第1話 「いつかの思い出」

 「…い。…う。……きろ。…おい、おいユウ、起きろ」


 懐かしい夢を見ていた途中、起こされた。不快だ。


「やっと起きたか、Good morning,憂くん♡」


「…ホモでもないのに野郎に猫なで声でモーニングコールされるのは厳しいものがあるぞ、アキラ


「せっかくの午前授業なのに3時間目終わったあとそのまま放課後まで寝続けるお前が悪い」


「…面目めんぼくねぇ」


 俺こと小鳥遊たかなし 憂は至って普通の男子高校生だ。年齢は17歳、趣味はHIP-HOPとラップ。そして俺の眠りを妨げてきたこの男は五十嵐いがらし 章、強いてこいつの特徴を上げるとするならばクソメガネ野郎、変態ぐらいだろう。


「おい憂、そろそろちゃんと寝たらどうだ?お前また笑いものにされてたぞ」


「言わせとけ言わせとけ。それよりとっとと帰るぞ」


「おうよ」


 そして帰宅中、章が面白いことを言い始めた。なんでも、隣のクラスに転校生が来たらしい。


「へー、転校生ね。どんなやつが来たんだ?」


「いいか、よく聞け。転校生はな…」


 章が緊迫感のある声色で言う。


メスなんだよ」


 俺はそんなことかよと思いため息をつく。


「あっ、お前今クソしょうもないなって思ったろ。顔に出てるわ」


「あのなぁ章、女って書いて『メス』って言うのやめといたほうがいいぞ?そんなだから男の友達しかいないし童◯だし彼女いないしましてや女子でまともに話せる友達すらいないし「よくない」えっ?」


 俺の口から出た機関銃のような口撃に章が被せてくる。


「言い過ぎちゃう?俺泣くよ?」


 流石に俺による真顔の事実陳列口撃に耐えられなかったのかシュンとしてしまった。


「…悪かったよ。で、改めて転校生ちゃんはどんなやつなんだ?」


 立ち直った章が今度は俺の質問にちゃんと答える。


「そうだな…お前が寝てるときに見に行ったけどよ。うーん…。THE 文学少女だったぜ」


「と言うと?」


「髪型がロングでさ、メガネかけてるみたいな。教室の隅っこで本読んでそうな子だったぜ」


 なるほど、よくいえば文系の子、悪く言えば陰の者ということか、と転校生のことが段々とわかってくる。

「で、その文系ちゃんはなんて言うんだ?」


「何だったかな…確か…『守谷もりや さち』だった気がするな」


 歩くのを止める。


 俺の中に衝撃が走った。急に地震の警報がなったときのような、ドキンと自身の胸がなったのがわかる。

俺は、その子の名前を知っている。いや思い出したんだ。守谷もりや さちその名前は俺の記憶違いでもなければ、俺の夢に出てくる、女の子の名前、俺の初恋の人。


 俺は章が話しかけてくれるまで、物思いに耽ってしまった。


「………い…おい。大丈夫か?」


 意識が現実に戻って来る。


「お、おう。で、どうしたんだ?全然お前の話聞いてなかった」


「お前なぁ…だから!お前はその子狙うのか?」

「え?」


「いやまぁ俺は真面目ちゃんよりもギャルみたいなさ、キャピキャピしてる感じの子のほうがタイプだし、セ◯レでも彼氏でも何でもいいから足◯キしてもらってその後縦パ◯◯リしてもらってそのまま騎乗位で◯てもらいたいなとは思うけどさ、いや真面目が悪いわけじゃないけどギャルのほうが俺的にはすごく何だろう、心とか体のいろんな所が昂ぶってきちゃうなって、俺の一押しは俺らのクラスのナンバーワンカーストギャルに位置する「狙うよ」」


 章の魂の語りを無視し、俺は覚悟を決めた。ようやく、会えるかもしれないんだ。

そして、今度こそは、俺のあのとき言えなかった思いを伝えようと。


「お前、文系っぽい子がタイプだったんだ‥新たな発見だわ」


「言っとけ。章、お前今日暇だよな」

「お、おう」


「俺の家行くぞ。何するかはわかるよな?」


「まさか家に連れ込まれてえっちなこ「違うわ」ゴメンナサイ」


 章の下ネタボケを交わしながら俺は言う


「作戦会議だよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る