第2話 「作戦会議にて」

 俺と章はあのあとすぐに俺の家に帰った。


「ただいま〜。…まぁ誰もいないんだけどな」

「おじゃましや〜す」


 俺は地元の中学校を卒業した後、すぐに実家を出て一人暮らしを始めた。別に親のことが嫌いなわけではなかったのだが、いかんせん地元よりかなり離れている高校に進学したため迷いに迷った結果アパートを借りて高校の近くに住んでいるのだ。


「いや〜、いつ見ても壮観だわ。お前の趣味全開の部屋」


 章は何回も俺の部屋に来てるのに部屋を見渡して言う。

 それもそうだろう。俺の部屋には中学1年のときにどハマりしてしまった。アメリカ、日本のHIP-HOPのレコード、CDディスクが大量に山積みにされているのだ。


「じゃ、麦茶でも用意するから適当に座ってて」


「麦茶に媚薬仕込むなよ!!」  「仕込まねぇよ!」


 このやり取りも慣れたものだ。章が下ネタを言い、俺がツッコむ。

俺達に女の色という物が全くないのはおそらく、いや、絶対にこのせいだろう。


「ほらよ、ありがたく受け取りやがれ」


 章に麦茶を差し出す。


「あぁ、憂様ありがとうございやす。へへッ。ありがてぇありがてぇ」


 とんだ猿芝居だ。きっとアカデミー賞も取れないだろう。

茶番はさておき、俺が本題を切り出す。


「早速本題に入ろう。章、例の生徒の情報を一旦まとめよう」


「例の生徒、本名は守谷もりや さち。俺らと同じく高校二年生になったばかりで今日Bクラスに転校してきた。髪型はロングでメガネをかけている。おそらくクラスでは目立たない方。雰囲気的に文学少女っぽい。そしてお前が狙っている…ざっとこんなもんだな」


「でかした章、情報はあればあるほど有利だ」


「さて、これからどうしたもんかね。あの転校生ちゃんは多分ガードが硬いと思うぞ」


 一見、章の言っていることはよくわからず『お前何言ってんだ』と思いたくなる気持ちもわかるが、俺はこう見えても案外こいつを買っている。

 メガネの奥に見える目は何も考えていなさそうな感じを醸し出しているがそんなことはなく、こいつは【人を見る目】があるのだ。だからこいつの言っていることは適当っぽく聞こえても確信をついていたりする。


「やっぱり章から見てもそう思うか」


「あぁ、真面目ちゃんってのは押しに弱いタイプもいるが多分転校生ちゃんは違う、ここはしっかり信用関係を築いてから押しに行くべきだ」


「信頼関係…って言ってもどうやって作るんだよ」


 俺達は二人して「うーん」と唸って考え込んでしまう。ここで俺達二人の致命的弱点ができてしまった。

 そう、俺達二人は全く持って女性経験というものがないのである。いつも男の友達としかつるまないため肝心なもの女性関係に非常に苦労するのだ。


「メガネ、ロングヘアー、文学少女っぽい…」


 頭の中でまだ見ぬ思い人の特徴を考える。文学少女…文学…本…俺の中に一つの天才的な閃きが思いついた。


「章、思いついたぞ…天才的っ、悪魔的発想ッ」(ZAWA…ZAWA…)


「なんか聞いたことあるような効果音が聞こえて来るな…で?何なんだ、天才的案ってのは」


「だいたいどこの学校にもあるよな、委員会って奴が」

「おう」


「そしてうちの高校は図書委員会って物があるよな」

「…おう」


「あくまで、確定しているわけじゃないけど、転校生は文学少女っぽい、本が好きそうなんだよな?」

「あぁ」


「ここまでくれば簡単だ家の高校は各学年2クラスしかない。そして図書委員は各クラス一人までだったず。…ここまでくればわかるだろ?」

 

 ようやく章も察しがついたようだ。


「なるほど!Aクラスの枠をお前が取ってBクラスの分を転校生ちゃんが取れば…!」


「そう、俺は転校生ちゃんと合法的に関係を持つことができる!」

「お前流石に天才だわ!」


 俺達はその場で熱抱擁を交わした。

 よくよく考えて見るとこの計画も穴だらけで、転校生ちゃんは図書委員で確定したものとして話を進めていたが、転校生ちゃんは別にどの委員会を選ぶかは分からないわけで。幼稚と言われれば頷くしかない。

 だが俺はすがるしかなかった。うら若き童◯にはこれしか考えられなかったわけだ。



「またな、憂。委員会を決めるのは明日だ。気ぃ引き締めていこうぜ」


 作戦が決まったあと、少しゲームをしたあと章とはお別れの時間となった。

 章を玄関まで送ろうとすると急に章がこんなことを聞きだした。


「なぁ、憂」

「どうしたよ急に」


「急にこんなこと聞くのもおかしいと思うけど…なんで転校生ちゃんのことそんなに気に入ってるんだ?まだ顔も見たことないんだろ?」


 言葉が出なかった。初恋がバレるのが恥ずかしいのか、転校生が初恋の人だという仮説に縋る自分が急に滑稽に見えたのか。わからなかったが、俺はただ口を少し開けかけただけで空虚な息が出ただけだった。


「…ま、別に言いたくないなら大丈夫さ。だけど何かあるんなら俺も頼りにしてほしい。…俺ら親友ダチだろ?じゃあな。また明日」


 そう言うと章は俺の家を出ていった。

 その後しばらく俺はそこを動くことができなかった。


 






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本とイヤホン、そして甘い夢 たて牌ずり @king_jarule

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