第18話「脅迫状が届きました」⑧

脅迫状事件が解決してから数日後、生徒会選挙は佳境を迎えていた。


体育館には全校生徒が各クラスごとに整列しており、楽し気な会話があちらこちらから聞こえてくる。

生徒会選挙の候補者による、最終演説の日がやってきたのだった。


「佐倉先輩なら絶対大丈夫です!川瀬先輩と傍で応援してます!もし野次飛ばすやつがいたら、私が絶対許しませんから!!」


「ふふっ、二人がいてくれたおかげで頑張ってこれたわ。本当にありがとう」


川瀬と有栖川に微笑みを向けると、二人からも笑顔が返ってきた。


「お前にも野次飛ばすやつがいたら、俺が一緒に笑ってやるから安心して行って来い」


「何に安心すればいいんですか」


渡辺のに、湊斗が小さくため息をつく。


「それでは、生徒会長候補者による最終演説です。2年A組伊勢山煌くん、お願いします」


進行役を務める美琴の紹介で、伊勢山が壇上に立つ。


彼らしい謙虚ながらも堂々とした演説に、皆が拍手を送った。


「続きまして、2年B組佐倉詩乃さん、お願いします」


アナウンスが体育館に響くと、スポットライトがゆっくりと壇上を照らした。


舞台袖の佐倉が、ゆっくりと深呼吸をする。

川瀬と有栖川も緊張した面持ちで、力強く頷いた。


これが本当に最後のチャンス――


佐倉は震える手をぎゅっと握り、覚悟を決めるように笑顔で壇上へ向かった。


「みなさん、こんにちは。生徒会長候補の佐倉詩乃です。まず初めに、これまで私を支えてくれた川瀬さんと有栖川さん、そして応援してくれた皆さんに心から感謝します」


佐倉らしい温かな挨拶に、会場の雰囲気も和らいだ。


「私は、この学校が大好きです。

もちろん辛いことや悲しいこともあります。それは皆さんも同じだと思います。

それに、私は完璧ではありません。失敗も、間違いもします。

だからこそ、周りで支えてくれる人たちの大切さを、日々噛み締めています。


私も、皆さんにとっての“支えてくれる人”になりたい――

その願いを叶えるために、生徒会長に立候補しました。


私は、生徒会を今よりも、もっと身近で開かれた場所にしていきます。

悩んでいるとき、誰かに話を聞いてもらいたいとき、気軽に生徒会室に来てください。


ひとりじゃないことの心強さを感じてもらえる――

そんな学校を作るために、どうか私、佐倉詩乃に力を貸してください」


スポットライトの熱で、額にうっすらと汗がにじむのを感じる。

自分の思いを、全て出し切った――


佐倉の顔が輝いた。


「ご清聴いただき、本当にありがとうございました」


佐倉が一礼すると、会場に大きな拍手が響き渡った。


「佐倉先輩ーーー!!!!素敵です!!!」


舞台袖では、有栖川が号泣しながら手が痛むほどの拍手を送っていた。

その隣で、川瀬は静かに涙を拭いながら微笑みを浮かべた。


「さすが佐倉さん。本当に良い学校作ってくれそうだよな?」


「それ、俺に振ります……?」


渡辺の問いかけに、湊斗がいつもの仏頂面を返す。

渡辺が小さく笑うと、息をゆっくり吐き、視線を外した。


「お前の生徒会も、張り合いがあって嫌いじゃなかったぜ」


湊斗には視線を向けず、壇上を見つめたままそっとつぶやいた。


「それでは最後に、1年A組氷山湊斗くん、お願いします」


美琴のアナウンスが入る。


「……俺もですよ」


湊斗もまた、視線を合わせずにつぶやくと、そのまま壇上へと歩みを進めた。


渡辺はその姿を、にやりと笑いながら見つめていた。



湊斗がマイクの前に立つと、会場が一瞬静まり返った。


「生徒会長候補の氷山湊斗です。

僕は、先ほど佐倉先輩が話したような、生徒に寄り添った学校は作れません」


その言葉に会場がざわついた。

湊斗は構わず、淡々とスピーチを続けた。


「それでも結果は必ず出します。

この一年、僕は確実な成果を出してきました。

例えば、学校行事の満足度を前年よりも上昇させ、近隣住民からの苦情件数を半減させています。

直近の文化祭ではこのような結果になっています」


湊斗がリモコンを操作すると、これまでの成果を表したグラフが背後のスクリーンに映し出された。

それらの数値は、誰が見てもわかるほど湊斗の生徒会長として優秀さを物語っていた。


「結果が全てです。もし達成させることができなかったときは、どうぞ、好きに罵ってもらって構いません。ですが――」


湊斗が鋭い目付きで、まっすぐ前を見つめた。


「そんなことは絶対に起こりません。

僕は誰よりも優秀です。僕以上の結果を出せる人はいません」


何百人もいるはずの会場に異様な静けさが広がる。

皆が湊斗の言葉に聞き入っていた。


「以上です」


湊斗は、一礼するとすたすたと舞台袖へと戻っていった。


彼の壇上を歩く靴の音だけが響きわたる。

生徒たちも教員も、皆が言葉を失っていた。

美琴が慌てて拍手をすると、その音を合図に拍手が波のように広がっていった。


「……氷山くんらしいねぇ」


自身のクラスの列に並んでいた蒼太からふと笑みがこぼれた。


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