悲報、勇者の俺が魔王を倒し束の間の平方を手に入れたと思ったら女神に良くわからない世界に放り込まれた件
田んぼに落ちた
プロローグ
獣の様な唸り声が数多に響き、鉄を打つ音、強烈な炸裂音。
辺りが業火に包まれ、瓦礫が空から降り注ぐ廃墟の広場で、一体と一人が相対していた。
「なぜ、何故貴様は立ち上がるのだ勇者ッ!! 貴様の仲間は既に倒れているッ!! 勝ち目など塵程もないのだッ!!」
漆黒の装甲を身に纏った爬虫類を思わせる化け物は吊り上がっている口を広げ叫ぶ。
「うるせぇんだよ……。テメェの目は節穴か? 俺の仲間が倒れてる? その目に何写してんだ。よく見やがれ! 倒れてねーんだよ。今も俺の背中を支えてんだよ……! だから、さっさとかかってこいよ。勝ち目が塵かどうか見せてやるよ」
対して勇者と呼ばれている男は鎧は破壊され、全身を血に染めていた。
が、その瞳に自身の敗北は写っておらず、ニヤリと笑みを浮かべながら自身の刀を相手に向ける。
砂利を踏み締める音が微かに聞こえた瞬間、互いが互いの名を雄叫びに変えて刀と牙が真っ直ぐにすれ違う。
勇者は肩が抉れ鮮血が吹き出し、化け物は胸からドス黒い血を流し笑みを溢した後その場に倒れ伏した。
「先生……。俺、約束守れたぜ?」
勇者は頭上を見上げ、静かに涙を流した後意識を手放した。
*****
「って感じでかっこよく魔王倒したのになんで目の前にお前がいるの? なんで知らん世界に行かなきゃいけないの? 」
「いたたたたっ!? 痛い痛い!? いや、ほら! 魔王倒しましたし!? 平穏な世界でエンジョイして欲しいなって!!」
暫くして目を覚ました勇者はこめかみに青筋を浮かべながら女神と呼ばれている女性の前頭部を片手で掴み、力を込めながら左右に揺らす。
「エンジョイしてんのはお前の頭ね!? 起きてからクラッカー鳴らされて急に知らない世界に行けって言われてエンジョイ出来る訳ねーだろうが!! 」
「待って待って!! 元いた世界より技術とか発達してますし! 今なら女神ガチャ引けますよ!? お得ですよ!?」
女神は自身の前頭部を掴んでいる腕を軽く叩いていると、真横に丸いカプセルがぎっしり詰まった等身大の筐体が現れた。
「んだこれ……。丸いのなんだ。つーか、女神ガチャってなんだ」
「いったいなぁ…。あっ、いえ、なんでもないです! こちらの機械はハンドル回すと丸いカプセルが出てきてNからURまでの武器が一つランダムで一つ出てきます!」
勇者が手を離すと、女神が不満そうな表情しており睨んでやるとペラペラと筐体について説明しだした。
「…‥いや、普通に武器渡せばよくない?」
「いや、それだと公平性に掛けるとのことで、去年、天界法が代わりまして……。こうしないと、罰せられちゃうですよねぇ」
照れ笑いを浮かべる女神を引っ叩くのを勇者は我慢し、無言でガチャを回した。
何故回したかといえば、天界に連れ去られた時点で帰れないことは察したからだ。
「これこう開けんのか? ん? こいつは……Sって紙に書かれてんだけど? つーか、なんで俺の武器がすでにラインナップされてんの?」
「あー、Sは下から二番目ですねー! でもまあ、使い慣れてますし、ある意味ラッキーじゃないですか?」
勇者が手にしたカプセルを開けた瞬間、勇者時代から使っていた刀が姿を表し、ひらひらとSと書かれた紙が床に落ちた。
「おい、なに無視してんだ。お前最初からこれ渡す気だったろ絶対。おい、こっち見ろや」
「知りません。……それよりも、こちらが向こうの世界の彼方です。これから彼方には入れ替わっていただきます」
「あ……? なんだこの豚饅頭? つーか、別世界の俺死んでね? なんか毒殺されてね?」
誤魔化す様に渡された書類に少年が写っており、ひどく肥えていた。
その肥えた少年がベッドの上で白目を剥き泡を吹いて倒れている。
「正直に言ってしまえば、この少年を彼方だとは思いたくないですが、間違いなく別世界の彼方なんですよねぇ……。まぁ、頑張ってください! 彼方ならなんとかなります! 」
「いや、おもっくそ他殺だろーが!! なにしたら殺されるんだ! つーか、太りたくないんだけど!?」
「あ、そこは大丈夫です! あくまでも転移なんで! 向こうの処理はこちらでしとくんで! こっちで応援してるんで!」
ふざけんなと怒鳴ろうとした瞬間、目の前に仮面を付けた集団と目が合った。
「……は?」
「何者だ貴様!? どこから現れた!!」
そもそも、場所が違った。
ベッドにローテーブル。壁には肥えた少年が偉そうに笑っている自画像が額縁に収まり飾っていた。
−−これ、敵前に転移させられてね? え? アイアンクローの恨みかな?
勇者は冷や汗をかきながらも瞬時に抜刀し、柄をしっかり握り腕をまっすぐ伸ばして仮面の腹部に向かって突き出す。
ガード出来ずに仮面の1人が吹っ飛び、勇者はそのままベッドを蹴り体を勢いよく前方に飛び出させ、仮面2人をすれ違い様に刀を左右に振り切り意識を刈り取る。
「なっ!? 早すーー」
仮面達が焦るも何も出来ず1人また1人と倒れていく。
「てめぇで最後だな? おら、警備隊につきだしてやっからな、舐めやがって」
「貴様は何者なんだ……。貴様の情報なんてなかった」
「テメェらが殺した男、クランだよ。情け無さ過ぎて化けて出ちまったよ」
勇者、クランは仮面が割れ、素顔を曝け出した最後の1人、女の喉元に突きつけた。
わずかに触れれば血が滲む距離だ。
「ありえない、確実に殺したはずだ……。いや、止めよう。この様な事を貴様に懇願するのは恥だが頼みがある。私はどうなっても良い……。部下達は見逃して欲しい」
「あ? 人様のこと殺しておいて見逃してくれなんざ通用するわけないだろうが」
「……我々が敗れた時点で任務は失敗している。そして、私に至っては素顔を貴様に見られ、貴様は私の素顔を見ている。このままでは私も貴様も蛇に処理されることになる」
−−蛇? なんだそりゃ? というかなに? 今後狙われるってこと?
クランは深いため息を吐きながら刀を鞘に戻した後、その場に胡座をかいた。
「……わかったよ。とりあえずテメェの仲間は帰しても良い。結果は変わらなそうだしな。
だから、お互い腹割って話そうぜ」
「済まない、恩に着る」
女は頭を下げた後、その場に座った。
お互い生き残る為に話せることは全て話す。
クランは自身が何者なのか。どうやってここに来たのか。
女は何故殺しに来たのか。蛇とは何か。
そしてこの世界のクランの家族構成。
それらを2人で真面目に話合った結論は−−
急に変貌したクランのことを家族にどう説明しようかだった。
悲報、勇者の俺が魔王を倒し束の間の平方を手に入れたと思ったら女神に良くわからない世界に放り込まれた件 田んぼに落ちた @matudadesu
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