何をしに来た!俺を殺しにか!?」

「はぁ、質問が多いこと…私はあなたの人生を貰いに来ました。厳密にいえばそうなりますが、気にしないでください」

「は⁈いったいどういう……?!」

突如、亮は触れらてもいないのに、口を塞がれてしまった。

「私は触るのが嫌いなので、手以外のものでふさがせてもらいました」

彼は顔を近づけてきて、大きく目を開く。

「いいですか、よく聞いてください。もしあなたがこの人生の中で最も甘美なこととは、一体何ですか?名声ですか?成功ですか?

私がかなえてあげます。どんな如何なることでも」

人生で、甘美なこと…名声…成功…

そのうちのどれかが叶えられる?何言ってやがんだこいつ。

苦労しないで手に入るようなものじゃないだろが。

「…ッ」

亮は口を指さし、開けさせるようにジェスチャーした。

彼がすっと指で空中に線を描くと、口が開く。

そして彼は開口一番

「叶えられるだぁ?魔法みたいなこと、あり得るわけねぇだろうが!」

「信じてもらわなくても構いません。私は、事実だけを言っているので」

「俺は絶対信じないね。都合のいい話はこの世にはない。」

「ではあなたの人生を振り返ってみてください、こんなことをしていることが本当に生きていると実感しているのですか?」

と彼は答える。

その言葉を聞き、亮は深く考えた。

俺の今の人生は、はっきり言って掃き溜めに捨てられたのと過ぎない。

堕落した生活を送り、暇があればレスバして気が付いたら、もう周りにはほとんど誰も居なくなって、何がしたのかもわからない。

でも、あの時の俺は少なくとも違って輝いていた生きることをしていた。

「もし…だ、本当に叶えてくれるなら…」

「なんですか?」

…本当に叶うのであれば

「俺がもう一度、ステージに立つことだ」

「そうですか…ではこちらにサインを」

彼はそういうと亮の足元に紙をを置いた。

長い文章に下にアンダーバーがならんだ、俗にいう契約書のようなものが差し出された。

「んだよ、この紙切れ…」

「契約書です。形だけでも残しておかないといけないので」

彼はサインしたことを確認して、すぐ回収した。

「では、1か月後」

スタッ…

「…お、おい待てよ、どこに行くんだよ」

彼は無言のまま立ち上がり部屋の扉をあけ、さらに奥に行って、奴は扉に手を掛けた。

ガチャ

「おい!無視すんなよ!」

亮は追いかけた。意味が分からなかった。

無理もない急に叶えるなんて言い出した意味も、人生を貰われる意味を。

でも奴は答えなかった。何かを隠しているのか。

すでに奴は、扉から離れて体が半分見えてなかった。

走り出し、奴が扉を閉めると同時に、手をかけ思いっきり開けた。

「おい!」

思いっきり叫んで呼び止めた。しかし目のまえにあるのは街中の風景。

人の影は一つもなかった。


「一体どういうことだよ…」

俺は一通り探したが、誰も彼も見つからない。響くのは、車の音のみ。

俺は部屋に戻り、一息つく。

「っしかし…一体全体どういうことな――――」

なんなんだと言い終える前に、俺は驚愕した。

メールがバカみたいにたまった中の一つに、はっきりと見えた。


件名:【楽曲制作のご提案】

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名脇役、ドッペルゲンガー。 抹茶ちゃふくについちゃっちゃ @JunTanaka

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