第15話「脅迫状が届きました」⑤

「そう言う訳で、俺の幼馴染が二人に脅迫状を送ってしまいました。本当にすみません。でも、二人なら許してくれますよね」


湊斗は、とても謝ってるとは思えない仏頂面で、淡々と佐倉と伊勢山に告げた。


「み、湊斗!あの、私が勝手にやったことで、全部私が悪いんです。本当にすみませんでした……!」


涼乃は深く頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。

佐倉と伊勢山は、唖然とした様子で目をぱちぱちとさせた後、顔を見合わせて笑った。


「事情がわかって安心したわ。澪ちゃんと瑠璃ちゃんが無事ならそれでいいの」


「俺も気にしないよ。これで選挙は、問題なく続けられそうだね」


二人は怒る素振りもなく、涼乃たちの謝罪を優しく受け入れた。


「実はまだ問題が残っていてね。手紙に写真を入れたのは、涼乃ちゃんじゃないんだ」


蒼太の言葉に、佐倉たちは目を見開いた。


「え?それじゃあ、まだ別の犯人がいるんですね……」


「生徒会選挙って、こんな物騒だったかな?」


不安気な表情を浮かべる佐倉の隣で、伊勢山は苦笑いをした。


「ただ、目星は付いているんだ」


その場にいた皆が、驚いた様子で蒼太を見た。


「佐倉さん、伊勢山くん。前に話した通り、脅迫状のことは口外してないかな?」


蒼汰の問いかけに二人が頷く。


「はい……心配かけたくなかったので誰にも言ってません」


「俺も同じです」


二人の反応に蒼太が小さく微笑んだ。


「良かった。それじゃあ、この写真を見てくれるかな」


蒼太は、脅迫状に入れられていた写真を皆に見せた。


「伊勢山くんの支援者は二人とも男子生徒だよね。この写真は、その二人よりも上から撮られているんだ。つまり、撮影者は相当人物ということになる」


「そうなると……当てはまる人は限られてきますね」


美月の言葉に、蒼太が頷く。

写真の生徒たちは特別大きくも小さくもなく、平均的な身長であった。

その二人よりも背が高い生徒は、そう多くないだろう。


「それと、画質の良さから一眼レフで撮れらたものだろうね。校内でそれを持ち歩いても怪しまれない人ってなると、更に限られてくるよね」


「えっ……もしかして、新聞部ですか?」


涼乃は口に手を当てながら、蒼太の方をじっと見つめた。


「その通り。うちには写真部もあるけど、この犯人は涼乃ちゃんに近しい人だと思うんだ」


「どうして、ですか?」


涼乃が眉をひそめる。


「犯人は、涼乃ちゃんが佐倉さんたちの靴箱に手紙を入れたのを見ていたんだと思う」


見られていた。その言葉に、涼乃は背筋がぞっとした。


周囲を確認してから手紙を入れたはずなのに……

涼乃は、自身の鼓動が早くなるのを感じていた。


「それに便乗して、後から写真を入れたんだろう。でも、もし見ていたのが涼乃ちゃんを知らない人なら、靴箱の前で何かをしていても特に気にならないと思うんだ」


蒼太の言う通り、ただ靴箱の前に生徒がいる様は何もおかしなことはなく、普通なら目に留まらないだろう。


「でも、涼乃ちゃんを知っている人なら気になったはずだ。“2年生の靴箱の前で何をしてるんだろう”って」


蒼太の推理に、涼乃たちは目を丸くした。


「カメラを持ってても怪しまれないうえに、涼乃ちゃんに近しい人物――」


蒼太は小さく息を吸い込んだ。


「そう、新聞部だ」







蒼太と美月は新聞部の部室で、ある人物と対面していた。


「自分らが探偵部?噂はよう聞いとるで~。何や、情報が欲しいんなら、そちらさんも聞かせてや」


新聞部部長の長谷川雅人はせがわまさとは、すらりとした長い足を組み替えながら、細く吊り上がった目を三日月型にさせた。

その瞳は、人を値踏みしているかのように鋭くこちらを窺っていた。


「もちろん。今一番盛り上がってる話題で相談があってね」


「お、ええやないの!今一番っちゅうたら、生徒会選挙やろ?」


「ご名答。さすが新聞部部長、察しがいいね」


二人が声を立てて笑う。

一見和やかな談笑に見えるが、空気が微かに張りつめていた。


互いに探り合いをしている―― 

美月は、静かに二人の様子を窺った。


「実は、候補者宛に脅迫状が届いたんだ」


「ほぅ……そらまた、えらい物騒やな」


雅人に驚いた様子はなく、まるで既に知っていたかのような反応であった。


「そこでね。立候補者とトラブルがありそうな人物を教えてもらいたいんだ」


蒼太の表情が真剣になった。


「うーん……あの二人と揉めたっちゅう話は、正直聞いたことないなぁ」


雅人は腕を組みながら、考え込むように目を閉じた。

蒼太は、そんな雅人の様子をじっと見つめていた。


「そうなんだよね。ところで、脅迫状の話、あまり驚いていないようだけど、もしかして知ってたのかい?」


「いや、知らんかったよ。ただ、自分らが“選挙のことで相談”言うた時点で、何となく想像付いてたわ」


「なるほどね。でも、どうして届いたってことまで、わかったんだい?」


蒼太がにこりと笑うと、雅人は細い目を大きく見開いた。

その顔からは、笑顔が消えていた。


二人の間で沈黙が流れる。

ほんの数秒の出来事だったが、張りつめた空気のせいか、美月にはとても長く感じられた。


「それが、桐山くんのやったんなら、ご愁傷様やな」


雅人の細い目が、再び三日月を描いた。


「……どういうことかな?」


蒼太は微笑みを浮かべたまま、静かに問い返す。


「嘘ついてすまんけど、実は脅迫状のことは、志穂ちゃんから聞いとったんや」


「南さんに?」


蒼太は、わずかに眉を寄せた。


「せや。自分ら屋上で何やら楽しそうにしてたやろ?新聞部ぼくらがそれに気づかんわけないやん」


どうやら新聞部は、屋上で起きたことの一部始終を目撃していたらしい。

ゴシップに関してさすがの嗅覚である。


「気になって話聞いてみたら、せーんぶ話してくれたわ」


雅人が楽しそうに唇を歪ませる。


「他言しないでって言ったんだけどな~」


蒼太は頭を抱えながら、小さくため息をついた。


「女子に秘密は無理やって。あの子ら空気より口が軽い生き物やで?あ、美月ちゃん睨まんとって。冗談や、堪忍な~」


美月が眉をひそめると、雅人はヘラヘラと笑いながら、なだめるように両手を軽く挙げた。


「ただ、志穂ちゃんに記事にしたら殺す言われて困っとてん。せやけど、桐山くんから確証取れたおかげで問題なくなったわ」


椅子をくるりと回して立ち上がると、雅人は愉快そうに笑いながら言った。


「桐山くん、ありがとな~」


三日月のように吊り上がった瞳は、蒼太を静かに見下ろした。


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