第17話「脅迫状が届きました」⑦


静まり返った新聞部の部室。

時計の秒針を刻む音だけが聞こえてくる中、

美月は息をするのも忘れて二人の様子をじっと見守っていた。


固まったままの雅人の視線が、ゆっくりと横に流れる。

だが、蒼太は決して視線を外さなかった。


二人の間で、しばらくの沈黙が続いていた。


「……だぁ~~~~~~~くそ!!!」


雅人が突然、激しく頭を掻きむしりながら天を仰ぐ。


「あかん!喋り過ぎてもうた!!僕の悪い癖や!!!」


頭をフル回転させても言い訳の言葉が出てこなかった雅人は、自分の失態を嘆くように後悔の言葉をまくし立てた。


「なんでや!完璧なシナリオやったろ!桐山くんを甘く見とったわ……さすが探偵部やなぁ!?」


「いやぁ、それほどでも」


蒼太の穏やかな口調が、余計に雅人の苛立ちを煽る。


「……そうや、写真を入れたのは僕や!」


雅人は、投げやりな声で叫んだ。


「涼乃ちゃんが、おもろそうなことしとったから手伝ったろ思うてん。たまたま持っとった写真を入れただけや!ほんまに危害加えるつもりは、全くなかったで!?」


「……事実を伝えるのが、新聞部の仕事でしたよね?」


美月が鋭い目付きを雅人に向けた。


「嘘やない、ちょ~っとトッピングしただけやん」


美月の瞳が、氷のように冷たく光った。


「うわっ、そんな怖い顔せんといて~。……わかったわ。僕の負けや。記事は諦めるわ~」


雅人は肩を落としながら大げさにため息をつき、机に項垂れた。


「ちなみに」


一呼吸置いて、蒼太が口を開く。


「えぇ……まだ何かあるの?」


、氷山くんは君のことに気付いていたよ」


「嘘やろ!?どこにおったん!?」


「……」


蒼太は驚く雅人の顔をじっと見据えたまま、一瞬眉をひそめた。

それを不思議に思った美月が声を掛けた。


「部長?」


「あ、何でもないよ」


雅人の降参宣言により、脅迫状事件はひとまず決着を迎えた。

しかし、まだ一つ大きな問題が残ったままだった。







蒼太と美月は、ようやく探偵部の部室に戻って来た。


「大変な一日になりましたね……」


美月が苦笑いしながら、大きく息を吐く。


「一日の出来事とは思えないほど濃厚だったね~」


蒼太は椅子に深く腰を下ろし、背もたれにゆっくりと体を預けた。


「……脅迫状の犯人はわかったけど、氷山くんを突き落とそうとしたのは長谷川くんじゃなかったね」


天井を見つめながら、蒼太がつぶやいた。


「部長が長谷川先輩に言ったのは、そのことだったんですね」


『あの時、氷山くんは君のことに気付いていたよ』


あの言葉は、雅人が湊斗突き落とそうとした犯人だったのか――

それを確かめるための“鎌かけ”だった。


「あぁ。犯人が彼なら、どこにおった?何て言わないだろうからね」


「それじゃあ、別の人がやったってことですね……」


美月はぎゅっと眉間にしわを寄せ、深刻な表情を浮かべていた。


「何か気になるのかい?」


蒼太が様子を窺うように問いかける。


「探偵が勘の話をするのはどうかと思うんですが……何か前の事件と近しいものを感じて」


「“呪いの本”のことかい?」


美月は目を見開いた後、ゆっくりと頷いた。


「脅迫状の件も正しいとは言えないことですが……それとはまた違う、何か一線を越えたことをしてくる感じが、と似ている気がするんです」


「……僕も同じことを思っていたよ」


沈みかけた夕日が、部室を静かに染め上げていく。


「この件は……必ず、僕らの手で解決させよう」


蒼太の言葉に、美月は力強く頷いた。

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