フランネル
翌日、ベルギアは夜遅くにまた家を出た。理由はもちろんあの男に会いに行くためだ。
初対面で生まれも育ちも、名前すら知らない男にこんな夜に会いにいく11才など周りからしたら犯罪臭が充満しているだろうが、そんなことは関係ない。
彼女の恋心は誰にも止められない。
…だが、無謀にも挑戦者がいるようだ。
「あ、きみ!こんな夜遅くに村から出るなんて!親御さん…は寝てるか。あーとにかく、子供一人で出ては行けない!見張りとしては見過ごせない!熊が出るかもしれないし向こうの桜の木なんて」「おどきっ!」
「うおわっ!あっちょっ速ァ!」
もちろん勇気ある挑戦は無謀に終わり、ベルギアはとんでもない速さで桜の木に向かっている。
見張りは「そっちはダメだって!」と注意しているが、その叫びは虚しくも届いてはいない。
「おーーーいっ!きーましったよっ!」
返事は無い。だが微かにカサカサと音が聞こえるからいることは分かる。
「出てこないつもりなら、こっちにも考えが…あ、こんばんわぁ!」
「………」
「あはぁまたお会いできて嬉しいです!」
なかなか出てこないので軽く脅してみればすんなりと出てきた。今まで木に登っていたようだ。
「…何しに来た」
「会いに来たんですよ当然」
「俺に、か」
「あなた以外にいないでしょうよ」
「…なんで来た?」
「だって好きな人には毎日会いたくなるんですよ!惚れた弱みですね!」
「……」
彼はベルギアにまるで寝る時に耳元で飛ぶ蚊に向けるような眼差しを向ける。
だがベルギアはスルーして足元に生い茂る花々に目を向けた。
そして座り込んで平然と花について彼に話し始める。
「あ、四葉のクローバー。ラッキーですね。
ちなみにクローバーには『私を思って』って花言葉があるんですよ。あげます」
「いや、いい」
「そうですか…あ、ペニチュアまで。いやあ、こんなたくさんの花が1箇所に集まってるの相当レアですよ。」
「…(早く帰んないかな)」
「あら、これフランネルフラワーですね。
開花時期が長くてしかもめっちゃ綺麗だから大好きなんですよ。あ、いります?」
ベルギアが『フランネルフラワー』と言った時、彼が少し反応した。
そしているか聞かれた時、また反応した。
「どうしました?気に入りました?」
「……いや、名前…」
「え、フランネルフラワー…あー!察しのいい自分気づいちゃいました!お名前が…『フランネル』とかですか?』
「…うん」
「あらではあげましょう!花言葉も、『高潔』なのでピッタリですね!」
「……あ、いや、別にいらな」「どうぞ」
「…ああ」
「いやーそれにしてもいい名前ですね。フランネルさんですかー、もう初めて会った時、まるで花の妖精がいるのかと思っちゃいましたよ!」
フランネルが何か言いたげにベルギアを見る。そして、こう話しかけた。
「あんた、なんにも聞かないんだな。」
「え?」
「昨日だって、年齢言っても何者なんだとか聞いてこなかったし。246歳って人からすれば異常なんだろ?なのになんできにならない?」
「気になりますけど、特にわざわざ聞くような事でもないですよ!あと人じゃないんだろうし異常でもないじゃないですか」
「そもそもなんでそんな惚れたんだよ…?見た目が人なのに人じゃない偽物なんて、気持ち悪いんだろ?」
「美しい物は好きなので。」
「だったら、なんで不気味で気持ち悪い偽物に声をかけるんだ。……可笑しいだろ…」
「あたしにとっては綺麗に見えたから。それだけです。」
フランネルは動揺した。
こいつは昔会ってきた人間とは全く違う。自分が知ってる『人間』じゃない。
自分たちを超えている自分たちそっくりな『何か』を気持ち悪がるのが人間では無い?
しかも"自分にとっては綺麗"と言うんだ。
おかしい。どう考えても。
「何か変なこと言いました?他のやつがどう思っても、あたしは綺麗だと思いますけどね。不死の美人なんて儚いですよね!」
「…そう、か」
フランネルが少し心を開いた…?
かもしれない
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